表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽園の守護者  作者: 神崎真
第一部
7/82

第六話 風の吹く谷 序章

 風の強い晩だった。

 空は、墨を流したかのように暗く、黒く、不透明に濁っている。

 嵐の前触れか、不快な生暖かい空気がじっとりと肌にまとわりつくようだ。

 闇の中に、生き物の気配があった。小さく潜められた早い息遣い。懸命にひそめようとしながらも、どうしてもこらえきれないかすかな喘ぎが漏れ聞こえてくる。

 気配はひとつだけだった。そのたったひとつの気配が、伸ばした手の先すら見えぬ暗闇の中で、怯え、わななき、身を縮めてうずくまっている。

 風が大きく枝を揺らすたびに、引きつった吐息とすすり泣きが漏れた。

 どれほどの時間が過ぎただろうか。

 がさりと、茂みの揺れるひときわ大きな音が響いた。

 同時に、闇を透かして漂ってくる、異質な気配。

 息遣いの音もなければ、体温が伝わってくる訳でもない。それでもそこに『何か』がいることが『わか』る。

 悲鳴があがった。最初の気配も『それ』の存在を感じ取ったのだ。逃げようとしているのか、懸命にもがいているらしい。だが、いっかなその場から離れられてはいない。

 枝が折れる音。

 重い物が地面を擦る振動。

 『そいつ』は確実に近付いてきている。がさがさという、得体の知れない響きが徐々に大きくなってゆく。

 そして、

 厚く天を覆っていた暗雲が、その時だけわずかに切れ間を生じた。

 薄いベールを広げたかのように、月の光がひとすじ差し込んでくる。

 照らし出されたのは、ぼろをまとい地にうずくまるひとりの少年だった。そして、覆い被さるようにして彼を見下ろす、巨大な影。

 少年の目が大きく見開かれる。痩せこけ骨の浮いた喉が、引きつったように上下した。

 絶叫は、影が襲いかかる音にかき消される。

 やがて、

 再び雲が流れ、あたりは闇へと閉ざされていった ――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