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23.悪役姫は、初めてに浮かれる。

 旅行とはその行き来の移動も含めて楽しむものなのだとアリアは今まで思っていた。

 が、その概念を覆す帝国の技術にアリアは素直に感動する。

 小説では時渡りの乙女である聖女ヒナが魔獣討伐に行く際の移動手段として何度も出てくるので知識としては知っていた。だが、実際の使用は今世が初めてだ。王城の最上階にある祭壇に描かれた魔法陣に立ってから目的地まで、本当に一瞬で到着した。


「転移魔法すごいっ。ピンクのドアだったら完璧だった」


「なんでピンクのドアなんですか? あと姫様はしゃぎ過ぎです」


 もう一回やりたいとキラキラした目ではしゃぐアリアの事を嗜めながらも、気持ちはわかりますとマリーは同意する。

 基本的に移動は馬車なのでどこに行くにも時間がかかる。それが首都から国の端まで一瞬なのだ。初めての体験に感動しないわけがない。


「行きたくなさそうだったわりに、転移魔法ぐらいで喜ぶとは姫はお手軽だな」


 そんなアリアを見て琥珀色の瞳は揶揄うような視線を寄越す。ロイと目の合った淡いピンク色の瞳は不思議そうに丸まった。


「何か言いたい事でも?」


 心なしかロイがいつもより上機嫌に見え、アリアは更に首を傾げる。


「いえ、ただ離宮に来られる時と口調が同じままだったので。親睦を深めたいとの事なので、てっきり仲良しアピールでもしたい方がいるのかと思いまして」

 

 過去の今時期はキルリアの王族と縁続きになったことを使ってロイが親交を結んでおきたい相手と会合する際に同伴させられた記憶があるので、わざわざ離宮から連れ出すなんててっきりそれだと思っていた。

 だというのに、ロイの様子は離宮にアリアを尋ねてくる時と変わらず、対外的に見せる皇太子のロイとは異なるように思う。

 1回目の人生ではその区別もつかなかったが、その差が分かる程度には今世ロイと交流を重ねていた。


「なるほど、仕事だと思ったのか。でも今回はプライベート。言っただろ? 姫と親睦を深めたい、と」


 読めない琥珀色の瞳を見ながらアリアはさらに訝しむ。その言葉を素直に受け取って喜べるほど今のアリアは浮かれていない。


「そう、ですか」


 警戒心を滲ませるアリアの事を見て満足気に笑ったロイはアリアに近づくとかなり近い距離でその淡いピンク色の瞳をじっと見つめ耳元で囁く。


「顔に出し過ぎなのは頂けないが、いい眼だ。沢山疑って、細かに観察し、思考を巡らせ、色んな事を知るといい。そうすれば自ずと物事の見方の感度が上がる」


 ロイの言葉に背筋がぞくっとし、アリアは耳を押さえて琥珀色の瞳を見返す。

 そんなアリアを見たロイは一瞬で態度を切り替えてキラキラとした紳士的な笑顔を浮かべ、アリアに行きましょうかと腕を差し出す。

 その腕を取って歩きながらアリアは思考を巡らせる。この人は一体私の事をどうしたいのだろう、と。

 きっと今の自分などロイにとっては掌で転がすのも容易い取るに足らない存在だ。そうしておいた方が扱いやすいだろうに、まるで知恵をつけさせて育てようとしているみたいだ。


(何故かしら、お父様やルシェお兄様を思い出すわ)


 キルリアの王城にいる父や王太子である長兄の姿を思い描いたアリアは、人種としてはロイもあの人たちと同類かと納得する。

 今のアリアでは決して敵わない尊敬と憧れの対象。


(ロイ様から離縁状をもぎ取るには、そのレベルまで上がらないと無理なのかもしれない)


 ヒナが来るまで1年を切っている。各地で魔獣の暴走がチラホラ見られ、ロイに会うのが難しいほど彼が忙しくなるまで約半年。

 それまでに、そんな自分になれるだろうか?

