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身近な悪魔

パジャマパーティの翌日昼間。悪のサメである私と正義のワニであるティア様は、その、なんというか特殊なものを抱えて町外れの山中にあるらしい洞窟に向かっていた。


危険な悪魔が近くに潜んでる可能性があるので、まずはその真偽を調査するのだ。



「……ぁ…あの…そっちに痕跡が視えますわ…」


私の持っている、その、メカ頭が9つある玩具っぽい何かから方向を促す声が聞こえてくる。日中でも存在出来るようになった幽霊、ゴーストゴーレム八岐之大蛇メカドラゴンのハイドラさんの声だ。


メカの内部には遮光塗料が塗られ、目の部分はサングラス的な素材になっているので、その、多分、中が夜みたいな感じなんだと思う。


「……ぁの…なんか…よくみたら中にびっしり文字書いてある部分が…怖…」

「えっと!ゴーレムの72単語です!多分!」

(聖なる語句を刻むあれか…これ本当にゴーレムなのか…)


魔術に長けたティア様も聡明なサメも歯切れが悪い。私も正直これがなんなのかうまく説明出来る自信が無い。


「…その…怪盗メカシャークVSアリゲーター侍ロボ…とは…?」

「うっ!?」「あっ」


思わず顔をそむけるティア様と私。聞かなかったことにしよう。あるいは聖なる72ではなくサメを愛するエレン様にとっての悪魔72柱的な何かが魔術の為に刻まれているのかもしれない。



「…ぁ…ここですわ…」


ハイドラさんの案内に従った結果、確かにあまり人が訪れなさそうな洞窟が見つかる。


「では探してくるので、ハイドラさんはしばらく防音の容器に入ってて下さい。悪魔二人を相手に会話して真偽を見抜くのはちょっと荷が重いので」


「…ぁの…自分はまだ悪魔なんですかね…?なんかこう…地縛霊状態から抜け出せたのはありがたいんですけど…このメカニカルな体に馴染んでくるほど…自分は…自分は…?」


(早く蓋を締めるんだ!なんか不安になってきた!)


悪魔の言葉に惑わされてはいけない。何か裏があったら怖いし、今は裏がなくても怖い。小さなクーラーボックス的な箱に防音材を詰めた簡易の防音容器にメカ悪魔を入れて急いで蓋を閉じる。幽霊の声が空気の振動と関係あるのかは非常に疑わしいが、ぶつぶつ呟く異様な物体の音は一応聞こえなくなった。



「では!変身します!」

((((((うおおお))))))


ティア様の変身に6つ頭のサメが大喜びする。まずはオーソドックスな魔法少女に変身してから、更にヒーローの勇者戦隊アリゲーター仮面に変身し完成するのが、ティア様の本気の姿、魔法少女マジカル勇者戦隊アリゲーター仮面だ。

((((((かっこいい!!))))))


「シャークさんは一応この剣を持ってて下さい!瘴気が多少濃い程度では防壁も防御魔法も抜けてこない筈ですが、念の為に女神の剣の加護を!」


「ありがとうございます、ティア様は…いえ大丈夫ですよね」

「はい!こっちの天秤とかも色々加護です!」


ティア様は魔法少女の加護の上に更にヒーローのフル装備を付けて、恐らくは剣と同じ加護のある女神の天秤も持っているのだ。今まで使ってるのを見たことが無いのでよく分からなかったが、やはり全ての装備に何かしらの効果があるのだ。


(まぁ…確かに無意味なものを装備はしないだろうが…)

(あのゴテゴテした装備全部に効果は逆に過剰すぎんか?)

(まず生身の状態でもだいぶおかしい気がするんだが)



なんだか色々防御魔法らしきものをかけられた後洞窟に入った私達は、特に何事も無いまま奥まで到達する。瘴気らしきものも見当たらず、悪魔に騙されて連れてこられたかと何らかの罠を警戒するがそういった類の事も起こらない。


とりあえずハイドラさんを取り出して問いただそうかと思ったその時、突如それは現れた。


「ふふはははは、正義の使者か!待っておったぞ!」


((((((なっ…全然感知出来なかった!?))))))


