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ときおり巨大な昆虫が目の前を飛び回り、それを首を振って追い払う。
ここ数日、水場で草食たちの姿を見ない。おかげで腐った肉や草ばかり喰う日が続いていた。
腐肉を喰らうのはまだ我慢できる。が、空腹まぎれに噛む草は大して腹の足しにもならないし、それ以上に自分自身が草食の獣になってしまったみたいで、惨めな気持ちになった。
水場に出た。
昨日よりも明らかに水の量が減っている。
草食たちが居ないのもそのせいかも知れない。
木陰から慎重に顔を出す。
辺りを見渡しても草食たちの群れはおろか、空を飛び交う翼竜たちの姿も見えない。何かがおかしい。
普段はあまり水場から離れることはなかったのだが、腹も減っている。
オレは草食たちの残した臭いを辿ってその日、水場から遠くへと足を延ばすことに決めた。
過ごし慣れた場所を離れると、徐々に緑が消えていく。
背の低い草原が広がり、それもやがて土が剥き出しの荒れた大地となった。
草食たちの臭いが多少強くなったように感じる。
しばらく荒野を行くと、突如として左右の大地が隆起し、それはまるで巨大な二匹の獣がオレを遙かな高みから見下ろしているかのようだ。
先を行くごとに草食たちの臭いが強くなる。奴等の落としていった糞や尿があちこちに見られた。だが、それらに混じって別のモノも感じた。腐った泥のような臭い。
何かから慌てて逃げ出したのか、群れに踏み潰された子供の屍骸があった。草食たちを追っている奴らはこれには目もくれなかったようだ。熱で少し腐りかけていたが、ありがたく頂くことにする。
多少腹が満たされると、急に不安が頭をよぎった。
草食たちの群れがこれほど怯え逃げるなど、とても一匹や二匹の仕業ではない。
オレと同じ肉食の獣が何匹かの群れで追っているのだろう。そうとしか考えられなかった。
だとしたら、このまま後を追うのはまずい。
横取りを警戒してオレを襲ってくるかもしれない。
いや、その可能性の方が大きいだろう。相手が一匹ならそうそう負けはしないと思うが、多勢なら別だ。
辺りを見渡すが、もう既にこの場所にはオレ以外の生き物の気配はなかった。
もっと先に行ってしまったのだろう。
引き返すなら今のうちだ。
そう考えたのも一瞬で、オレは自然、奴等の後を追い、足を進めた。
今、何とかしなければ。あの水場に草食たちが戻ってくることはないだろうから。