連邦軍大将ディニッツ・エル・ファーラント その2
遂にワープをした皇国艦隊だが、その数は流石の一言。五個艦隊が来たのだ。
つい先日、さらに五個艦隊を国境沿いの争いに投入して、各国から見ると、対策されているであろうワープを今回は止めたと思われ、連邦もそう考えていたのだ。
しかし唯一ディニッツは、油断させたところを突く作戦と考えて行動していた。
そして、皇国艦隊の出現地点はまさかのジッツェヴァ。
ディニッツは賭けに勝ったのだ。
ディニッツが前もって移動させていた十個艦隊はワープした直後で隙だらけの皇国艦隊に集中砲火を喰らわし、八割を撃沈させ、残りを余さず拿捕するという大戦果をあげた。
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ディニッツ・エル・ファーラント…彼の者は、かの伝説的傭兵、「傭兵軍師」の異名を持つダーリオ・ガリドニア、「戦闘狂」ガラン・シエ・ヒューリーが率いた敵軍と幾度となく戦火を交え、ついに彼等率いるヨルツァー・ジーズ星系連盟軍から勝利を得ることは叶わ無かった。しかしそれでも国土の永久的失陥は防ぎ、連邦が有利な講和を結ぶための礎となった。
世界屈指の戦歴を持つ彼は連邦の宿将として半世紀に渡り戦場を駆け続けた。
幾ばくかは医療技術の発展によりこの世界の平均寿命は延びているが、それでも五十年は長い。
そんな彼は皇国軍の二人の天才とも戦場で合間見えている。
一人はアルツァー・アルダン、いま一人はハゼル・ガレックである。
二人は皇国軍元帥であり、周りの連邦、ヨルツァー・ジーズ星系連盟等の星間国家達を苦しめ続けた。
二人ともが一部を除き、完勝し続けてきた天才である。
その二人は皇国軍の特徴である艦隊の超長距離ワープを巧みに使いこなし、ディニッツを苦しめてきた。
しかし、それでも領土を失わない彼は確かに名将である。
その彼が守るということが分かっているのに、普通に攻めてくる…軍事大国と謳われる皇国はそんなものであろうか?
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「ふーん。ジッツェヴァへの奇襲は読んだか。普通なら決まってたんだけどなぁ。」
「あの男がいれば、どんな弱小国家でも大敗北はしない。そういう類いの人間なんだよ、ディニッツ・エル・ファーラント…」
一人の士官が報告をする。
「両閣下、ワープの準備ができました。これより三十分後に連邦の"ジッツェヴァ"星系に進発致します。」
「よし、あの老人に引導を渡しに行こうか。」
「ああ、これで連邦を潰し、ひいては皇国を揺るぎ無きものにする。」
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ゾクリと嫌な予感が体を駆け巡る。
「…こういう時は総じて最悪を超える状況に陥ってきたが…全く分からんな。」
ディニッツの突然の独り言に戸惑うマドース少将。
「大将閣下、今回の戦役は大勝利といっても過言ではありますまい。敵の組織的反抗は考えられませんし、何を恐れているのですか?」
(確かに少将の言うようにここからの窮地は有り得ん。杞憂であれば良いが…)
「いや、戦場では何が起こるか想像つかん事が希にある。全艦隊に警戒体制を緩めず、むしろ上げろと通達せよ。」
「了解いたしました。」
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「閣下、皇国艦隊のワープアウトです。数は不明ですが、観測班によると十個艦隊は下らないと。」
下士官の一言に、艦隊司令部に動揺が走る。五個艦隊を派遣した後にまさかその倍以上の艦隊が来るとは考えれなかったのだ。
「閣下、撤退を具申致します。現在ならば~~~~~~」
「べ、別方向にもワープアウトです。数は……五個艦隊。退路は遮断されています。」
「な、なんだと。なんだそれはッ!」
普段は体面を保つことに腐心するマドース少将ですらこの有り様、それが事の深刻さを表していた。
「閣下、いかがなさいますか。」
こうなると司令官であるディニッツに自然と視線が集まる。
「全艦、全速力で新たにワープアウトしてきた五個艦隊に向かえ。ワープアウト直後で動けぬ所を叩き、打撃を与えた後に戦場から離脱する。」
ジッツェヴァの戦闘、第二幕である。