感覚に自信のある6つ頭のサメが驚愕する。目の前に現れるまで私達全員が全く感知出来なかったのだ。少なくとも、ハイドラさんの言ってた内容の幾つかは真実だと判明してしまった。これは厄介な事になった。


「シャークさん!わたしの後ろに!これが、悪魔!」

「は、はい!」


私達の数倍はある大きな体、不気味な頭部、ずるずると何本も蠢く手足。遭遇すれば誰だって一目で分かる。…これは、悪魔だ。


「タコですが!?」

「は、はい…」


それも海の悪魔だ。


「ふふはははは!!!御名答!!!我こそはデビルフィッシュ!!!オクトパスマンタスクイドデビルフィッシュのクラーケンなり!!!!!」


「どう見てもただのでかいタコですが!?」

「よ、よく見て下さいティア様、側頭部に小さなヒレが…」

「ふふははは!よく気づいた!マンタである!!」

「マンタの要素が少なすぎです!!ヒレのあるタコも居ます!!」


(いかんもう少し距離をとるのだ!)

(スクイドがイカなら危険な棘付き触腕があるかもしれん!)

(ただでさえタコはサメも食う強敵!離れるのだ!)


「ティア様、もう少し離れましょう、8本足の他に長い2本腕を隠している可能性があります。ほぼタコですがイカでもある悪魔なのかも知れません」


「ふふはははは!!いかにも!!!イカだけに!!!!」

「やりますわね」

「シャークさん!?」


これはかなりの強敵だ。私の中のサメもまさかの身近な強敵に警戒心を露わにしている。正直見た目は完全にタコだがイカの力も扱える悪魔だ。吐く墨がイカスミなのかタコスミなのかで作れる料理も変わってくる。



「ふふはははは!!さあ戦おうか正義の使者よ!!しかし貴様らは我を倒すだけでは勝ちにはならぬ!!!空間魔法でも無ければ我が死んでも我から瘴気が溢れてこの近くは大惨事!!!果たして挑む資格があるかな!!!」


「うっ!?」

「わざとらしさが尋常ではありませんわ!」


予想外の感じに怯む私達。聞き出す前から勝手に説明してくる。


「どうやら自分達の身を守る装備はあるようだが!!それだけではダメだ!!戦闘になったら瘴気は抑えきれず洞窟の外まで多少漏れてしまうぞ!!ふははは!!防壁も張れず自分しか守れない者が我に挑むなど10年早いぞ!!!」


「シャークさん!やリづらいです!」

「わ、分かります、しかし悪魔の言葉、警戒をしなくては」


まさかこんなに懇切丁寧にわざとらしい説明をされるとは思っていなかった。ハイドラさんとは違う方向でやりづらい悪魔の話術だ。やはり悪魔とは疑いづらく無視しづらい話をするものなのだ。



「あの!賢い方のワニからクラーケンさんに質問が!」

「ふふはは…賢い方のワニ!?何言ってんすか!?」

「なんでここに居たのか聞きたいそうです!」

「えっ!?あ、その、ふ、ふふははは!普通、その、あまり人の居ない、あれ、ダンジョン的なとこで待ち構えているものだろう!!悪魔だからな!!!ふふははは!!!」


どうやら素の喋り方はだいぶフハハ系統じゃないらしい。なんなら下っ端の気配もある。



「わたし空間魔法無いのでまた今度でいいですか!」


「あっ、ふ、ふふははは!!哀れな!!好きなだけ逃げるがよい!!!我は強き者と戦いたいのだ!!!万全の体制にして挑んでくるがよい!!」


「どれくらい待てますか!」

「どれくらい!?いや、まぁ、全然しばらく余裕だが!!」


ティア様は空間ごと消し飛ばす魔法…というか空間に噛み付くワニや空を断つビームを持っているが、どうやら一旦嘘をついて退く流れになった。これで倒すのは後味が悪すぎるし。しかしこれで本当に私達に何もせず帰すのならこの悪魔は…



「ふ、ふはは!!その、もし出直すなら、一つ、せめて海水を汲んで来るくらいの配慮はしてくれてもいいぞ!!」


(む…?)

