最終前編
おそらく…?あと一話で完結します!
アリスとの仲を修復した翌日。なんだかんだ言っても幼馴染と仲直り出来たのが思ったより嬉しかったのか、清々しい目覚めだった。その気分のままパパッと準備を済ませて部屋を後にし、さあ行くか〜…と寮の玄関を開けたら…――
「うぉっ!?何でこんなところにいるアリス!?」
目の前にいきなりアリスの顔がドアップ!あまりの驚きに学園で使う丁寧な言葉遣いも忘れてしまったぞ…。
「ふふふ、アインが出てくるのをずっと待ってたんだ!一緒に登校しよ!」
「あ、ああ…」
俺と同じ気持ちだったのか上機嫌なアリス。そのウキウキ気分が一緒に登校することに繋がったなら微笑ましいものだ。……ずっとあんな待ちかたをしてたのかは気になるところだが…。
「な、なあアリス。一緒に登校出来るのは俺も嬉しいが、あんな玄関のドアに張りついて待ってたら危ないぞ?俺じゃない奴の可能性もあるわけだし…」
「ん?何言ってるのアイン。アインだって分かったから、今日アインが一番最初に目にするのは私がいいな!って思ってああしたんだよ?アインが来るまでは普通に待ってるに決まってるじゃん!」
「そ、そうなのか…?あ、あはは、久しぶりにアリスのお転婆なところを見たな〜……」
基本的に明るいアリスはたまに悪戯をすることもあったから懐かしいね!……何で俺だと分かったのかは謎だけど…。
「うん!昨日も思ったけど、やっぱりアインはその格好が似合ってるよ!」
「ホントカッコ良すぎるから、邪魔な雌猫がいないかチェックしておかないと……」小声
「そうか?ありがとう。似合っているかは分からないけど、領地ではコレが当たり前だったから落ち着くのはたしかだけどな」
最後、なんて言ったか聞こえなかったけど…俺の直感が気にしないほうがいい!と告げているので、とりあえず流しておこう…。
―――それにしても横を歩くアリスの笑顔が輝いているせいだろう、通りすがりの坊っちゃん達の視線が煩わしい。あの件が内密に処理されてから、隠れるように過ごしていたらしいから目立たなかったようだから、笑顔全開のアリスは学園で見れたのは他の奴らも初めてなんだろう。
この様子だとその魅力にやられる坊っちゃんが多数出現してそうだ――
(正直、アリスは学園でトップクラスの美人だ。俺には可愛い妹のような存在だが、普通の男なら見惚れてしまうレベルだと言えると思う)
薄い亜麻色の腰まで届く綺麗な髪、パッチリとした愛らしい瞳、身長はそんな高くないのに凹凸をハッキリした抜群のスタイル。そこに花のように咲いた笑顔でトドメ。おおよそ男の理想を詰め込んだような子だからな…。
「これはまた違う火種がつく可能性も考えておかないとな…」
「何のこと?」
「…いや、アリスが気にすることじゃないよ」
俺は手が触れそうなほどに寄り添いながら歩くアリスに微笑む。てか、今更だがこの距離は近過ぎないか…?内々に処理されたからあの件を知る奴はいないとは思うが、アリスがふしだらな女だと思われると掘り起こそうとする輩が出てくるかもしれん……。
「…アリス。折角仲直りしたし、今まで傍に入れなかった分の埋め合わせもしたいとは思う。だがこの距離はさすがに良くないぞ?あの件を掘り起こされるのはアリスにしても俺としても不本意だ。だから適切な距離は保とう」
「…そう…だね。ごめんなさい。アインとまた一緒にいられるのがあまりに嬉しくて、舞い上がっちゃってた……」
「その気持ちは俺も同じだが、それで気が緩んで、いらぬ厄介をアリスに背負って欲しくない」
「うん。ありがとうアイン」
(…アインはいつも私は心配してくれてたんだよね?私がそれに気付かずにバカの真似をしてしまったんだよね?…私は自分の事なんてどうでもいい…でもアインといられる時間を邪魔されるぐらいなら我慢してみせる!……それでアインの隣にずっといられるのであるなら…!)