 不安に思う一方で、そうなりたいと願う自分がいる。

 それは、初めて魔剣荊姫に選ばれた日のようにワクワクするほど心が惹かれた。


 正直なところ、アリアはロイが今回新婚旅行と言ったこの遠出に全く期待などしていなかった。

 が、今アリアはキラキラした目で本日の宿泊施設を見ている。


「お、温泉だぁーー!!」


 アリアが連れて来られたそこは日本の旅館のような佇まいの宿だった。

 世界観どうなってんの? なんてツッコミはこの際どうでもいい。

 部屋こそ洋室の造りになっていて畳はなくベッドだったが、窓から見える庭園は2回目の人生で旅行したときに見た景色を彷彿させた。

 備え付けの浴衣に下駄、硫黄の香り漂う露天風呂と室内風呂に加えて部屋にも小さな温泉付き。

 これは、食事は和食で米が出るんじゃないかとアリアの期待値とテンションは爆上がりだ。


「うわぁ、やばい。感動し過ぎて手が震えて来た。とりあえず温泉! それからお庭を浴衣で散策して、夕飯はお部屋でゆっくり食べたいなぁ。お風呂2回はマストね」


 ハイテンションなアリアに対して不思議そうに部屋の装飾品や浴衣などを見ていたマリーは、


「不思議な所ですね。何もかも見た事がないです。姫様、だいぶ素が出てますよ。というか、姫様はいつ温泉? と言うものを知ったのです?」


 と冷静だ。その言葉にアリアはまずい、と我を取り戻す。

 2回目の人生で旅行好きで女ひとり鄙びた温泉めぐりしてたとか、実は和食が恋しかったとか、温泉に来たなら卓球やりたいとか、そんな自分をマリーが知るわけがないのだ。


「ええーと、夢のお告げ的な?」


「別にいいです。姫様は嘘が下手なので、私にまでわざわざ嘘をつく必要はありません」


 上手い言い訳が思いつかなかったアリアに、マリーはクスッと笑いかける。


「姫様がそうだと言うのならそうですし、全部を話す必要もありません。ただ、マリーはいつでも姫様の味方だと知っていてくれたらそれでいいです」


「……知ってる。ずっと前から、知ってるわマリー」


 1回目の人生で道を外してしまった時身を挺して諌めてくれたのも、最期まで味方でいてくれたのもマリーだった。

 1回目の人生で彼女を守りきれず、手を離してしまった自分を思い出し、アリアはマリーの手を握る。


「マリーいつもありがとう。私はマリーのことを一番信頼してる。親友であり、戦友だと思ってる」


「急にどうしたんですか? 姫様」


「言える時に言っておかないと後悔する気がしたの。ねぇ、せっかくの機会だもの、一緒にお風呂に行きましょ」


 アリアは心から楽しそうに笑い、マリーを誘う。


「いけません、姫様。私は一介の侍女です。キルリアでは黙認されてましたけど、流石に自国を出て嫁がれた以上は」


 嗜めるマリーの言葉を遮って、アリアはさらにマリーに願う。


「いいじゃない。だって、今は自由時間で離宮みたいに他の使用人の目もないし。キルリアにいた時みたいに、マリーと仲良くしたい」


 そう淡いピンク色の瞳に請われては、マリーとしては断れない。

 失礼を承知で言えば、幼少期からずっと仕えてきたこの姫をマリーは妹のように思っている。

 加えてリベール帝国に嫁いで以降塞ぎがちだったアリアが、本来の彼女らしく天真爛漫にはしゃいでいるのだ。


「仕方ないですね。今回だけですよ」


 ため息交じりにアリアの願いを聞き入れたマリーを見て、アリアの顔がぱぁっと明るくなる。


「じゃあ早速準備して、温泉にGOよ」


 姫様私が、とマリーが制止するより早く、アリアは身支度を整えはじめてしまった。

 やれやれ、とその背を見ながらこんな風にアリアが彼女らしく過ごせることを喜ばしく思う。

 そして、そんな日が一日でも多くある事を願わずにはいられなかった。

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