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恐怖のパジャマパーティ

なんだか色々すごかったお風呂から上がって、複数の簡易ベッドを出した私の部屋に寝間着の少女たちが集まる。そう、パジャマパーティだ。


実際にパジャマパーティがどういうものなのか詳しく記された文献は少なく、どうやら旅行の夜に宿に集まった時のような気分で好き勝手にしても良いっぽいので、私達はお行儀など気にすること無く絨毯やベッドに寝転がって好きなだけお菓子を食べ談笑する。悪の屋敷で行う悪いこととしては最上位で最高な感じだ。



だが、ティア様もだいぶ打ち解けて仲良し空間が温まった頃、問題が発生した。話の流れが夜の怪談へと向かい始めたのだ。いや私は全く怖いの平気なのだが。


「やはり定番の怪談も必要だと思うのです。ティア様はなにか怪談ご存知ですか?いわくつきの呪いの品とか、恐ろしい幽霊の話とか」


「…うーん、幽霊の話ですか!」


ケイト様に言われて何もない部屋の隅をじっと見つめるティア様。猫みたいでカワイイが猛烈に嫌な予感もする。止めないと今日眠れなくなる気がする。



「まぁまぁまぁまぁ、まずはケイト様がお手本を。全然幽霊とかじゃなくて良いのです。別に全然幽霊の話をする必要は無いという、そういう感じのをどうかお願いします」


「ではこれはクラブの女子達の間で噂になってる幽霊の話なのですが」

「ケイト様、ケイト様お慈悲を」

「最初に違和感に気づいた生徒によるとその幽霊はとある鏡にだけ」

「ケイト様ぁ!」



これはかなりマズイ事になったかもしれない。ケイト様の無慈悲な話は無慈悲なだけでなく普通に怖かった。今日は絶対夜中に鏡見たくない。見たら絶対後ろに何か居る。



「では次は私がお話しますね」


まずい。エレン様はホラーやサスペンスが大好きなのだ。普通に話をさせてしまうと凄くえぐいか凄い怖いかの2択だ。この場合、ホラー好きゆえのマニアックすぎてそんなに怖くない話に誘導するのが最適解に思う。


「エレン様、全然幽霊とかじゃなくて良いのです。ホラー小説に目が無いエレン様ですから、なにかこう全然幽霊とかじゃない珍しいお話をご紹介頂けると私とっても助かるかもしれません」


「これは最近街で噂になってる幽霊の話なのですが」

「エレン様!」

「最初に見た人はただ顔色の悪い人だと思ったそうなのです。しかし」

「お慈悲を!!」



止められなかったし誘導も失敗した。そして2択じゃなくてえぐくて怖かった

(ひぇ…)(……)(…)((((((……))))))


あまりにもホラーだったので聡明な3匹のサメも6つ頭のサメも恐怖で縮こまっている。


「ひぇ…」「ひぇ」

ケイト様とティア様も縮こまっている。なんならこの世界で最強レベルに強いであろうティア様がこんなに怯える姿はもう他では見れないかも知れない。



「あ、あの、あの、私はサメなので怖いものとか無いので、だから怖い話とかも全然知らないから怪談無いです。ティア様もワニなので全然怪談無いですよね」

「えっと…!その…」


やっぱり何もない部屋の隅をじっと見てる。絶対聞きたくない。


「そうだ、オススメのお菓子があるのです」

「これはとある旅先でパジャマパーティに呼んでもらった時の話で!」

「絶対ここですわ!お慈悲を!ティア様!」

「その部屋はある方角の隅っこだけがなぜか不自然に暗く…!」

「ティア様ぁあ!!」

((((((うわほんとだ何か暗い!?))))))

(うわぁ!)(嫌だ!)(もう聞きたくないぞ!)



……それは、あくまで曖昧な話で、耳を澄ますと私達以外の誰かがこの部屋に居るような、などといった確証の無い話だけで、決定的な何かが出てくる話ではなかったので、全然、全然怖くもなんとも無かった。


「ふふ…正体が完全に分からない方が怖いものですね」

「ケイト様、他人事じゃないんですよ、この部屋なんですよ」

「…そういえばこの部屋だけいつも少し涼しく」

「エレン様!だめ!私の寝室なんですよ!!!」


実は滅茶苦茶怖かった。居るという断言じゃなくて、何か居るかもしれないという不穏な空気だけ振り撒かれて終わりは本当にダメだと思う。いや見知らぬ場所でのそういう怪談ならあるある程度の怖さで済むのだけど、身近な場所どころか私の部屋の話だ。



「そろそろ眠くなってきました!」

「ふぁ…確かに。早寝組は眠る支度と参りましょうか」


しまった、ティア様は眠るまでも素早く、ケイト様は早寝早起きスポーツ少女。多分先に寝るという話になっていた。


「シャーク様、私達も寝支度だけは皆と一緒にしましょうか」

「エレン様、私すぐには眠れないのでこの後どうか怖くない長話を」



皆で寝支度を終え、明かりを落とした私の部屋。早寝組用の簡易ベッド2つからは早速すーすーという寝息2つ。少し離れた遅寝組用の簡易ベッド2つではひそひそ声で怪談の続きが始まっていた。


「…ですが再び顔色の悪い人が…」

「…エレン様…!続きを隠していたのですか…!エレン様…!」

((((((ひぃぃぃ))))))


そう、皆で聞いた最初の恐怖話は序章だったのだ。助けて。



……あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。実は私はかなり早い段階で危機に気づいていた。エレン様が起きてる間は暗闇に恐怖の物語が垂れ流され、エレン様が寝てしまうと暗闇に一人取り残されるのだ。その対応策はエレン様が話してる間に眠るしか無かったのだが、ダメだった。一人置き去りにされた今も全く眠くない。


(なんとか早く眠りにつくのだ)

(他の3人はもう完全にスヤスヤだぞ)

(よせ、焦ると余計に眠れなくなるぞ)


カチコチカチコチ。時計の音がとても大きく聴こえる。眠れない。

((((((…ねえ、なんか部屋の隅…))))))

(よせ!)(よせ!)(よせ!)