俺の忠告を聞いてくれたアリスが少しだけまだ近い気もするが、周りから見て不自然ではない距離は空けてくれた。お互い婚約者がいないならさっきのでも青春してるな〜…で済んだかもしれないが、一応俺には婚約者がいるからな…。
「はぁ…なんでアインと違うクラスなんだろ私…。同じならこのまま教室まで一緒に行けるのに…」
「それはさすがに仕方ないさ。あっ!言い忘れてたけど二人っきりじゃない時は俺の話し方変わるけど、それを指摘はしないでくれよ?」
「ん?そういえば遠巻きに見てた時、変な話し方してたからどうしたんだろ?思ってたけど…それってどういうこと?……二人っきりのときだけ?………あっ!そっか!そうなんだね!!分かったよ!」
「あ、ああ…?分かってくれて良かった、よ?」
俺のやってる事が今ので分かるはずないんだが…?何に対してそんな笑顔で納得したの?…まあ納得したならいいか。
(むふふ…私と二人のときだけ!それって私だけが特別ってことだよね!?これはアインも私のこと想ってくれてるってことじゃないかな!?)
……―――それからやたら近いアリスをいなしながら、今までの振る舞いと試験の結果で得た評価の地固めに、より一層力を入れた。辺境伯だと蔑んでいた者には「過去のことだから気にしない」と懐の深さを見せ、成績に伸び悩む者には教師役を買って、令嬢にお茶に誘われれば椅子を引いて紳士的に振る舞いながら、話が途切れないよう話題を提供したり。……令嬢のお茶の誘いを横で聞いていたアリスが、何故か不機嫌になるのを宥めたり…。
そんな努力が身を結び、もはやこちら側にいる貴族には俺を悪く思う者はほとんどいなくなったはずだ。
ここまでが俺の考えていた準備の第一段階。そして―――それを達成出来なければ、次の段階に移行しても上手くいかない…。正直、ここまでは俺の成績ならそんなに難しくはないし、ちょっと取り繕って紳士の振る舞いをするだけだから楽だった……。
………問題はここからだ―――。今日のちょっと淀んだ天気がますます憂鬱にさせてくれる…。のってこないのは分かってるし、もしのってこられても困るが、周りのバカどもが騒ぎ立てる予想がつくのがたまらん…。
(思わず手が出ないように気をつけないとな……)
そう…これから俺は―――ローザをお茶に誘う!!
いつも王子達と共にいるローザ。昼には自分達専用の部屋に行ってしまう為、誘うならその移動中の廊下しかない。衆人環境の中、罵詈雑言を浴びると分かっていながら、だ。まあ腹は立つだろうが、その環境はかえって、俺にとって都合が良いわけなんだけど…。
…ちなみに令嬢に誘われるだけでも不機嫌になるアリスなら、俺から誘うことになる今回の件に噛み付いてきそうだったので、俺の目的を話している。微妙に納得してなさそうだったけど、昼に俺のとこに来なかったから、渋々ではあるだろうけど了承してくれたんだと思う。…たぶん。そう思うことにしてやり遂げるとしよう…。
「ローザさん、お食事の後でもよろしいのでお茶をご一緒いたしませんか?珍しい茶葉が手に入ったので、是非ローザさんにお振る舞いしたいのですが…」
「なっ!?貴様!貴様がそんなとこを言えた義理かっ!?」
「…殿下。私とローザさんは婚約関係にあります。お誘いする権利はあると思いますが?」
本人じゃなくて真っ先に王子が噛み付いてきちゃったよ…。
「あるわけなかろう!しかも誘うだけにとどまらず、気安く名前で呼ぶとはっ!?なんと恥知らずな奴だ貴様は!!」
「先程も申しましたが、私とローザさんは婚約関係にあります。己の婚約者を名前で呼ぶのがそんなにおかしいことでしょうか?」
…だからお前が食いついてくるなって!
「この田舎者がっ!何が婚約者だっ!?貴様が強引に結んだのだろうが!!本人の意志を無視して強いた関係を盾にするとはなんと卑しい男なのだ!」
…おっと?その発言は聞き捨てならん。ローザの口から何か聞けるかという意図もあったんだが……。まさか王子が口を滑らせたか…?
「私が強引に、でございますか?」
「で、殿下!このような者を相手になさっては殿下の品性が損われます!!私は気にしておりませんから、早く参りましょう!?」
「むっ…ローザがそういうなら仕方ない。二度とローザに話しかけるなよ辺境伯如きがっ!!」
王子を急かすローザの言葉を皮切りにズンズンと音が聞こえそうな足取りで怒りの収まらない様子の王子とその取り巻きは去っていった。
(ローザからしたら王子が口を滑らせたから急かすしかなかったってところか…?だがその判断は遅かった。ここにいた者達は聞いてしまっているからな)
おそらく王子に取り入る手段として、俺から迫った婚約だと嘘をついているのだろう。…どうやって取り入ったのかという謎が思わぬ形で解けたけど……それにしてもそんな嘘をつくとはね。それを決めた場所が…そこにいたお方が誰だったか、覚えていないのか?
