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最強辺境伯の受難  作者: レオン
3/6

中編

悪役令嬢モノを男が破棄される側だった場合という筋書きで考えたこの話。


男側で反撃するならそれ相応の実力が無いと難しいか?とこんな感じの主人公になりましたが……


なんか腹黒いだけになってる気がしますw

陛下に謁見した翌日の朝。いつもより早く起きたのには理由がある。巻き込まれたとはいえ、やると決めたからには妥協も容赦もしないのが俺の流儀だ。これまで俺は平穏に過ごす為に容姿は平凡、学園の成績は平均、下らない噂と偏見には無関心、この三つの条件を満たす事で、周りに興味をひかれないような人間を演じて成り立っていた。そしてその条件のうち無関心の部分は素だけど、容姿と成績は自分で調整していた。


具体的にはわざと髪をぐしゃぐしゃに下ろしてオシャレには無頓着な冴えない感じの容姿に変装し、武術・学問・作法からなる成績も中の下くらいになるようにしていた。そうした工夫がダーウィン家の評価を更に下げた要因にもなっただろうけど、変に関心を持たれる方が厄介だと判断したから、それを貫いていたのだ。


「…正直、陛下の為とはいえこれを崩すのは厄介な事も増える気がするが、ダーウィン家を理解して下さる方のためだ」


俺は何よりダーウィン領の領民達と家族を大事にする。もしベルンシュタイン公爵の企みが俺の予想通りなら、それによって王家の権威が失墜するのはダーウィン家にも関わってくる話だ。


(…まずは父上に手紙を出さないとな。俺のこのスタンスは父上にも了承を貰ってやっていること。これを崩す事の経緯、陛下の状況、そしてダーウィン家と王家との繋がりを守る為に動く事にした、と)


したためた手紙が届いて、返事が来るまで本来なら待つところだが、敵はすぐに動き始める可能性がある。なので事後承諾って事にしよう。


「にしても今日から身嗜みを整えないといけないのか…。今まで楽してた分、面倒に感じてしまうな…」


学園に通い出してからずっと無造作に下ろしていた髪をセットする。ちなみに一部の上流階級の野郎達はその権力を使って学園に黙認させているが、男は側仕えの者を用意する事を禁じる校則がある為、身の回りの事は自分でやらないといけない。『男なら自立出来る人間になれ!』という謎理論によって。


(いや、自立は大切だし、身の回りの事を自分でやるのは、その一環と言えなくもないだろうけどさ?それよりもまず自立しようなんてしてないガキばかりの学園なんだが…土台が無いのにそんな校則が意味あるのかね?)


逆に『令嬢は必ず二人以上は揃えるように』、との校則もある。実家から連れてくる令嬢もいれば、学園が用意した者達を使う令嬢もいる。これは平民の娘にも存在する数少ない処置だ。女性はドレスを着たりとか、どうしても一人では難しい用意があるから、という理由らしい。


(まあこっちの理由はまだ理解出来る範囲なんだがな〜…)


興味も無い校則の事を考えながら髪のセットが完了した。鬱陶しかった前髪をかきあげるだけだけど!視界が開けてちょっと変な感動が俺の胸に渦巻いてるよ!なんで何も使ってないのにかきあげるだけでまとまるのかは俺にも分からないけどね!


「いや〜、領地ではずっとこの髪型だったから、一年ぶりになるけどめっちゃ馴染むわ〜」


制服もわざとヨレヨレにしてたけど、昨日のうちにバッチリ仕上げたからまるで新品のよう。袖を通すと清々しい気持ちになるね!


「さってと…準備OK。行きますか〜」


寮を出て学園の入口を抜けるまでに、男衆が「あいつ、誰だ?」って言ってたが、学園の敷地に入って令嬢達も見かけるところまで来たら………。


「まあ、あの凛々しいお方は誰かしら?」

「見かけた事が無いから、転校生でしょうか?」

「歩く姿も堂々とされていて、実に美しいですわ」

「さぞ身分の高いお方なのでしょうね。お声を掛けたら無礼になるかしら?」


狙ってはいたが、ここまで容姿だけで評価を変えてくるとは…吐き気がするわ〜。でも目的の為にその評価は必要だ。なのでここで畳み掛ける!


「皆さん、おはようございます。今日もお美しい令嬢の方々と共に学べる事を嬉しく思います」


はい!ここで渾身の笑顔っ!!


