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22.悪役姫は、変化に戸惑う。

ランキング16位ですって!本当に有り難うございます♪

「新婚旅行、ですか?」


 アリアは訝しげに眉を寄せ、ロイの発した単語を繰り返しながら彼の表情からその意図を読み取ろうとする。


「素直に好意として受け取って欲しい、と言いたいところだが、そうしないあたりに姫の成長を感じるな」


 行きたくないという心情を隠す事なく全面に押し出すアリアに対し、


「でも今回は純粋に姫と親睦を深めようと思って時間を空けたのだから、付き合ってくれるだろ?」


 ロイは口角を上げて意地悪く笑い、アリアのサイン入りの誓約書をチラつかせる。


「私が狩猟大会で負けた代償。殿下からのお願いが、旅行への同伴ですか? 一体何を企んでるんです?」


 淡いピンク色の瞳はなおじっと訝しげに琥珀色の瞳を見つめる。


「さて、なんだと思う?」


 そんな視線を真っ向から受け止めたロイは、とても楽しげにそう言ってアリアの手の上にフリージアの花を一本載せた。


 結婚して早3ヶ月。アリアは離宮での生活にすっかり慣れ、割とゆったりとした毎日を過ごしていた。

 1回目の人生の記憶の中では、今時期はいくつか小さな公務に付き添ったり、帝国淑女らしく沢山のお茶会に呼ばれて中身のない時間を過ごしていたはずなのだが、びっくりするくらい誰からも呼ばれない。

 どうやら狩猟大会での振る舞いで帝国の紳士淑女の皆様から顰蹙(ひんしゅく)を買ったらしく、皇太子妃としてのアリアの評価は氷点下。

 その上皇太子妃でありながら騎士達を惑わせ誘惑しているなどと身に覚えのない中傷まで出回っており、本館と行き来する機会のあるマリーがブチ切れ寸前だった。

 離宮にいてさえそんな言葉が漏れ聞こえてくるのだから、そんな妻を持ったロイの心情を思えばアリアのことを遠ざけても良さそうなのに、狩猟大会の後処理以降何故かずっとロイの離宮訪問が続いている。そして必ず花を一本持ってきて、アリアの手に載せるのだ。


「殿下、暇なんですか?」


 そんなわけはないと分かっているのだが、あまりにも頻回に来る上、旅行しようなんていうものだから思わずアリアはそう尋ねる。


「姫が凹んでるんじゃないかなーと思って、わざわざ見に来てあげてるんじゃないですか?」


 爽やかにそんなことを宣うキラキラと後光でも差しそうなロイの素敵な笑顔を見て、アリアはチッと舌打ちをした。


「遠慮がなくなってきたな」


 そんなアリアを見て、ロイの琥珀色の瞳が愉快そうに笑う。


「殿下相手に猫かぶるのがバカらしくなっただけです。別に、殿下も私と根比べしたいわけじゃないでしょ?」


 ため息交じりにそう言ったアリアは手に持っていたフリージアの花に視線を落として、花言葉を思い浮かべる。

 親愛、友情、期待、感謝、純潔と並べさてどの意味かしら? と内心でつぶやいた。


 アリアは目の前で紅茶を優雅に飲むロイを見ながら、人間どんな事にも慣れるんだなと、自分の順応性の高さに感謝する。

 今は時系列的には小説の本編開始前で、回想シーンで出てくる重要なワード以外は1回目の人生の自分の記憶だけがほとんど頼りなのだが、こうも違ってしまってはそれさえ当てにできない。


 アリアは自分の分の紅茶を口にしながら1回目の自分を思い出す。

 1回目の人生ではこの時期ロイに会える日だけを楽しみに、必死で慣れない帝国のマナーや皇太子妃教育を頭に詰め込んで、帝国の淑女に必要だという刺繍やお茶やお花やテーブルセッティングなんかをやり込んだ。

 今までずっと剣を握る事しか知らなかったその手で、この身体で、求められる淑やかさを身につけるのはかなり骨が折れたし、辛かった。

 そんな忙しい毎日をアリアは送っていたわけだが、もちろんロイも随分忙しそうだったと記憶している。

 食事を一緒に取ることも難しく、夫婦の寝室で一人で寝る日も多かった。

 ロイに会えなかった分想いは募ったし、偶然でも見かけたらそれだけで胸が高鳴った。

 あの頃のアリアはただ本当にロイに会いたくて堪らなかった。だというのに、不思議なものだと今世のアリアはそう思う。

 ロイに会えば、言葉を交わせば、その機会が多ければ多いほど、ロイを慕う気持ちが膨らんで自分ではどうしようもないレベルで彼を好きになるのだと思っていた。でも実際には、会う機会の少なかった過去よりも頻回に会える今の方がずっと気持ちが落ち着いている。

 少なくともロイを見るだけで心音が早鐘の様に鳴ることも胸を占めるときめきも今のアリアにはなかった。

 かと言って、別にロイの事が嫌いになったわけでもどうでもいいと切り捨てられるほど無関心になったわけではない。

 ただ、ロイ・ハートネットとは何者なのか? その為人が知りたい。

 フレデリカのアドバイス以降そう思うようになってからだろうか? まるでアリアの心情を察したかのようにロイの自分に対しての態度が変わったとアリアは感じている。

 具体的には砂糖菓子のように甘い優しさや気遣いが一切なくなった。そしてそれを不快に思うことも不満に思うこともなく、むしろ好ましいとさえ思う自分がいる。

 この気持ちの変化に一番戸惑っているのはアリア自身だった。


「それで、旅行先なんだが」


「拒否権はないんですね。承知しました。付き合う代わりにその誓約書の破棄を要求します。あと、部屋は絶対別にしてくださいね。他人がいると寝付けないんで」


 別に行き先なんてどうでもいい。そんな態度のアリアに嫌な顔ひとつしないどころかおかしそうに笑ったロイは、


「じゃあ当日までのお楽しみという事で」


 そう言って今日の面会を切り上げていった。

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