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家とアザラシとサイコロの日

外に出ない日もある。サメが海にも居るように。

休日はいつもなら”プレイヤー”を探し回っていた私達悪役令嬢のサメも、遂にその”プレイヤー”でありながら正義のワニでもある少女のティア様と出会い、そしてその出会いによってほんの少し何かから解放されたことで緊張がほぐれ、今日はただひたすらぼーっと過ごす堕落した休暇を満喫していた。


視線の先には廊下を掃除するメイドさんの後ろ姿。この世界は元がどうも若干知能が緩めなゲームのため、メイドさんの階級のようなものも妙にあやふやで、そしてメイド服はなんだかフリフリしていて可愛かった。


((((((アザラシ…))))))

6つ頭のお馬鹿なサメがつぶやく。

(……)(……)(……)

聡明な3匹のサメが無言の肯定をする。


私達は主に海のサメの令嬢なので、白や黒基調の丸く膨らんだ服はついアザラシを連想してしまい、味や感触を確かめたくなるのだ。


といってもあくまでも私は令嬢。いくら悪役でもそうそうはしたない悪事を無意味に働いたりはしないモミ。すごく柔らかい。


「あっお嬢様いつのまにっ」

スリスリスリかぷかぷかぷモミモミモミ

「ああっお嬢様お戯れをっ」

無理だった。全然無理だった。



「死角からの接近がサメになりすぎていますわお嬢様」

「もっとアザラシ感の無い色のメイド服に変えてくださっても良いのに」

「アザラシ感が出る方が良いのです」

「でも私サメですから絶対触ってしまいますわ」


「お嬢様は見目麗しく優しい悪の乙女ですから、お戯れ頂く意味も色々異なりますし、うまくすれば玉の輿に選ばれてしまうかも知れませんからね。なんでも許せてしまうといいますか、望む所といいますか」


「なんて悪い策略を。やはり悪役令嬢の屋敷だからかしら…」

「美しき悪たるお嬢様に相応しき悪を。抜かりはありませんわ」



何度メイド服の色変えをお願いしてもうまいこと冗談で流されてしまう。手強いメイドさんだった。

「皆様ジョークがおジョーズ、サメ屋敷」

「サメダジャレだけは許せませんわお嬢様」

「でも私のサメ俳句…」

「俳句だと知ったらますます見過ごすわけには参りませんわ」


手強いメイドさんだった。




 * * *




午後の緩やかな時間を私達サメは書斎で過ごす事に決めた。


あくまで私が学び舎に通う為のお屋敷なので書斎も建物自体もあまり大きいわけでは無いのだが、本宅と違い両親の目が無い自由な居場所の、更に私だけの静かな書斎となれば、居心地の良さは5つ星の満点だ。


((((((スヤァ…))))))

(到着した時点で寝るなシックス!)



ここには数多の物語が眠っている。怪物潜水艦。5万年前の月のミイラ。南極の狂った山脈。私達にとってはどこまでがフィクションなのか判別出来ない向こうの世界の物語。


きっとこの中にも私達のように無限の可能性を得て新たな世界へと分岐した異世界やサメが沢山あるのだ。


「でも今日はロマンにふれずサイコロを振りましょう」

(良い案だ)

(やはりロールを超えんとするならロールプレイが良い鍛錬となろう)

(楽しい鍛錬なら積み放題だ。久々にキャラクター作成からいこう)

((((((ゲームはやる))))))


元々そう簡単に惨劇を起こす気も滅ぼされるつもりも無かったけれど、少しだけロールに囚われすぎていたのも自覚したので、少しずつ視野を広げていかなければ。


そしてそういうのは、必死さや厳しさで眉をしかめ細めた目だけじゃきっとダメなのだ。悪の令嬢らしく真面目すぎず優雅にいこう。鍛錬であっても楽しく美しく。大きく目を輝かせて過ごすのだ。


(ゲームマスターの出す目が大きすぎる)

(敵の命中回避のダイスがこうも高いと何も出来んぞ)

(期待値は出ないものなのに期待値でも届かないぞ)

((((((GM!6つ頭なので6回振りたい!))))))