(……やっべ、自分でやってて気持ち悪いわ俺…)


だがここに通う令嬢は物語の中のキラキラした気障なセリフを普通に言う王子様キャラに弱いのは分かってる!なにせこの国の王子はそんなキャラではないし、そもそもそんなキャラに備わってる優秀さがないからな!ないものねだりだったものが現れたら盛り上がってくれるだろう。


……―――だがこれは俺の予想以上に効果が出てしまう。気障なセリフに酔ったのか、気さくに話しかけたからなのか、俺の周りに令嬢達が一気に群がってきてしまった――。


「あ、あの、私と一緒にお昼にお茶など如何ですか!?」

「あ、ずるいわ!私とご一緒なさいませんか!?」


などなど…次々と群がってくるハイエナども。だけどここで一旦夢から覚めてもらう。必要なのは一過性の人気ではなく、土台をしっかり築いた評価が必要だからだ。


「お誘いありがとうございます。ですが皆さんとご一緒する程の作法が私にはありません。なにせ辺境伯ですから……」


辺境伯という言葉を聞いて、冷める令嬢達。一人また一人と離れていく中、比較的俺の立場に近い身分の低い者達は、自分達の味方になりえる顔の良い広告塔を捕まえようと必死になる。


「そ、そんなことありませんわ!是非ご一緒しましょう!!」


自分達の代表にでも据えて、仮に上手くいったら上々。ダメだったら切り捨てればいい、と思ってるんだろ?残念!逆にお前たちには俺の評価を上げる為に踊ってもらう。


「ありがとうございます。私のような者にお声を掛けて下さるとは…是非ご一緒させて下さい」


そう言って約束を取り付けた。掴みはなかなか、ここからが本番だな。


この日から俺は主に身分の低い者達と男女問わず交流を広げ、一緒に勉強するときは教師役を務め、武術の時には指導を行い、お茶を嗜むときは令嬢達にこれでもかと紳士的に振る舞った。そうしてるうちに辺境伯という爵位など関係なく、俺という個人を心酔する男や、恋慕する令嬢も出てきそうな雰囲気が漂ってきた。そしてトドメとばかりに試験の結果が張り出された日―――(まあタイミングを狙ったんだけどさ)


武術部門一位 アインハルト・ダーウィン

学問部門一位 アインハルト・ダーウィン

作法部門一位 アインハルト・ダーウィン


総合一位 アインハルト・ダーウィン―――


学園創設以来初となると後から知った全部門一位の快挙。これに身分の低い者達は熱狂した。爵位など関係なく、能力がある者はいるのだと。俺としてはここまでなるとは思ってなかったんだが……。勿論、こんな程度の低い連中相手なら一位を取る自信はあった。でも、この腐敗した中央の汚れは学園にも及んでいると思ってたから、忖度が働いて、少なくともトップ3には入らないと予想していたのだ……。


そしてこの結果に納得しない上流階級のバカども。とりわけ王子の周辺は、自身の欲望と公爵の策略で王子にすり寄っていたローザだったかな?を筆頭に「不正だっ!」と学園に抗議をした上に、俺にも噛み付いてきた。


「貴方!公爵令嬢たるこの私と無理矢理婚約者になるだけではあきたらず、こんな不正までするなんて恥を知りなさいっ!?」


「そうだぞ。貴様のような田舎者がこんな成績を取れるはずがない!すぐに不正を告白した方が身の為だぞ!?」


ここぞとばかりに喚き散らす王子とローザだった!はず…の二人が詰め寄ってくる。それに調子づいた王子の側近と上流階級の()()の奴らも責め立ててきた。そしてこれに誰とも交流せずにこれをやってたらいなかったでだろう反論の声が上がる―――


「不正なんて言い掛かりだわっ!!」

「そうだ!自分達が負けた言い訳をしてるだけだろっ!?」


身分の低い者達も俺の成功にあやかろうとしてる奴、本当に心酔したかもしれない奴、恋慕しそうになってるかもしれない奴、思惑は違うだろうがここぞとばかりに不遇な扱いを受けてきた怒りをぶつける。


―――そして、俺の本当の狙いはここから!


