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19.悪役姫は、約束を胸に抱く。

 アリアが目を覚ました時には、狩猟大会はすでに閉幕しており、その後の会談で城内は慌しい日々が続いているらしかった。

 とはいえ皇太子妃としての公務を終えたあとのアリアが会談に呼ばれることはないので、離宮に引き篭もっているアリアには関係のない話だが。

 そして現在、アリアは離宮の応接室で久しぶりに顔を合わせたロイからあの後の出来事について聞いたのち、盛大にため息を吐いていた。

 あの後、つまりロイの暗殺をアリアが防いだ後も狩猟大会は時間一杯普通に行われたらしい。

 そんな中、ロイとロイの側近はアリアの仕留めた暗殺者を捕縛し、アリアが山間に放置してきたその仲間も含め現在取り調べを行なっている事も、休憩所で時間差で効くように調整された興奮剤を盛られた馬も現在は落ち着きを取り戻している事も説明を受けた。

 それらの報告は正直アリア的には別にどうでもいいのだが。


「……普通、こういう時って女性に勝ち星譲りません?」


「勝ちを譲ったら離縁状にサインさせられることが分かっているのに? 悪いが俺はそこまでお人好しにできていない」


 当たり前のようにロイにそう言われ、アリアは本日2回目の深い深いため息をついた。

 狩猟大会の結果はロイの優勝、僅差でアリアが2位となっていた。ロイの暗殺計画阻止に使った時間であと1頭でも仕留めておけば勝てたかと思うと悔しくて仕方ない。


「狩猟対象に人間入れてくれません?」


「それは承知しかねるな」


 狩った数ならばアリアの方が多いのに、最高得点のクマを仕留められてはどうにもならない。


「……そんなに離縁したかったですか?  姫」


「ええ、もちろん。ずっとそう言っているではないですか」


 アリアはロイから視線を外してそう話す。外した視線の先で、溢れんばかりの花が目に入る。

 花瓶に活けられた沢山の花を見ながら、アリアの心はきゅっと苦しくなる。


(花束イベントはヒロインにすべき事だって、分かってるのに、嬉しいなんて我ながらチョロい)


 それでも心が揺れるのだ。面会謝絶状態の自分のところに、こんなに沢山溢れるまで花束を持って何度もロイがここに来たのか、と。


「なら、俺の事など放っておけば良かったのに」


 ロイのつぶやきが耳に入り、アリアはロイの方を見る。


「負傷しなくても後処理に追われて狩りどころではなかったし、その間に姫が何か仕留めれば勝てたでしょう」


 琥珀色の瞳が何故そうしなかったと問うてくる。


「……怪我、して欲しくなかった……から」


 この沢山の花の前でその琥珀色の瞳に嘘を吐きたくなくて、ぽつりとアリアは本音を溢す。

 ロイの暗殺計画を聞いて、思わず頭に血が昇ったのだ。


「それに、私と殿下の勝負に……誰も入って欲しくなかった、から」


 この世界はロイとヒナの物語で、自分の入る隙間はないのだから、初恋にさよならをする瞬間くらい、この琥珀色の瞳に写りたかったのだ。

 なんて、そんな事言えるわけもないのだけれど。

 

