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ディニッツ・ドクトリン始動ッ!

あの日の惨状を希に夢に浮かべる。


葛藤に苦しみ、苦し紛れの、苦肉の選択が何一つ通じず、自身の部下を無意味に死なせ、故郷、祖国さえも窮地に陥れてしまった。


そんな自分にできることと言ったら…


勝つことが全てで、敗北は忌諱すべきもの。そんな単純な世界を見れない…彼は負ける度に、己が心を克己し、その都度完膚なきまでに叩き折られた。



~~~


連邦政府、アドゥラン軍事本部内、戦略室兼会議室。




そこにディニッツはいた。周りに居並ぶ者も歴戦の用兵家揃い、新進気鋭のバッドン准将、シャウット准将。軍の補給などを司る後方勤務部隊総監ダレウト大将、その勇猛な戦いぶりで市民に大人気の連邦第二艦隊司令官ザードル中将に第四艦隊司令官であるディニッツを含めた二五人の実戦艦隊の司令官、十人の防衛艦隊司令官。極めに制服軍人最高位連邦軍統合本部長であるアルハスト元帥、艦隊司令長官バレット元帥等が一堂に会している。



「これより、連邦軍人会議を執り行う。此度の会議は目下の皇国艦隊の侵攻に対する連邦軍の行動方針の決定、ならびにトーマス軍事大臣より提案されたヨルツァー・ジーズ星系連盟との軍事同盟に対する軍部の意見を纏める事である。特に皇国艦隊の侵攻については、防衛艦隊、実戦艦隊の尽力により猶予ができたとはいえ、未だその脅威は失われたわけではない。活発な発言を諸君に期待する。」


議長であるアルハスト統合本部長が会議の開始を宣言する。


まずは皇国の侵攻についてだが、ここで直ぐ様ザードル中将が挙手する。


「此度の皇国の侵攻につきましては発端が彼の国の政策にあるため、連邦が折れる必要性があるとは小官は考えられません。故に此度の皇国の侵攻に対しては厳格に、場合によっては連邦の総力を挙げてでも対応すべきと確信しております。この場に居られる皆様方にもその事を確認されたい。」


ザードル中将は発言の節々から見受けられるように武人の中の武人であり、義があるならば死んでも果たすべきという思想の持ち主で、数多くの戦果をあげる一方で多くの味方の犠牲を出すため、軍内部では疑問視する声も大きい。


「そして、我が軍の方針ですがやはり攻勢をかけ皇国艦隊を撃滅する。それを置いてありますまい。」


「待て、それはあまりにも我が軍に負担がかかる。敵は数もそこそこいて指揮官に至っては双璧だ。生半可な攻勢では弾き返され、返す刀で逆侵攻さえ受けかねん。ザードル中将の作戦には私は賛成しかねる。」


反対するは第一艦隊司令官カーマル中将。彼は不必要な損失を嫌っており、いつも無駄な犠牲を出すザードルのことを毛嫌いしていた。逆もまた然りであるが。



その二人の醜い論争が始まりそうになると、ディニッツが発言を求められた。


議長の突然の無茶振りであるが、ディニッツは大した驚きも見せず発言する。


「私もザードル中将の言うように皇国艦隊に一発やり返したいと思う。」


マードスの顔に困惑の色が浮かぶ。ディニッツがマードスと同じ意見となることなど皆無であった。


「しかしカーマル中将の多くの損失を出すという意見も無視できない。故にここはゲトラウト戦争論を応用したいと小官は考えます。」


~~~


後にディニッツ・ドクトリンと言われ、数々の侵略から連邦を護り続ける事となる戦略はかくして始動する。



~~~~



皇国艦隊司令部



その頃アルツァーはハゼルと共同で第二次連邦侵攻作戦を組み立て、実行しようとしていた。


第一次で五万隻を失った彼らだが、その五万隻は皇国の名家の血縁の威光を借る愚図な提督、そしてその下のやる気を一切感じぬ穀潰しの数だけの兵士なので、二人にとってはマイナスではなく、被害なしと言っても過言ではなかった。


主力は一切削られておらず、むしろ五万隻の喪失で気も引き締まっていた。


それは、第二次侵攻は一次とは比べもにならないほどであることを示唆していた。

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