皇国の双璧
ディニッツの決断は間違いなく最善であった。包囲されたと言っても過言ではない現状…
これはディニッツがどうにかできるものではなかった。
ディニッツは軍事学、軍事技術、用兵術など、戦場で、もしくは戦略上で使えるものには少なからず通じている。
だが、超長距離ワープというのは連邦屈指の技術者ですら歯が立たない代物であり、それを一軍人たるディニッツが対策することは不可能である。
ほとんど完成された包囲陣がそのまま出現する、それはやられる側としては悪夢に他ならない。
凡人ならば絶望で動けなくなり、秀才であっても頭が働かなくなる状況下。それでも負けに負けた数十年、その経験がディニッツを動かす。
皇国艦隊はワープアウトするタイミングが微妙にずれていたために完全な包囲を敷くには至っていなかった。それは20秒ほどにも満たないものだった。
だがディニッツはそれを見逃さず、活路を見出だした。
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「敵艦隊の損耗率7%。被害は前衛部隊のみですが、前衛が乱れたことで、少なからず混乱しております。」
「よし、直ぐ様戦場を離脱する。十時の方向に艦隊針路をとり、オールディアに進む。後方のものたちは、後方より攻撃が来るだろうが、強引にでも撤退だ。」
「了解いたしました。」
窮地を脱しようとする連邦軍だが、それを黙って見守るほど皇国艦隊も甘くなかった。
直ぐ様後背より数万隻の艦隊による追撃を開始した。
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「アハハ、ハゼル~どうだい、皇国を揺るぎ無きものにするとか言いながら、老人にいいようにやられた気分は?」
アルツァー・アルダン、この男、とてつもなくうざったらしい。見た目は好青年のくせに中身は五歳子止まりである。若くして地位を得ているため、その性格とあわせて、他の軍人から嫌われている。
それでも才能があり、実績もある。
「……」
「おやや~無視かな~?」
「人を嘲る時だけ目を輝かせやがって…もうそろそろオールディアだ。この辺りで追撃はよしておこう。」
「いやいや、まだ行けるって~」
「俺を殺すつもりか?」
「アハハ~」
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オールディアにたどり着くと、流石の皇国の執拗な追撃も終わりを迎えた。
「…閣下、二万隻以上の艦が完全破壊ないし行方不明。さらに、三万隻が重整備を要するとの事です。」
マドース少将の報告にディニッツは頭を抑える。
皇国艦隊の追撃は苛烈を極めた。後衛の艦隊は壊滅状態、中衛であってもそれなりの損害を与えられ、前衛さえも安全域ではなかった。それも数時間の間での事である。
「約四個艦隊分の戦力を削られたな…現在の敵の位置はどうなっている?」
「は、ジィッツェヴァ星系からの完全な離脱が確認されました。調査隊を出していますが、敵の伏兵などは確認されていません。」
「……国境沿いは一進一退、ジィッツェヴァでは、僅かに優勢…守る側としては芳しくないな。」
皇国と連邦の戦争は泥沼化することになる。ディニッツはそう思った。
「外務大臣の提案も検討せねばならぬのやも知れんな…」