「そ、そうだ!成績で負けた恥を不正のせいにするなっ!」

「そ、そうよ!真面目に勉強してない、あ、あなた方がこうなるのは当たり前だわっ!!」


――きたな…今声をあげたのは上流階級にこそ属しているが、その階級の中では下っ端扱いされて不満を抱えていた奴らだろう。ただ不満をぶつけてるだけだろうが、コレでこちらの声のほうが多くなった。そうなると根性の無い王子(ヘタレ)どもは、数の暴力に怯んで、恨めしそうな表情で立ち去っていった。


「皆さん、ありがとうございます。今までは我がダーウィン家の事情により制限をしていたのですがその必要が無くなり、つい楽しくなってしまいました。次の試験でもこのような事態になる可能性を考えたら、やはり伏せたままにしておくべきだったと反省しています…」


「まぁ…、ダーウィン家にはそのような決まりがあったのですか…」

「本当は一位を取る実力があるのに…それを耐えておられたのですね…」

「謙虚なのは素晴らしいことですが、そのお決まりが無くなったのですから、あんな言い掛かりなどに屈する必要はありません!」


近くにいた男達を押し退け、令嬢達が周りに群がってそう言ってきた。まあダーウィン家の事情なんてないんだけどさ。ここでお前らと関わる気が無かったから、目立たないようにしてたんだ。なんて素直に言うわけにはいかない。


さて、王子もローザもコレでごく一部の選民思想のある貴族しか味方がいなくなったけど、次はどう動いてくるかな?中心となった俺を貶める方向がローザにとっては一番都合が良いと考えるとは思うが…家の権力を使ってくる可能性も否定は出来ない。もしそうきたらこちらの味方である陛下は動かせないから、ベルンシュタイン公爵の力を頼るだろうな…。その時は心苦しいが陛下に頼るしかなくなるから、出来たら止めてほしいところだ―――



…―――その頃、下々の奴らに退くしかない選択を取らされた王子達は、権力で学園に押し通した自分達だけが使う部屋で憤慨していた。


「くそっ!クソォっ!!何故この僕があんな下賤な輩に言い返されなければならないんだっ!?僕は王子だぞ!あんな田舎者如きに負けるはずがないんだっ!!」


聡明な国王とは違い、愚かな王子はアインハルトに負けた事を認めようとはしない。仮にアインハルトがいなくても自分が成績上位に入った事など無いにも関わらず……。そしてそれはローザも側近達も同じだった―――


「殿下、落ち着かれて下さい!あのような者が殿下より優れているわけがないのですから!!」

「そうです!必ず不正を行ったはずです!卑しい辺境貴族のやりそうなことです!!」


其々、自分達も大した成績ではない側近達。彼らはただ王子に対する立ち回りが上手いだけの上流貴族でしかない。とりあえず次期国王にすり寄って美味い汁を啜ろうと、王子の意見を肯定して、その自尊心を満たしているだけの存在。それでもその言葉は効果的だったようで、王子はひとまず落ち着き椅子に座った。そして他の者も椅子に座ったところでローザが口を開く。


「殿下、あの下賤な者が不正を働いたのは確実。私と婚約する為に陛下に褒美という形で迫った卑しい者なのですからそれぐらいはやるでしょう。ましてやコレは殿下に余計な心配をさせてはいけないと伏せておりましたが、あの者は私の行動を監視して、偶然を装って私と接触しようとするのです。私、そんな事をするあんな卑しい人と結婚なんてしたくありませんっ!」


不正も監視も当然ローザの嘘だ。殿下を焚き付け、自分の身を案じて欲しいだけ。全ては自分が王妃となるために――


「なっ!?そのようなことまでされているのか!?……あの男!断じて許せん!!」


そして実際、王子にはそれが効果的だった。自分が最も優れているのだと信じて疑わない王子に、不正という分かりやすいエサ。望まぬ結婚を強いられたか弱い令嬢を救うという偽りの正義。どちらも簡単に食らいついた。


「殿下、及ばずながら私もお手伝い致します。由緒ある学園の秩序を守るため、この不正を暴いて断罪いたしましょう!それが叶ったなら陛下の御耳にも届くはず。そうなれば婚約の話も取り消されるはず!…私は殿下をお慕いしているのです!」


私は貴方の味方で、断罪が出来たら学園の不正を正した英雄、そして心の中では自分を慕っている悲劇の令嬢を救った王子。全てが王子の琴線に触れた。


「ああ!必ず我々で不正を暴き、その成果をもって婚約の話を破棄させよう!そしてローザ、その時は僕と結婚しよう!」


そしたらまるで物語のヒーローのようじゃないか、とまだ結果も分からないうちから酔いしれる王子。そして王子との結婚というたしかな確約の言葉が出て、まだそうなったわけでもないのに、上手くいったとほくそ笑むローザ。


自分達が確実に破滅の道を歩み始めたことなど、気付ける者はこの場にはいなかった―――

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