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何の変哲もない地獄

作者: 柿畑 紫慧

正しい許し


『生きることに許可がいる』というのは弱者の考えである、とどこかで聞いたことがある。精神的に負い目があると、胸を張って人前を歩けなかったりだとか、他人との会話にどうしても障害を覚えてしまうだとか。


それを出生だとか家庭環境に求めてしまうというのは他人任せな気もしてしまうが、そういった状況というのがいかんせん個人の努力や心持ちではどうにもならない絶対的な前提である以上、一般常識でできた『普通』からはみ出したり、片足落っこちてしまうのはしょうがないと、そう言いたい。


「ウゼェから、視界に入らないでくれる?」

「あ、ハイ……。」

学校生活で一番使う言葉、というかこれぐらいしか口を開く機会がない。

ヲタクだとか陰キャだとかぼっちだとかその他もろもろ根暗でコミュニケーション能力が欠落している人間を指す言葉は多々あるのだけれども、そのどれを取ってみても自分が当てはまるというのはある意味凄いんじゃないか、と最近思えてきた。世の中には案外自分と同じような境遇の人間が多かったりするのかもしれない。だからと言って自分への慰めになるわけでもないのだけれども。


高校は、牢獄だ。義務教育という縛りから解き放たれても、なおも勉学の箱の中に居続ける。『学校』という環境が苦痛でない人間にとっては青春時代を飾るキラキラとした場所なのだろうが、僕みたいな人間からしたらただただ地獄となんら変わりない。同じ土俵に立っているはずなのに、見下され、蔑まれる。結局のところ、勉強ができるできないの話ではないのだ。中学校時代までに獲得した世渡り能力の修練の場、それが高校というところだと思う。


「ハイじゃペア作って〜」

次の時間は体育だった。体育教師がなんてことないかのように言う指示に

びくりと体が反応する。だから嫌なんだ。学校の教師というものは。

生徒のことをなんでも知っているフリをして振る舞うくせして、何も理解しちゃいない。そしてそれを、自分から認めようとしない。わかっていますか?あなたがどれほど残酷なことをしているのか。


病欠で普段組んでいた人がいなくなった、顔しか知らないクラスメイトと組む。ただただ気まずい時間が流れるのだった。ポジティブに考えれば、この高校という地獄の片鱗を共有できているのだから、少しはいいのかもしれない。そういう考え方しかできない自分にまた、反吐が出る。


体育が終わって、移動教室で図書館の前を通り過ぎたときだった。


「やぁ。」


声をかけられ、思わず振り向いてしまった。この学校という場所で、自分に対して声をいかけてくる人間なんて存在しえないのだけれども、その声はあまりにも自分に向けられている気がしたから。


ありえない事に、声の主はこちらをまっすぐに見つめていた。彼女が口を開く。


「つまらない目をしているな、少年。面白い事をしないか?」


これが、出会い。なんの変哲もない地獄が、何かに変わる前触れだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] いい意味でも悪い意味でも、続きが気になる感じでした。 声をかけてきたのは、『彼女』としか分からないので、生徒なのか教師なのか。 なぜ声をかけてきたのか、等々。 主人公にとって、良い転換に…
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