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深夜ワニを追うサメ

風見鶏ホテルの静かな深夜。


素早い正義のワニ、ティア様との情報交換に成功した興奮で私はなかなか寝付けず、得られた情報をまとめたり、やるべき事を整理したりと一人での作業に没頭していた。


(マジカル回復魔法の詳細は聞くべきだったか)

(しかし頼りすぎるなというのは魔法に限らん)

(むしろ被害を出さずに止める気概で無くては)

聡明な3匹のサメも思考を巡らせる。


((((((ビーム…!))))))

6つ頭のサメは未だ興奮が醒めない。サメなのにさめない。



温泉から上がってすぐにティア様は眠ったのだろう。部屋に戻る途中で眠そうな声で寝ます宣言していたし、あの方ならきっと入眠も迅速だ。



…そして、お夜食をつまんでからもうしばらく経った後、静寂の真夜中に突然緊張が走る。


((((((ホテルの外に何か飛び出た!))))))

何の音もしなかったが、圧迫感のような何かがホテルの窓から飛び出ていった。これは恐らく…というか単体で空を飛ぶような存在は今の所ティア様しか知らないが、初めてお会いした時はこんな…なんというか、ここまでの迫力を感じなかった。


(追うぞ!)(只事ではない!)(何か起きたに違いない!)

慌てて靴を履き、ドア…ではなく窓を開ける。恐らく何らかの緊急事態だ。令嬢らしさを一旦諦めてこちらも最強のサメとして全力で追わねば。


「てやっ」

窓から隣の建物の屋根に音もなく跳んだ私達サメは、既に遥か彼方を飛ぶティア様を追って夜の街の屋根の上を全力で駆け出す。


空を飛ばない方のサメなので飛行は身につけていないが、浮かんでいるものを追うのは得意中の得意だ。しかし…


(月明かりではよく見えんが…)

(あれはまさか今から変身しようとしてるのか?)



なんとなく魔法少女として魔法を扱っているのかと思い込んでいたが、ティア様はなんと生身の状態で高速飛行魔法を使い、そして淡い光と共に今から変身を行おうとしていた。

((((((!!!!))))))

(落ち着けシックス!)(どうせ遠くてよく見えんぞ!)


光の中で服が消えると共に幾重ものリボンが体に巻き付き、何らかの効果でフリル溢れる魔法少女の衣服が彼女を包む。意外なほど直球の変身だ。


((((((王!!道!!!うおおお!!!))))))

(いや結構見えたな)

(派手だったが、これオーソドックスな魔法少女では無いか?)


それは最初に見た時とは違う、華やかな魔法少女のイメージそのままの姿で…そして彼女の飛行速度は急激に速くなった。


「こ、これ、は、速すぎるかも、しれません」

人の目を気にしない全力全開の走りで追いつけないのは初めての経験だった。生身の状態で既に強力な魔法をこなすティア様は、恐らく魔法少女への変身でその魔法が更に強化されるのだ。


(これは…少し甘く見ていたかもしれんぞ…!)

((((((まだ!もう一段!))))))

(何!?)



超高速で飛行する魔法少女姿のティア様の周りに一瞬ワニの幻影が何体も現れ、それが光と共に幾つもの装備となって彼女の体に装着されていく。


(…まさか、魔法少女マジカル勇者戦隊アリゲーター仮面とは)

(魔法少女に変身した上から更にヒーローに変身してるのか…!?)

(そんな属性過多許されるのか!?)

((((((うおおおかっこいいいい))))))


そして、それは当然見かけの変化だけではなく、ただでさえ超高速のティア様の速度がいきなり数段階跳ね上がり、追いつくどころかあっという間に見えなくなってしまう。これが”プレイヤー”かつ正義のワニの本気…。


(…実は、仮に我らが操られるという形で”プレイヤー”に血の惨劇を止めてもらうしか無い場合、向こうがサメに拮抗出来ないとマズイかもしれんなどと内心考えていたのだが…)

(マスターゴリラの時にも思い知らされたが、我らサメはどうやらまだまだかなり甘いらしいぞ)



少し緩んでいた気を引き締め、こちらも加減なしの全力で駆け抜ける。例え見えなくなっていても、ティア様は明らかに何かをめがけて一直線に飛んでいたから、その直線方向から外れなければ、きっと何かに辿り着くはずだ。




 * * *




本気を出した超高速のティア様のあとを追いかけ夜の街を疾走し続けた私達サメは、ようやく何らかの異常を遠くに確認する。


(あれは…火事か?)(ボヤ程度に見えるが…)


民家で小規模な火事があったように見えるが、既に夜警の人や消火の人がポンプに魔法にと街の人間の力で消し止めている所で、見た所怪我人も無く、正義の使者が飛び出して駆けつける案件では無いようにも思えた。



((((((いや、違う、何か違う)))))


私達サメの中で最も感覚処理に優れる6つ頭のサメが違和感を訴え、改めて念入りに観察すると、空をキョロキョロと眺め何かを探す女の子がおり、その子の寝間着は片方の手の部分だけ焼けて汚れていた。


(服だけが燃えて無傷に見えるということは…これが例のマジカル回復魔法か?この為に来たと?)

((((((もっと、何か全体的におかしい))))))

(全体…?)


「少し、わかりました。恐らくティア様が何かしたのは間違いないのに、街の方々が自力でうまく対処してるだけにしか見えないのです」

(ふむ…?)

((((((そう、多分色々してるけど見えない))))))

(割と派手で正体を隠すといった類の存在では無いと思ったが…)

(となると天秤がどうとかの話ではないか)


天秤。そういえばティア様は自分の正義を天秤だと言っていた。何らかの偏りを避けたという事…?


(ああ…確かに…。例えば天秤が戻らぬほどの重い事件でもなくなり、活躍も自分だけに偏らんという感じか…?)

(本人に聞かないと真意までは分からんが、天秤でイメージする行動を念頭に置くとそんな雰囲気はあるな)


「出来れば近づいて話を聞きたいですが、私が居るのは不自然すぎますしティア様の思惑を崩す恐れもありますので、このまま遠巻きに通り過ぎて彼女を探しましょう」

(ここ以外にも目的地があったならお手上げだが、ここで終わりなら近くに居るのではないか)

((((((多分…向こうの…山の方…?))))))



言われてみれば、あの圧迫感のようなものが微かにある気がする。

(感覚では本当にシックスが頼りになるな)

((((((感覚以外も頼りになる))))))


「とりあえず、行ってみましょうか」



正義のワニを追いかけ山へと入るサメ。


深夜の山道は月明かりがあっても暗く、下を歩いていては視界が殆ど無いため、私達は枝から枝へと飛び跳ねて移動し木々の間から定期的に空へ顔を出す。


今の私は令嬢ではなく、闇夜を駆け抜け謎を追う探偵忍者シャーク天狗といっても過言ではない。探偵と忍者と天狗は近しいミスティック存在で、いわばサメだからだ。

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