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〇売る気の無い銃火器店 小話

危ねぇんだわ

 商店街のイベントスペースにハンドガンなどが描かれた看板を立てて、期間限定の銃専門店がオープンしている。

 えっと、なになに、今週限定の緊急オープン? 今だけ限定の低価格?

 そんな事言っといて定価で売ってるんだろ、とか思いながらもショーケースに目を向ける。


 俺はこれでもガンマニアだからな、そりゃ銃が置いてあれば目も向いてしまうさ。

 へー、手頃な拳銃だけではなく、ショットガンやマシンガン、非合法スレスレの銃まで取り扱っているなんてこだわってるじゃないか。この辺のは買っても数年後には所持すら禁止になるから買っちゃだめだぜ。


 大きなコンテナに衝撃吸収材をこれでもかと詰め込んで作った、試射スペースまで完備されている。

 真っ赤で大きな字で『大型銃・マグナムは試射できません、死者がでます』と書いてあるな、笑えないジョークだな。

 苦笑いしながら、ふと店員を見ると、ミートボールを大きくしたような巨体の親父に熱心に銃を説明している。まさに販売のトークってやつだな。


 店員は金髪にストライブがガッツリ入ったスーツがアンバランス、入れ墨やらタトゥーやら入ってそうなイメージが湧いてくる。腕時計はこれでもかと文字盤がデカくて、ギラギラと照明を反射して金色に輝いている。


「お客さん、これは良い銃ですよ~」

「ほうほう、銃には詳しくなくてね、これはどんな銃なんだい?」


 親父の方は『ザ・金持ち』と言った印象だな、靴やらカバンやら、どれもこれもブランド物で高級感がありありと見せつけている。

 この国でも十数年前に銃が解禁されて、税金対策に使いもしないのに購入する奴もいるから、あの親父もその口かもしれないな。

 せいぜい、高い銃でも買って行ってもらいたいものだ。


「これはイングラムって言いましてね、女性でも手軽に扱えるように最近改良されたモデルなんですよ」

「なるほど、非力な女性でも、自分の身を守れるようになるのだね?」

「もちろん! 乱暴者が数人いても一網打尽ですよ、ですがね、去年夫婦喧嘩をした奥さんが、こいつのマガジン一本分32発を旦那にプレゼントしましてね」

「おおぅ……」


 金持ち親父の顔がものすごい勢いで曇る。脂汗まで浮いてるが店員は撃たれた旦那がどうなったかまで喜々として語っている。

 俺も手に持っていた、連射型の銃のサンプルをそっと展示台に戻していた。


「な、なら君! このショットガンはどうなんだい?」

「ああ! お目が高い! それはですね暖炉の上に飾ったりできるんですよ!」

「やっぱりそうなんだね、壁に猟銃が飾ってある部屋に憧れがあってね」

「お子さんが、いたずらで手に取ってですね、お父さんに向かって遊び半分で引き金を引いたら、弾が入ったままでしてね」


 壁に飾れると知って一瞬だが笑顔になった親父の顔が再び曇り、眉間には深いシワが刻まれている渋い顔に変わる。

 息子に撃たれる想像でもしたのか、無言のままショットガンを展示棚に戻る。

 俺も、ショットガンシリーズに伸びていた手をゴムが縮むような勢いで引っ込める。


「じゃ、じゃあこれは何だね?」

「それはアパッチリボルバーですね、これはですね」


 それは俺もしっている、マフィアとかが使っていた喧嘩用の拳銃で、ナイフとメリケンサックがくっついているリボルバー銃だ。かっこいいんだが、確か暴発率がめちゃくちゃ高いんだよな。

 親父と店員のやり取りが気になって、9㎜パラベラムとか、ジェムジェム弾とかの弾丸のサンプルを手でもて遊びながら話に耳を傾ける。


「ほう、犯罪者が使っていたのか」

「そうなんですよ、ポケットにも入りますから、どこでも持ち込めます」

「なるほど、護身用にも脅しにもなるか、よし、これをもら……」

「ズボンのポケットに入れてた奴がですね、ポンと叩いたら暴発して、自分の黄金の球を砕いたんですよ! あそこのお客様が持っているジェムジェム弾でね!」


 俺は持っていたジェムジェム弾を投げ捨てるようにサンプル置き場に戻して、自分の両足の間をかばうようにギュッと握っていた。

 ジェムジェム弾はあたった先で砕け散って、周辺の肉や骨を砕くとんでもない弾丸だ、それを黄金の球に打ち込むなんて想像するだけで男性は全員こうなるだろ。

 見ろ、あの親父だって思わす股間を手でかばっているじゃないか。


「きょ、今日の所は見るだけかな、ま、まま、また来るよ!」

「そうですか、お待ちしておりますよ!」


 逃げるように帰っていく親父を店員は笑顔で見送る。

 手慣れた手つきで、ポケットから磨き布を取り出すと、見せていたサンプルの銃を磨き始めている店員。金髪とストライブのスーツ、張り付けたような笑顔が胡散臭いが、あんな金持ちをイヤミったらしく絵に描いた客は売りつけるには最上の客だろう。

 それをなんで、買うつもりが無くなるような話ばかりしたのか、俺は気になったので話しかけてみることにした。

 他のお客さんと話し始める前に声をかけるため、小走りで近づきながら声をかける。


「すみません、ちょっと伺いたいのですが?」

「はい! いらっしゃいませ、どんな銃をお探しですか?」

「えっと、あの、買うというか、その」


 俺はたどたどしく、なぜお客さんが買う気が無くなるような話をしていたのか、それを疑問でぶつける。

 店員は奇妙な問いかけをする俺を笑顔を崩さないまま、応対をしてくれた。


「それはですね、私は銃の危険を十分に知った人に買ってほしいのですよ」

「あの、売り上げ上がりませんよね?」

「そうですね、それでいいんです。これが私の自慢でしてね」


 銃の販売店なのに、売れなくていい、しかも売れない事を自慢するだなんて、本当に奇妙な店員だが、次の一言で俺は深く納得してしまった。


「私から銃を買った人、1人も前科持ちがいないんですよ。これだけ事件や失敗談を聞いても買う人なんて、適切に管理できる人しかいませんからね」


 店員はニコニコとして、銃で行われた凶悪な事件を語り始めた。


銃とか兵器って危ないって話は時々していきます

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― 新着の感想 ―
[良い点] >私から銃を買った人、1人も前科持ちがいないんですよ。 これは大事。やっぱりプロはこうあるべき。
[良い点] 最高に信頼できるお店じゃないですか。 ちゃんと商品の危険性について説明してくれてるし。
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