パワーストーン
「思ったより高いんだな…」
最近あまりに良いことがなく、会社でも出世の望みがない男。
なんとなくすがろうかなという気持ちで
繁華街にあるパワーストーンの店に来たのだが
想像していた金額以上のものばかりだった。
「本当に効果があるかもわからないのに。
金額をかけた分だけ、良くなると思う気持ちにはなれるんだろうけどさ」
思わず声に出してしまっていたのだろう。
「そんなことないですよ」
という返事を聞いてぎょっとしてしまった。
そこには身なりのきちんとした裕福そうな初老の紳士。
「突然声をかけてすみません。独り言とは思わずに。
貴方がおっしゃる通り、金額だけのものもあるかもしれません。
しかし、本当にあなたを幸せにしてくれるものもあるんですよ
驚かせた代償に、それをお分けしましょうか?」
男は話をきいたものの、どうしてよいかわからずに立ち尽くすだけ。
「それでは縁がなかったということで」
紳士は店を出ていった。
…ここで紳士を逃したら、自分は絶対に後悔する。
そう思った男は追いかけ、声をかけた。
「先ほどの話は本当ですか?幸せになれるなら、ぜひ私に分けてください」
紳士は俯瞰的に男をみるようなまなざしのあと、艶のある黒いブレスレットをみせた。
「これですよ。今はお代はいりません。出世払いで良いですよ」
男は「それならいりません」と遠慮するが
紳士は微笑みながら、男に渡し、立ち去った。
黒いブレスレットを付けてからの男はそれこそトントン拍子だった。
なにをやってもうまくいく。
会社での地位も上がり、社長が会長に退くので新社長になれるという。
そして会社の新社長就任パーティー。
壇上にあがる男。
その時
パチーンとブレスレッドが弾けた。
倒れる男。
パーティー参加者が心配になり周囲に集まる。
「お代を頂きにまいりました。ありがとう」
初老の紳士は男の体から抜けたふわっとしたものをつかむと
人込みから離れていった。