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リッチになりたい!   作者: 黒牛魚のごった煮
3/12

トラブル

 洞窟内は静かなものだった。外は風が吹いているのか、ざわざわと木の葉擦れの音が聞こえた。

 くしゅん!

 風が少し吹いている。

 夜が明けたばかりだから、水で濡れた状態では体が冷える。



 ヘルは足を引きずり入り口近くから葉っぱと木の枝を持ってきて、泥を避けつつ泉の近くに木と葉っぱの山を二つ作った。


 大きい山と小さい山が、一つずつである。

 泉に近付くとゆっくり静かに水に体を頭まで沈めた。

 もぎゅもぎゅと、芋虫のように踊りまくっている。手で髪をザシザシっと荒く手で鋤いた。

 ざばっ!と泉から上がり、地べたを確認する様に泉の近くに立つ。髪や肌着から、水が激しく音を立てて地面や水面を叩く。



 掌を広げて右手を木と葉っぱの小山に向け、呪文を唱えた。

 右手から少し離れた空間に火の玉が現れ、ふわっとした速度で小山に飛び込み、炎を上げた。

 ヘルは焚き火に少し熱いかな?と思える程度に近付いた。足裏が泥で汚れることは諦めたらしい。

 風はもう吹いてなく、けれど純粋に水の冷たさで体がかじかんでいた。

 目を瞑り、炎の熱を感じる。熱さでじんわりと、冷たさが和らぐ。

 ふと、熱が感じられなくなった。目を開けると炎が消えていた。

 煙すらあげていない。ヘルは呪文を唱えた。火の玉が小山の燃え残りにふわっと飛び込み、炎を上げだした。

 ヘルはソッと吐息を吐き、暖まりだした。目を瞑り熱を感じる。

 漸くすると、また熱が感じられなくなった。

 目を開けると焚き火の火が消えている。また、火を着ける。また、目を瞑る。暫くして熱が消える。

 心なしか、洞窟内で細やかな風が吹く。目を開けると火が消えている。また火を着け、目を瞑り、熱が消え、目を開け、火が消えているのを確認する。

 それを何十セットも繰り返す。流石にヘルはイライラし、おかしいと感じた。

 じっと辺りを見つめ観察する。あぁ!と破顔した。そう、洞窟内には風が有ったのだ。

「そうだよね、風があったらダメだよね!」

 ヘルは入り口に歩いて行って土魔法で入り口を土壁で埋めた。

 泉の所まで戻り、焚き火に火を着ける為、手をかざす。

「止めんか!馬鹿者!」

 怒鳴り声が聞こえた途端、ヘルは泉の中にドボッと落ちていた。



 ヘルは泉の深みでガボガボと若干溺れた。

 だが、自分が水の中に落ちただけと分かると、足を上手にバタつかせ、水面に顔を出した。ゲホゲホむせながら、岸を目指して泳ぐ。少しもどしながら、むせつつ岸を目指す。

 ドカンッ!と破壊音が洞窟内に響く。岸に上がり何事かと目を見開く。洞窟の入り口からカツカツと足音が響く。ヘルは戦うため身構えた。

 薄明かりに姿を現したのは、一体の骸骨だった。

「ロイヤルルナティックジャスティスライティング アロー」

 ヘルは間髪なく、聖魔法を放つ!骸骨が聖なる光に包まれる。

 骸骨の姿が残像の様に消えていく。

 ヘルは、自分の魔法が直撃した事に満足な笑みを浮かべた。

 ポコッと木の棒で頭を叩かれた。見るとあの骸骨がヘルの真横で佇んでいた。

「セイントジャスティスソォードッ!」

 ヘルは骸骨と対極に跳びつつ、更に聖魔法を放つ。どでかい白く光る剣は、骸骨の胸に深々と刺さった。

 

「よし!仕留めた!」

 ヘルが叫ぶと共に、骸骨の姿がぶれ、バシッと小気味良い音が洞窟に響いた。正面から額を木の棒で突かれたのだ。

 ヘルはまた、魔法を放つ、お次は炎の魔法だ!

