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目指せワニとのお泊り会

シックスヘッドなサメは多数決を封印されている

悪役令嬢に9匹のサメを加え、更に信頼できる友2人の知恵を合わせた対ワニ用の知的お手紙・改。


しかし、彼女の居場所情報獲得に最も効力を発揮したのは宿屋のご主人に多めのチップのお返しとご厚意で頂いた風見鶏ホテルの割引クーポンセットだった。


そう、本当に旅先アンケートにクーポンを付けたのだ。


その結果、正義のワニであるティア様は10日分の割引クーポンをその場で全て使い、隣町の風見鶏ホテル滞在を延長した。



「うーーーーん」

(基本いつも肯定的かつ協力的なんだが…)

(なにか妙な敗北感がつきまとう…)

((((((クーポン正解褒めてほしい))))))

(天才だぞシックス)


あまり早起きが得意ではないのに連日隣町の宿屋まで早朝マラソンはなかなかしんどく、まぶゆい朝陽の中をヨロヨロとしながら学校へ向かう。


サメである私は体力にかなりの自信があるが、悪でもある私はいつもなら二度寝に留まらず四度寝まで平気で行いぼちぼち遅刻する邪悪さを持っているのだ。眠いのだ。



「ごきげんようシャーク様。間に合いませんでしたか」

「ごきげんょぅエレン様…間に合ぃませんでした」

いつのまにか隣にエレン様がおり、ちょっと気が抜けていた私は緩い挨拶になりながら情報を共有する。


「やはり学校のある日に直接お会いするのは難しいかも知れませんね」

「はい。なので今週末に私もメイドさんに付いてきてもらって風見鶏ホテルに宿泊させて頂くつもりです。ティア様はクーポン分しばらくあのホテルに滞在されるようなので」

「まぁクーポンが有効でしたか」

「はい…」


結果を得てから考えれば、即座にアンケートに答え即座にクーポンを使い切るティア様の姿が目に見えるようだ。速い。とにかくあの正義のワニのお方は速い。


「聞けばあのホテルには広めの温泉があるらしく、うまくいけば食事と入浴をご一緒して会話の時間を作れるのではと思うのです」

「なるほ…ど…!?」

「私サメなのでプールや温泉とても好きなのです。誰かが水の中に体を入れてる姿を見ると美味しそうで非常に心が躍ります。なので単純にちょっと楽しみですわ温泉」

「……なるほど…!楽しみですわね…!」



途中、悪らしく朝のパン屋さんで買い食いして優雅にコーヒーまで頂いていた私達は、早朝から起きていたにも関わらず学校に着いたのは遅刻ギリギリで、危うくまた怒られる所だった。




 * * *




「お着替え小道具その他諸々。すぐ近くの隣町に一泊だけのお泊りですしこれでも多い気がするのですが」

「容積の大半は枕と掛け布団ですわお嬢様」

「ああ、そうでした。羽毛でうっかり食い千切るわけには」


週末学校から戻った私は大急ぎで準備を整え風見鶏ホテルへと向かう。距離の近さから少し気軽に考えていたが結局小さな旅行程度の手間がかかり、到着する頃には夕飯の頃合いになっていた。


荷物を預け部屋を確認した後、ホテル入口の広間に戻った私達サメは、全神経を張り詰めて素早い正義のワニを見逃さないよう身構える。


すぐ近くにはホテル内食事処の入り口。外には煌めく食事処の看板達。いつ戻るか分からないワニのティア様。鳴り響く私の空腹の音。


これは、想像以上に長く苦しい戦いになるかもしれない。

((((((先に1回食べよう!!!))))))

(我慢だシックス!)(それで見逃しは辛い!)(今も辛いが!)



カチ、コチ、カチ、コチ、ぐー、ぐー、きゅるるる。

実際の時間は大して進んでない。だが腹時計は大騒ぎだ。助けて。


「あらあらお嬢様、運命の人を待ち焦がれる乙女にしてはかなり眼光が鋭くなっておりますわ」


少ししてメイドさんが軽食を持って現れる。なんて気が利くのだろう。


「ありがとう、本当に完璧なタイミングでしたわ。後はもう大丈夫ですから小さな旅行で羽根を伸ばしていて下さいね」

「お役に立ちたい気もしますが、出過ぎ無いのもメイドの嗜み。控えておりますのでいつでもお呼び下さい」

「いけない忘れるところでした。食事のタイミングで先にここの食事処のオススメを探し出しておいて頂けると助かりますわ」

「ふふ…お優しいお嬢様、お任せを。私は悪いメイドですから、余分な遠慮で逆にお気を煩わせるといった硬いミスとは無縁なのです」


悪の令嬢には悪のメイド。頼りになって頼りやすい素敵なメイド。後方支援により気力の回復した私達サメは再び正義のワニを待つ体制に戻る。



長い戦いになろう。実際には全然大した時間が過ぎてないが、こう、体感が凄く長くなるだろう。だが引くわけにはいかない。


カチ、コチ、カチ、コチ、ぐー、ぐー、きゅるるる。

カチ、コチ、カチ、コチ、ぐー、ぐー、きゅるるる。


やっぱり一度引いてもいいかもしれない。

((((((そうだそうだ!きっと来たら感知出来る!))))))

(諦めるな!)(誘惑するな!)(心が折れるのが早すぎる!)



多分食事処に居ても見つけられるんじゃないか。それに急いで食べればさほど隙も無い気がしてきた。

((((((そうだそうだ!))))))

(ノー!)(ダメだ!)(服装とか違ったら遠目じゃ無理だ!)


自分との戦いは激戦になってきた。だが本体は悪役令嬢で、サメ9つの内6つは大体いつも悪事の味方。多数決でなら勝ち目は薄いのでは。

(すぐズルするな!)(令嬢らしさを忘れるな!)(大体まだ全然時間経ってないぞ!)


激論渦巻く私の中のサメ会議。私の心の中のタイフーン。そう、即ち悪役ナインヘッド令嬢シャークタイ

「あれっシャークさん!こんばんわ!」

「…!ティア様!こんばんわ。お会いしたかったです。本当に、本当に!」


タイフーンはキャンセルされた。普通に入り口からティア様が入ってきたのだ。


これが、ギリギリのピンチに正義の使者がやってくる感覚。長らく会うのに失敗していた事もあり、こんなにも心が熱くなってしまう。惚れてもおかしくない。

(いかん吊り橋効果的なやつだぞ!)(ギリギリと言うほど耐えてなかったろうが!)



「ティア様、ちょっとだけでもお話がしたくて参りました。本日はお食事ご一緒させて頂いても宜しいでしょうか?」

「はい!食べましょう!」

「よ、よかった、本当に。これで先に食べてきたと言われたら泣いてしまうところでした」

「食べてないです!ぐーぐーです!」



いつも想定を外され唸る事が多く不安だった部分まで解消され、今の私にはティア様が光り輝いて見える。というか本当に光ってた。変身を解いたのだ。魔法少女マジカル勇者戦隊アリゲーター仮面の。


光の中身はパッと緑のスポーツウェアの背が低い少女に変わる。

((((((ま、まぁ解除は光るだけでも変身はきっと…))))))

(変に期待しすぎるなシックス!)


「悪役たる私の前で変身を解くのは大丈夫なのですか?」

「食べづらいので!変身無くてもワニは無敵です!」

「なるほど。その辺りも詳しく伺いたい所ですわ」



サメとワニが揃って食事処へと入っていく。これは情報を得る為の戦い、正義と悪の初対決でもある。


そして、大食らい2人に同時に食いつかれたシェフ達の熱い戦いの始まりでもあった。

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