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楽園の守護者  作者: 神崎真
番外編1
19/82

予定外の出来事

 王都の一角。下町にほど近い路地裏で、二人の騎士が剣を抜き、立ちまわりの真っ最中であった。

「ああもう畜生! てめえらのせいでッ」

 口汚い罵りと共に、毛玉のような形をした妖獣が両断される。

 異臭を放つ体液をほとばしらせ、分かたれた肉片が石畳の上へと落ちた。全体に密生した太い触手が、断末魔に激しいざわめきを見せる。

 が、それも間もなく力を失い、ぐんなりと動かなくなった。そんな様をかえりみもせず、ロッドは残る妖獣を数え、大きく舌を鳴らす。

「本当なら今頃は、矢車亭で冷えた麦酒をきゅっとやってたはずだってのによ!」

 なんだってこんな場所で、汗まみれになりながら剣などふるっておらねばならぬのか。

 延々愚痴り続ける彼の横で、アーティルトが小さく肩をすくめていた。彼としてもこの状況は喜ばしいものではなかったが、あいにくこの青年は、ロッドのように不平を口にして気晴らしをするという行為ができなかった。

 もっとも無言のアーティルトを埋め合わせるかのような勢いで、ひたすらロッドがしゃべり倒している。それを聞いているだけで、心の内に芽生えていた不満も、消えていくような気がしたりした。

 そもそも ――

『動いたあとは、きっと、もっと、美味しい』

 指文字でそう告げると、口の悪い青年は、どうだかなと毒づいた。そうして再び剣をとりなおし、妖獣のただ中へと突進してゆく。



 ―― だからそんなに嫌なら、妖獣など無視して酒場へ行ってしまえば良かったものを。



 アーティルトは苦笑混じりにそう思っていた。

 妖獣が現れたと耳にすれば、すべてをさしおき駆けつける。

 どれほど不平を言おうと、愚痴をこぼそうと、必ずそうする彼だから。

 素直でないその態度の微笑ましさに、つい己の不満などどうでも良くなってしまう、と。そんなふうに言ったなら、きっともっとすさまじい罵詈雑言が返ってくることだろう。



 とにかく、まずはこれらを片付けて、そうして一緒に酒場へ行こう。少し予定よりは遅れても、運動した後の酒はより旨くなるし、からかう材料も仕入れられたし。

 気合いを入れ直すアーティルトの耳に、ようやく妖獣発生の連絡を受けたのだろう、出動してくる仲間達の足音が聞こえてきた。

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