……―――これはベルンシュタイン公爵にも害が及ぶ、言ってはならない嘘だ。…分不相応な野望を秘めてはいるが、そこそこ頭は回りそうな父親とは違うみたいだな娘は。
「…思ったより簡単に事が進められるかもな…」
その後も王子やその取り巻き、はてはローザ本人にも罵声を浴びながらも誘いを止まなかった。王子達も含め、未だ王子側についている上流貴族はこのことに対して、「田舎貴族は女性の誘い方も分からないのか?」や、「あそこまでしつこいともはや醜い。」や、「もうアレはストーカーと言えるレベルだ!」と散々に俺を罵ってくれている。
だがこっち側の奴らの印象は違う。それとなく俺が迫ったわけではないが、婚約者となった以上、お互いに理解を深めていきたいからだ、ということにして触れ回った。そしてそれを聞いた時に抱く感想を操作するために、俺に対する評価を改めさせる必要があったのだ。
評価が変わっていなかったら大多数の奴が王子達と同じ気持ちを持っただろう。だが俺の周りでの今回の評価は……
自分の意志ではない婚約なのに、あんな傲慢な令嬢との関係を築くために、自らが罵倒されようと努力している紳士!となっている。
(いずれ痺れを切らしたローザは強行策に出てくるだろう。しかも王子と自分の自尊心を満たすために大勢の前でそれをやるはず…そのときに全ての奴が敵だとさすがに覆しにくくなるからな)
王子もローザ本人もその周辺も成績からみてそんなに頭が良いわけじゃない。今、俺の周りを嗅ぎ回っているのもその証拠だ。おそらく不正の真実を明るみに!とか考えているんだろうけど、当然そんなものはない。それ以外に動いている気配も無いから、婚約の強制と不正の証拠だけで押し切るつもりなんだろう。
実に上手く事が運んでいるといえる。というか不正の件が無かったとしても、婚約の話だけでもう十分だと言えるほどだ。
そしてそんな罵倒されにいくなんてマゾみたいな日々が過ぎていったある日…。「今日のお昼はどうしても一緒にいたい」とアリスが駄々をこねたので、仲直りした庭で一緒に昼食を取ることになった。久しぶりに一緒にいるからか、アリスは満面の笑みだ。その横で―――
(…ある意味丁度いいかもしれん。これを機にローザの元へ行くのをやめるか?もう俺が頑張っていた事は学園中が知っている。これなら行くのをやめたとしても、流石にあんな罵倒されてたら嫌になるよな〜って感じになると思う)
懸念があるとすれば…こうやってアリスと二人でいるところを見られて、ローザは諦めてアリスにしたんだな!と思われるかもしれない事ぐらいだ。一応周りには幼馴染だと伝えているけど、恋バナに飢えてる年頃の令嬢達は、この光景に色めき立つかもしれない。男子の噂ではローザやアリスを押し退けて、俺を狙う令嬢もいるらしいけど…。
………自慢じゃないが、心当たりが多過ぎて分からんな!
「ねえ…今、他の女のこと考えてない…?私と一緒にいるのに…久しぶりに二人っきりなのに、そんなことあるはずないよね?ねぇ、アイン?」
「も、勿論!そんなことあるはずないだろっ!?久しぶりにアリスと二人でいると、やっぱり落ち着くな〜って思ってたのさ!」
急に心を読まれて驚きのあまり裏声になっちゃったよ!?目の光を消しながら問い詰めてこないでくれ…!…その感じ、マジ怖いんだよ……。
「っ!?うふふ、そっか、そっか!!私もアインといるのが一番好きだよっ!」
「お、俺も、アリスといるの好きだぞ〜…!」
……―――ねえ、コレ、今更かもしれないけど…アリスの俺に対する気持ちって俺と同じじゃないっぽい?頬を赤く染める仕草といい、やたらご立派に育った胸を押しつけてくる感じといい、他の女の話になると不機嫌になるとこといい、もうこれは兄妹的なものではないんじゃないか?一人の男として見られてるっぽくないか…?
どうしよう…?俺にそんな気持ちは無いってそれとなく伝えるか?でも、もしそれで、「そんなわけないじゃん?自意識過剰だよ?」なんて言われた日には死ねるぞ俺……。
どうしたら正解か分からない…。と、とりあえず今は気にしないことにしよう!
そう!俺にはまだやる事が残っているのだから!!
………逃げてるな〜って思った人、あなたは正しい!その通りだからっ!!
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