「却下ですわ。さぁ、ちゃんと避けて下さいね」


コロコロコロコロ。私のダイスが転がるたびにサメが悲鳴を上げる。愉しい。


「気持ちよく勝たせてこそ一流の悪役なのかも知れませんが、私達は一流なだけではダメかも知れませんから…本日は純粋な出目勝負と参りましょう。避けるべき運ゲーにも飛び込みましょう」


(いかん悪のダイスとの適正が高すぎる)

(味方の時はダイスに頼らない固定値が大事とか言っていたのに)

(遠慮の必要ない我らを実験台にしたな)

((((((たすけて!いつもどっちか1が出る!))))))

「お覚悟を」


悪役令嬢の大きな輝く出目の嵐が9つのサメを蹂躙していく。そう。この卓上に吹き荒れるトルネードもまた一つの悪役ナインヘッド令嬢シャークタイフーンだった。



「……やはり実戦では運任せにならないような下準備が大事ですわね」

((((((知ってた!!))))))

(鬼!)(悪魔!)(チェーンソー!)



楽しい時間を過ごすだけではなく、この書斎に来たもう一つの理由も手に取る。それはいくつかの魔術書。恐らくは、この中のどれかが血の惨劇に関わる筈なのだ。


(どれも何度も読んで覚えているがな)

(魔を喚ぶのか契るのか…或いは狂気に堕ちるのか)

(複雑なAIを用いるからにはやはり発動と内容に柔軟性があるのだろう)

「何度でも読んで想定を広げ下準備しておきましょう」


恐らくはこの街で最も重要なイベントが私による血の惨劇。そして”プレイヤー”の自由度が高いゲームではイベントの条件と内容も単一では済まされない。



つまり、私達は自分が犯す罪を知ってはいても、なぜ起きるのかは知らないのだ。



「やはりゲームマスターを体験すると少しこの世界への理解も深まりますわね」

(イベント管理のページがキャラ管理のページと別にあるような感じだろうな)


恐らく今の私は念入りに準備された完成一歩手前のパズルのような状態で、残りのピースに重大な何かがある。少なくとも惨劇と呼ばれるほどの人数を……私が…私が手にかけるような何かが…。


「…明確に対象が役割に刻まれていないというのを希望的に考えれば、”プレイヤー”たるティア様が駆けつけるのが早いほど犠牲が減る仕組みの可能性は高いと思うのです」


(やはりあの者とは可能な限り情報を共有しておきたいな)

(だが頼りきりもダイスのように不安定だ)

(他の手も第二第三、何手でも積み上げなくては)

((((((筋肉!))))))


「そう、あらゆる局面を見据え知恵と勇気と肉体を鍛えあげましょう。心・サメ・技・体。即ちタイフーン」



悪の役割から産まれ多くのものを得た私は悪に誇りを感じているが、その悪は令嬢に相応しき美しく楽しく責務あるべきもの。ノブリスサメオブリージュだ。


私達は犯人だけど強き名探偵にもならなくては。起きてない犯行の動機と凶器と狂気を突き止めて、守りたい人達を守らなくては。どうも推理小説としては成立出来ない不利な歪さを感じるが、その代わり私にはサメがある。


海を越え世界を越え既成概念を超えていく、サメの力が。

実は2話以降をサメ映画摂取の要である午後のロードショー手前の時間帯に投稿しようとしているので、土日は午後ロー無いから投稿も無いつもりだった。


だが、本日7月4日は、「ジョーズ」の海開きの日という情報が入ったのだ。なので主人公の目的を明確に書き記し物語を開く日となり、これは実際かなりIQが高い行いのため、かなり褒めてもらえる筈なのだ。

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