「今回できなくても、離縁はします。……絶対に。けど……今回は、殿下が無事で良かった」


 困ったような泣きそうな顔をしていた淡いピンク色の瞳が、ロイの無事を確認してふわりと柔らかい空気を纏って優しげに笑う。

 そのアリアの表情は帝国に嫁いで以降ロイに頑なな態度を取り続けた彼女からは想像もできないくらい、幸せそうな顔をしていた。


「……姫、やっぱりあなたには悪女も悪役姫も向いてない」


 ロイにそう言われ淡いピンク色の瞳をきょとんとさせたアリアは苦笑し、


「殿下、未来を予言しましょうか? このまま離縁しなかったら、2年と経たずにあなたは私を悪役姫と呼びます。私を悪役姫にしたくないなら離縁してくれません?」


 とそう言った。

 ロイだけじゃない。聖女ヒナが活躍し、彼女が皇太子の寵愛を受ける2年後のこの帝国で、誰もがアリアを見て悪役姫と指をさすのだ。

 それは小説に明記された既定路線。


「姫にも読めない未来があるようだ。それに今回は俺の勝ちです」


 諦めて皇太子妃続投してくださいとロイはアリアに近づくと彼女のシャンパンゴールドの髪の上にとんっと何かを載せる。


「うーん、姫には王冠よりティアラの方が似合いますね。今度仕立てましょうか」


 姫はどんな宝石が好きですか? とキラキラした笑顔で聞いてくるロイに、アリアは一瞬ぽかんとした表情を浮かべたあと、真っ赤になって、


「ちょっ、殿下。何してくれてるんですかっ!?」


 と、ものすごく怒った口調でそう言った。


「雑っ!! 王冠イベントすっごい大事なシーンなのに、何悪役姫の頭に載せてんの!?」


 王冠イベントはこの小説の神回トキメキポイントですけどっ!! と小説のファンだった2回目の人生を思い出し、アリアは叫ぶ。


「手軽に載せるなーー!! もう! もう!! 乙女の夢壊れるでしょ? 2年後にやってよ。運命の相手に!! できたらもう少しロマンチックに」


 小説の大筋変える気はさらさらないんだって、っと内心で付け足しつつ不満気にそう述べるアリアにロイは口元を抑えて笑う。


「もう、私は怒っているんです。何笑ってるんですか!!」


「いや、うん。俺、王冠載せただけでなんで姫にこんなに怒られてるんだろうなって」


 悪役姫だと主張する彼女は、大嫌いだと宣った相手の怪我の心配をし、離縁したい相手の前で泣きそうな顔をしたり、安堵したり、笑ったり、怒ったり、こんなに短時間でよくもまぁ素直にくるくると表情を変えられるものだとロイは感心するとともにアリアへの興味が増す。

 おそらく、本来の彼女はこっちなのだろう。

 何がアリアを頑なにしているのかは、今時点では分からないけれど。


「分かりました。2年後にやります。もう少しロマンチックに、ね」


 載せる相手はアリアが思う"運命"とは限らないが、と内心で付け足したロイは、ひょいっと王冠をアリアの頭から取り上げて回収する。


「……そう、ですよ。2年後に優勝して殿下の傍らにいる最愛の方に捧げてくださいませ」


 ロイの手元に回収された王冠を見ながらちょっと残念だなんて思ってしまった自分を嗜めて、ロイから視線を逸らしたアリアは自分に言い聞かせるように、ロイにそう告げた。

 そんなアリアを見たロイはアリアの手を取って、その上に静かに王冠を載せる。


「なので、2年後までコレは姫に預けておきます」


「はい? いりませんよっ」


 ロイに王冠を預けられる意図が分からず、押し返そうとしたアリアに、


「あげるとは言ってない。物欲しそうな顔で王冠を見ている姫に貸してあげるだけです」


 ロイはそう言って揶揄うような目をして笑った。


「なっ!」


 そんなロイにアリアが反論の言葉を紡ぐより早く、


「あまり姫の負担になってもいけないので、今日は引き上げます。続きはまた明日改めて」


 ロイはそう言い残して颯爽と去っていく。


「もう、なんなのよ!」


 パタンと閉じた部屋のドアを見つめてつぶやくアリアは、手元に残った王冠に視線を落とす。


「……そんなに、物欲しそうな顔……してたかしら?」


 アリアは周りに誰もいない事を確かめてから、


「今だけ。ちょっとだけ。ちゃんと、返すから」


 頬に感じる引かない熱と早くなった心音を沈めるようにきゅっと王冠を大事そうに胸に抱きしめた。

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