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12.悪役姫は、助っ人を得る。

「アリア、あなた先月結婚したばかりよね? それも物凄く浮かれていたじゃない。帝国の風潮とアリアは合わないからって反対したお父様たちにロイ様と結婚させてくれないなら、今後絶対結婚なんてしないからってお父様たちを困らせてまで。だというのに、封印していた荊姫まで持ち出して離婚したいほど、一体何があったというの?」


 フレデリカの当然の追求にアリアは黙り込む。1回目の人生の時系列的には確かにそうなのだ。アリアはロイを自身の運命の相手だなんて最期まで信じ込んでいたし、ロイの隣にいられるという事実にアリアは確かに浮かれていた。


「まさか、わずかひと月足らずでこの一夫一婦制の帝国で、ロイ様はうちのカッコ可愛い私の最愛の妹アリアを差し置いて他の女性を侍らせているのではないでしょうね?」


 黙り込んでしまったアリアにフレデリカは非常に冷たい声でそう尋ねた。あまりのお怒り具合にバックにブリザードの幻覚が見えそうだ。

 絶対零度の怒りを纏うフレデリカを見ながらアリアはクスリと笑う。


「どうして、お姉様はそんなふうにお思いになるのです?」


「だって、アリアはこうと決めたらとことんやるタイプじゃない。そのあなたが、こんなに早々に音をあげるだなんて考えられない。100年の恋も冷めるとしたら、愛が得られないと確信した時だわ」


 キッパリそう言い切るフレデリカにアリアは苦笑する。


(惜しいです、お姉様。今、侍らせてるんじゃないんです。1年後、ロイ様は運命の相手と恋に落ちるんですよ。私が彼にとっての偽物なんです)


 と、言えない言葉を心の中でつぶやいた。

 男性を立てる事を良しとし女性は決して前に出ない帝国の風潮では、身分を偽ってでも前線で仕事に携わりたがるアリアには窮屈すぎることは分かっていた。

 それでも、ロイに妻として望まれたのなら、例え自分を偽り押し殺してでもロイと共に在りたかったのだ。それが、紛れもなく1回目のアリアの本音。

 恋は盲目とはよく言ったものだ。結果、ヒナが現れて、上部だけの繋がりしかなかったロイとの関係はすぐに破綻。嫉妬に狂った悪役姫として処刑された。

 そんな自分を2回目の人生で客観的に振り返った今、3回目の今世はこの物語からの早期退場を望んでいる。

 できれば、誰も傷つけずに。欲を言えば、ロイにとって僅かでもいい印象として記憶に残ったまま、この帝国から消えてしまいたかった。

 まぁ後者は難しいので、ロイに嫌われる代わりに少しだけロイのためになるように、そして新たに皇太子妃になるヒナのために1回目の人生の贖罪として最大限彼女のためになる事をしていきたいと思っているが。


「……愛しているから、です。だから、私は離縁したいのです」


 恋愛事や男女の機微に関して自分よりずっと上級者のフレデリカを誤魔化せないと悟ったアリアは言えない過去の出来事の代わりに正直に胸の内を述べた。


 1回目の人生を生きたアリアは、ただひたすらにロイからの愛を求めた。誰かを害してまで手に入れようともがくなんて、愚かな事だったと今なら分かる。そんな事をしたって、振り向いてもらえるわけもなかったのに。


「ロイ様は、素晴らしい皇太子だと思います。私には、本当に勿体ないほどに」


 帝国で暮らす民のために、自ら前線で剣を取り、必要であれば冷徹な決断も下し、その結果を全部自分で背負って立つロイは、どんな重圧にも困難にも屈しないで、顔を上げて立ち向かって行くのだ。

 1回目の人生でも、2回目の人生でも、そんな彼が好きだった。

 ヒーローなのだ。物語の中の皇子様なのだから当然なのかもしれないけれど。


「お父様とお母様は政略結婚ですが、とても仲が良いですよね。お母様が言っていました。政略結婚ではあったけれど、同じ時間を過ごす中で何度も何度もお互いの考えや思いを交わして、恋をしたんだって。お姉様達もそう。素敵な夫婦です。そうあるべきだったんだって、ピッタリはまるみたいな。私も、ロイ様とそんな風になりたかった……けど、無理なのです」


 だって、この物語で彼にピッタリ当てはまる運命の相手は、ヒロインのヒナ以外あり得ないのだから。

 最初からそうと決まっているみたいに、生まれも常識も世界も超えて、愛と言う名の魔法でロイとヒナが結ばれるのが運命ならば、そこに自分が入り込む隙間なんてありはしないのだ。


