インターミッション、覚悟は出来てたり出来てなかったり
パジャマパーティと悪魔探索の休日は、重要な情報と進捗を得て、重要な問題も発生する、予想外に大変な休日だった。
まず、私が起こす予定だった血の惨劇は、ある悪魔が他の悪魔を助ける為に、私に取り憑いて地獄の門を開く儀式を行うというのが実態の可能性が出てきた。
それを防ぐこと自体は簡単というか、この世界の元となったゲームの状態とは違い、私に用意されていた余剰スペースは既にサメで埋まっていてもう悪魔は取り憑けなくなっており、何もしなくても恐らく回避出来る事が分かった。
…ここまでが得られた重要な情報と進捗のほうで、発生した重要な問題のほうは、何もせず回避してその悪魔を見捨てるわけにはいかないという部分だ。
助けられる予定だった悪魔は、どうやら人に被害を出さぬよう瘴気を抑えながら滅ぼされるのを待っている状態で、放置して倒れ瘴気が解放されれば人に被害が出る、いわば心情的にも実情的にも放置出来ない時限爆弾なのだ。
(真実かどうか、あるいは裏があるかは気をつけねばならんが)
(悪魔がこちらにいて、対処が必要なのは確定だ)
(悩み所は多いがやるべきこと自体は単純だ。悪魔の対処だ)
朝の登校中、聡明な3匹のサメと情報をまとめながら思案する。
「…少し、ティア様への負担が気になっています」
正義の使者であるティア様はとてつもなく強い。問題となる瘴気ごと悪魔を消滅させる事も出来るし、悪魔の方もまたそれを待ってるような言動を見せた。もしも最悪の結果になっても、被害を最小限に抑えながらいくつもの悪魔を消滅させ、この事件を解決するのも可能なのでは無いかと思う。
しかし、最初に会った時、ティア様は悪の私も助けると言った。
あれは、なんというか、無邪気で、綺麗で、私にとって凄く凄く大事な言葉だ。その結果が私とは別の者を手にかけて心の負担を背負うだけでしたなんて、そういうのは、そうやって汚されて終わるのは、絶対ぜったい駄目だ。
(…我らサメとて原因の一つにされて終わる気など全く無いぞ)
(我らが居て取り憑け無かったから出る問題など見たくない)
(悪知恵を絞るぞ、問題など解けば良いのだ)
((((((ヒーローはいいぞ))))))
「そうですね、私達はルール無用の悪いサメ。ヒーロー役だって奪っちゃいましょう。勝手に苦いものを背負うなんて許さないし、勝手な犠牲も認めない。全部、全部私が決めるもの。誰にも勝手は許さない。なかなか悪役令嬢に相応しいセリフです」
((((((そうそう!いい感じ!))))))
ヒーロー好きな6つ頭のサメもどうやら全面協力体制だ。
「では私は情報面からシャーク様のサポートを」
いつのまにか隣を歩いていたエレン様も協力体制だ。
「情報こそ最も鍵になる大事な力。頼りになりますエレン様」
「なのでゴーストゴーレム八岐之大蛇メカドラゴンをお貸し頂きたく…」
「だめです」
「そんな…!」
ハイドラさんは今ティア様が持ち歩いている。現状一番安全な場所なので。
(情報…情報か。安全に調べられて、必要なもの…)
(安全に地獄の門を開く方法か?いや、門に限定は不要か)
(どんな方法でもいいから、安全に悪魔を帰す方法か)
「…エレン様。情報と言えば、昔オカルトブームがあったのをご存知でしょうか」
そういえば、ほぼタコの悪魔のクラーケンさんがこの近隣でオカルトブームがあり、それで喚び出されたっぽい事をわざとらしく仄めかしていた。もし、地獄の門とやらに頼らず帰すヒントを探すとしたら、今必要なのはどうやって召喚されたかの詳細かも知れない。
「オカルトブームですか…ちょっと難しいかも知れません。例えば怪しいおまじない等はそれこそ常に流行ってたり、オカルトをテーマにした作品が人気になるたび特定の世代で流行ったり、有るか無いかというより多すぎるのですわ」
「なるほど…言われてみれば本物の魔術を習っても全然理論に関係ない恋まじないが別で流行ったりしてましたね」
「ですが、なるほど方向は少し分かりましたわ。何らかのオカルトブームによって不完全に喚び出された可能性があるのですね」
「はい。あくまで可能性ですが…」
「悪魔だけに」
「やりますねエレン様」
「ふふ、少し頬を緩めて心も脳も柔らかくいこうかと」
「そうですね、令嬢たるもの推理も優雅に行きましょう」
(ダジャレはあんまり優雅じゃないぞ!)
「シャーク様、まずは優雅の第一歩として、優雅に遅刻を回避しましょう。実はギリギリなので声をかけたのです」
…良き友のおかげで、少し眉間のシワと頬が緩み、遅刻を免れた。いつも感謝してもしきれないので、ハイドラさんに頼み込んで休日にゴーストゴーレム八岐之大蛇メカドラゴンを堪能できるサービスデーを作らなくては。
* * *
いつもの昼休み。もはや定番の3人乙女相談会だ。
「ふむ…確かにどんな方法でもいいから悪魔を元の世界に戻せれば万事解決ですね。やるべきこと自体はもう明白だ」
「そして、悪魔を呼ぶ原因となった可能性の高いオカルトブームを探し出せれば、なぜ喚び出せて、なぜ帰せてないかのヒントを得られると思うのです」
朝相談したエレン様に加えてケイト様にも意見を共有する。
「いや、さすがシャーク様。苦手分野に立ち向かう覚悟はもう出来ているというわけですね」
「え?あれ?」
なんだろう、絶対頑張るぞ的な覚悟は確かに今朝していたが、そんなノリじゃなかったような。
「覚悟に応えて、私も出来る限りとびっきりの情報を沢山集めてくるつもりです」
「え?なんです?どういうことです?」
エレン様も乗っかってくる。え、なんだろう、なんか怖くなってきた。
(気づいてなかったのか)(悪魔召喚が絡みそうなオカルトだぞ)
「我がライバル、シャーク様が無事問題を解決出来るよう、知恵と人脈の限りを尽くしてオカルトを収集して来ますとも」
「私情報収集にはそれなりに自信があるんです。情報協力の約束通り全力でオカルトを収集して来ますわ」
「あれ?なんかちょっと思ってた感じと違ってきました。いえ、まさにお願いしたい情報なんですけど、なんかちょっと、なんか駄目な感じがします。あれ?」
(先日も聞いたばかりだろう)
(超常現象、普通じゃありえない出来事)
(それも悪魔や瘴気が絡みそうなもの)
「え…っ?あれ!?ちょっと待ってください、まさか、まさか怪談!?また怖い話なんです!?えっ絶対嫌です!!!いや私全然怖いのとか平気なんですけど!ちょっとしばらくはいいかなって!!」
「まぁまぁ。本物の幽霊にも悪魔にも出会っているシャーク様にはもう怖いものなんてありませんよ」
「本物の幽霊だって怯えてましたよ!!特にエレン様の怪談に!!」
「まぁ光栄です。私きっと本物の恐怖を超えられるよう頑張りますわ」
「駄目!逆!逆なんです!!超えないように頑張って下さい!!」
大変なことになってしまった。こんなはずではなかった。自分が話をふった上に絶対必要な情報であって絶対聞かなきゃ駄目だけど絶対聞きたくない。
週末にはスタンプ付きのパジャマパーティが再び開かれる。週末までにもう自分でなんとか怖くない感じでオカルトを収集したり、アン先生にホラー撃退拳を学んだりしなくては。