(いや待てよ、光とか環境の違いの限界の前に…)

(イカもタコもエラ呼吸だぞ…?まさか…)

「エラ呼吸!?悪魔なのにエラ呼吸の方の限界なんですか!?」


「いや!その!我は悪魔だしタコは陸上結構大丈夫なんだけど!!でも海水はあるならあったほうがいいなぁ!!!」


「やっぱりエラ呼吸ですわ!あの、ティア様、海水出せます?」

「え!?あの、真水なら!」

「ひっ!!!」

「あっタコに真水はダメです!!」



一旦退いて作戦会議の前に、洞窟の少し広い窪んだ場所にティア様の魔法で海の水を運んでくる工程が挟まった。私達は陸や空のサメではなく海のサメなので、信用するしないの前にちょっと海洋生物ちっくな存在の危機を放置しきれなかった。


「ふ、ふはは、ピリピリする、やはり海水すらも相性が…しかしだいぶ楽になったぞ!ふふははは!!その、ありがとうございました」


「どういたしまして!」

「時間の猶予は少し増えたのでしょうか?」


「もうだいぶ長いこと耐えてこれたし、これでまたしばらくは。ただ、ふはは、正義の使者との戦いを待っているのは我だけでは無い!!その昔、この近隣では危険なオカルトブームがあったのだ!!修行を早め、出来れば早めに我らに力を示すのだ!!」


(オカルトブーム?ああ…未熟な召喚とはまさかそういう…)


「…今日は一旦帰ります。また近い内に」

「あの!また来ます!」


「ふふははは!!早く決着をつけよう!!!万全に強き者と戦える日を楽しみにしている!!!」




 * * *




帰り道。私とティア様の気持ちは重かった。



「ティア様…あの悪魔…恐らく倒すだけなら私でも…」

「はい、その、多分弱ってるし元からあんまり強く無いです!」

「瘴気というのは何も分かりませんでした」

「その、あんな異質で巨大な存在が居て何も無いのは不自然です!」

「やはり自ら抑え込んでるという話は…」

「はい!」


目の前に現れるまで察知出来なかったのは、危険な要素が何一つ漏れてなかったからでもある。これがもし、もっと弱りきってて、瘴気も抑えきれてないギリギリの状態で遭遇し、問答無用で襲いかかってきたら私達はどうしていたか分からない。



「悪魔でなくても何も考えず信用するのはダメですし、何も考えず疑うのもダメ。思考を止めた楽な道に少し偏りかけていましたが、どうやら悪の私にも天秤が必要なようです」

「私は悪魔に空間魔法が無いと嘘をつき許容して貰いました!なのでこちらも悪魔の嘘を全く許容しないという態度は出来ません!…ちょっと悪魔を前に天秤の正義が少し歪んでいたのを反省しています!」


「…結構めんどうですね天秤。絶対甘いものが必要です」

「はい!おやつしましょう!」



決意を新たに帰る前に、ちょっとだけ休憩しよう。息抜きこそが思考を回す大事な栄養素だ。幸いパジャマパーティの余りのお菓子も持ってきているし、山を降りる途中でピクニック気分を味わおう。


そうして鞄を開けた時、ハイドラさんをいれた容器の事を思い出した。


「あっ…」

(完全に忘れてた)

(ま、まぁタコとの会話や今の話に混ざられても困ったし)

(さも予定通りだった感じでいこう)


「あの…ハイドラさん…取り残された悪魔本当にいました…」

「あっ忘れてました!」

「しっ!ティア様!全然忘れてなかった感じでいきましょう!」


容器を開ける私。出てくる異質な9本頭のメカ。


「…ドウデシタ…?マダ元気ソウデシタロボ?…」

「多分こっちのほうが重症ですわ!?」

「語尾までロボです!?」

「…自分…自分ハ…?メカ…?ロボ…?」

「選択肢自体がおかしくなってます!」

((((((ロボ生命体かっこいい!!))))))



真のゴーストゴーレム八岐之大蛇メカドラゴンとして生まれ変わりつつあるハイドラさんもいずれ何かしらの救済が必要な気配がする。


私が悪らしく自分や自分の周りを救うには、どうやら悪魔たちまで助けないとダメそうな感じになってきた。これは、とても、大変なのでは。

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