「ロイ様には、ロイ様の隣に立つに相応しい方が必ず現れますわ。ロイ様には、愛に溢れた生活を送って欲しい。だから、私はなるべく早く離婚しなくてはならないのです」


 それがきっと、自分がロイのために、そしてヒナのためにできる一番のことだから。

 そんなアリアの話をじっと聞いていたフレデリカはアリアの額にデコピンを喰らわすとびしっと指を立ててアリアに語る。


「いい、アリア。あなたは昔から少し夢見がちなところがあるけれど、夫婦っていうのは外から見ただけじゃ分からないことも沢山よ。運命の恋? 真実の愛? そんなものでどうにかなるなら誰も苦労しないわよ! 人間なんて、自分の気持ちですら分かってないことが多いんだから。仲良くしたければ努力あるのみ! お互いにね」


 そう言ってフレデリカは愛おしそうにハデスに視線を寄越す。そこには揺らがない確かな信頼があった。


「でも、ま。うちの大事な妹が、ロイ様の事を信じられないから別れたいと言うのなら、協力するわ。夫婦としての信頼関係の築けない相手と一緒にいるなんて時間の無駄だし」


 お兄様たちの手腕なら帝国とキルリアの外交問題はどうとでもなるでしょうしねとフレデリカはあっさり請け負う。


「……お姉様、よろしいのですか?」


「あなたが荊姫まで持ち出すなんて相当でしょ? 我慢などせず、全部曝け出してしまえばいいわ。アリアらしくね」


 ふふっととても綺麗に微笑んだフレデリカは、


「忘れないで、アリア。あなたがどこにいても、アリアは私の大切な妹で、私はカッコいい荊姫のファンだと言う事を。だから、協力してあげる」


 そう言ってアリアに離婚作戦の協力を約束してくれた。


「もちろん、ダーちゃんも協力してくれるわよね? アリアは最愛の妻の命の恩人だもの」


 フレデリカはハデスにもアリアの離婚に協力するよう要請する。


「……フレデリカがそう望むなら。まぁ、可能な範囲だが」


 楽しそうな色に染まる空色の瞳をじっと見つめたハデスは、その真意を図るように少し考えそう答えた。

 2人の返事にアリアはぱぁぁっと表情を明るくさせる。

 白虎を討伐してロイの見せ場を奪って嫌われる作戦は失敗したけれど、フレデリカとハデスが味方になってくれるならこれほど心強いことはないとアリアは気を取り直す。

 大丈夫、ヒナが来るまであと1年もあるのだ。きっと今世は物語から退場できると、アリアは記憶を取り戻してから初めて希望が持てた。


「それで早速だけど、アリアは私達に何かして欲しい事があるのかしら?」


 空色の瞳に問われたアリアは魔剣を元のサイズに戻し、少し考えて願い出る。


「では、2つ程。1つ目、このフェンリルの討伐はハデス様の手柄として頂けますか? 荊姫のネタバレは派手に印象付けたいので」


 これから先魔獣討伐の機会は他にも巡ってくるはずだ。離縁を切り出されるために、できればロイの目の前で派手に立ち回って、皇太子妃に相応しくないと思われたい。


「2つ目、ハデス様にお願いですが軍事国家ウィーリアの王として、ロイ様とお話しする機会を狩猟大会中に設けて頂けませんか? 私に頼まれたと言う事は内密で」


 そしてもう1つ離婚のために大事なのは、アリアの利用価値を失くす事。今後のためにロイが一番重要と考えているウィーリアとの関係が良好に築ければ、アリアとの離婚に応じやすくなるはずだ。


「どちらも構わないが、皇太子と話した所で帝国と仕事するとは約束できんぞ」


「構いません。そちらの国の事情もあるでしょうし、ロイ様がハデス様のお眼鏡に適わなければそれまでです」


 だが、きっと上手く同盟関係が結べるようになるはずだ。

 時期は大分あとになるが、1回目の人生の時もロイはハデスの信頼を得て、ウィーリアと対等な関係を築き、ウィーリアから最新兵器の提供を受け魔獣対策に取り組んだのだから。

 これで、自分の担う役目は潰せるとアリアはほっと胸を撫で下ろした。


「ところでアリアちゃん気になっていたんだが、その腕というか肩、脱臼してるだろ」


「ええーー!? そうなの、アリア?」


 アリアがあまりに平然としていたのでフレデリカは驚きの余り声を上げる。


「あ、はい。無理矢理抜いたので。実はもうそろそろ痛みが限界です」


 動かない左腕を見ながら、さてこの後どうしようかとアリアは深いため息をついた。

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