カチコチカチコチ。なんだか暗闇がべったりと重い。眠れない。

皆の静かな寝息に混じって、なにか聴こえる気がして眠れない。

本当にあの部屋の隅だけが、暗闇の中でも更に暗くて眠れない。


((((((…ねえ、やっぱり部屋の隅に何か…))))))

(いやだああ!)(やめろ!)(もう眠れない!)

((((((いや、ほんとに何か))))))


「………ぁ…」

「ーーーーー!!!!」

(今絶対何か聞こえたぞ!)(部屋の隅から!)(いやだあああ)


「……ぁぁ………ぁ…」

(やっぱり絶対何か居る!)(いやだあああ)(いやだあああ)


「…ぁ…怖くて…眠れないよう…」

「こっちのセリフですが!」


ダメだ、私はもう恐怖で狂ってしまった。何もない部屋の隅から聞こえる恐ろしい幻聴に小声で突っ込んでしまった。



「…ぁ……すいません…」


腰が低い。

(い、いかん、幽霊と話したら連れてかれるんじゃないのか)

(なんかそんな感じの話よくある気がする)

(声を聞くな、呪われるかもしれん)


「…ぁ…挨拶が遅れてすいません…自分は長年幽霊をやってるものでして…」

「転職したほうが良いですよ!」

(職ではないぞ!?)(混乱するな!)(対話しちゃいかん!)


「…自己紹介…ぁ…名刺も体もないですわ…」

「く…っ」


間違いない、危険な幽霊が居る。放置しづらい言霊を放ち無理やり対話させて魂を抜きに来てるのかも知れない。


「…ぁの…始めまして…ゴースト八岐之大蛇ドラゴンのハイドラです…」

((((((ゴーストやまたのおろちドラゴン!!?))))))

(いかん!)(何言ってるかよくわからんぞ!)(重複が無いか!?)


「あ、あの、本当に失礼だとは思うのですが、幽霊と挨拶すると取り憑かれそうで怖くて返事しづらいのです」

「…ぁ…いや…というか…取り憑くのに失敗したのでまだここに居るのです…」

「帰って下さい!!!!」


紛うことなき悪霊だった。霊という枠にゴースト八岐之大蛇ドラゴンというのを入れても良いのかは分からないが、絶対悪霊だ。



「ぃ…いやしかし…自分は元々そういう役割で…」

「帰っ……やくわり?……役割!?」

(あっ!?いや、ちょっと待て)

(ドラゴンや蛇とはつまり悪魔…まさかこやつが!?)

(幽霊ドラゴン悪魔は重なりが酷すぎるぞ!?)


「え、あの、ちょっと待って下さい、もしかして私と契約する複数の悪魔の一匹という役割ではないですよね」

「…ぁ…いや…複数の悪魔の一匹とかそういうのでは…」


良かった、さすがに幽霊でドラゴンが悪魔で私の契約者というわけでは無いらしい


「…自分のゴースト頭はドラゴンと八岐之大蛇で合計9つあるので…恐らく自分がその複数の悪魔の全部かと…」

((((((ドラゴンと八岐之大蛇は別なの!?))))))

「帰って下さい!!!!!!!」

(いや、除霊だ!!)(なんか祈れ!)(ティア様起こそう!)



「…ぁの…本来なら、絶対自分が必要になる筈で…でもなぜか取り憑くことが出来ず…ゴーストなんで夜しか存在出来ないわけですが…夜は寝てるので何も出来ずもうどうしたらよいものか…」


「幽霊なのに夜寝てるんですか!?」

(それじゃ存在してる間ほぼ寝てて意味ないじゃないか!)


「…ぁぁ…その…出来れば…相談に乗ってもらえませんかね…今日は丁度怖くてしばらく眠れそうにないので…」


「くっ……幽霊なのに……」


(こ、これは判断に悩むぞ、もしかして重要情報を得るチャンスか?)

(呪われる危険性はあるが、聞き逃してはならんかもしれん)

(しかもいざとなればすぐ側にティア様が居る。普段より万全な状況だ)


ちらりとティア様のほうを見ると、暗がりの奥で布団から少しだけ出ている手が小さく振られる。どうやら既に起きて様子を伺いつつ待機してくれているようだ。本当に頼りになる。惚れてもおかしくない。



仕方ない、覚悟を決めて話を聞こう。どうせ怖くて眠れなかったし、正体が分からないより話をちゃんと聞いたほうがこの幽霊の怖さは薄れるはずだ。と言っても一番肝心なエレン様の怪談の恐怖は抜けないし、どうやらこの幽霊もそれで怯えているので、真に恐るべきはエレン様だが。

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