「クリムゾン サンライズ ファイアー バーストォ!」

 骸骨の姿が紅い煉獄の檻の中で激しい熱と焔に晒されていく。

 此を喰らったモノは、全て蒸発し後には何も残らないのだ。

 辺りに熱と焔を撒き散らす事無く燃やし尽くさなければ、周りに被害が及ぶ危険な魔法だ!

 その点ヘルの魔法操作技術は完璧だった。周りに魔法被害を及ぼす事無く、骸骨を燃やし続けているのだから。


「なっ!なんで!」

 焔が終わった時、焔の檻が有った所には、先程と変わらぬ骸骨が、直立不動で立っていた。

「うぁあぁああぁああああああああああぁああ!!!」

 ヘルは半狂乱になりながら、兎も角自分の思い付く限りの強力な攻撃魔法を放つ!

「ジャスティス ライオット クリューゲル !」

「ミスティス ホーリー アフーディテ キューブッ!」

「アイアン サーガタナトスティック フレイ§∪℃!」

「А@<¢◎×☆§∋◆」

「∨⌒⇔◎#*¥¢∞〓≒」

「√∝¬≒≡ʼn♭♪※←△▽」

「℃°£#▲♪ヰ∪ゑ§○〓」


・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 戦いは三十分近くに及んだ。




 ヘルの頭の中は“絶望”一色だった。此処で死ぬのだ。

 ヘルは死に抗う、運命に抗う!ヘルは必死に死中に活を探していた。

 だが、その希望が打ち砕かれる。

 ありとあらゆる魔法の直撃の中を、ゆらりゆらりと、骸骨がゆっくり歩いてくるのだ。

 ヘルは悲鳴をあげた。涙が出てきた。魔法が一切通じないのだ。

 ヘルは骸骨に散々頭を木の棒で叩かれた。じわじわと痛みが蓄積されていく。

 骸骨は此の世の者とも思えない声で、“お前の存在がうとましい”と言う趣旨の言葉を発していた。


 ダメだ殺される!

 ヘルはどうせ死ぬならと、自分の命を糧にした究極の火焔魔法を放とうと考えた。

 ヘルの周りに濃度の濃い魔力が集まってくる。その魔力が余りにも強く、炎を放ち始め、ヘルの体を焔と熱が蝕み始めた。

 無詠唱の煉獄の炎これで・・・・

 その時、緩慢だった骸骨の動きが一瞬にして機敏になり、ヘルの腹をぶっ叩いた。

 ヘルは堪らず胃の中身をぶちまけ、集めた魔力の渦も霧散する。


 そして、骸骨はヘルの胸倉を掴み引き寄せ、何も無い暗い眼孔で、ヘルの目を見つめ、呪いの言葉を紡ぎ出した。

 ヘルには拒むことも反らすことも出来なかった。


“サンケ ツワカル サンケ ツワカル サンケツッ テワカル”


 骸骨の呪いの言葉を聞いて、ヘルの心臓は苦しくなった。

“ダメだ私は生き残るんだこんな所で死ぬなんて嫌だ!”

 ヘルは目一杯足掻いた。だが、骸骨の力は凄まじく、逃れる事は出来ない。ヘルはジタバタ暴れるがその程度でこの恐ろしい死霊から逃れる事は出来ないのだ。

 ヘルは頭を捕まれた。“なッ・か・・髪掴んでる何とかしないと、髪掴まれたら逃げれない!”

 ヘルの焦りを嘲笑うかの様に骸骨は何度と無く泉にヘルの頭を突っ込んでは出し、突っ込んでは出しを繰り返した。


 長い髪を掴まれた状態で、その凶行から、ヘルが抜け出せる可能性は一つもなかった。

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