4 買い物はひとまず終了
餅は餅屋とは言ったもので、いざ書いてみると色々見えてきますね。
読んでいるだけじゃわからないことだらけです。
服飾店は雑貨も扱う関係上、元来た出入り口の近くに設置されているらしい。便利なとこほど近いところ!という考えのようだ。
「やっと3件目だな・・・」
「でしょう?転移機能が無いとここやってけないよねー」
「は?転移機能・・・?」
「あれ?言ってなかったっけ?一度行ったお店なら端末操作して転移できんのよ。この施設内だけだけど」
「あの端末の機能の詳細なんて聞いてないぞ!?」
「あー言ってなかったかー。めんごめんご☆」
「・・・次からそういう重要な情報は先に言えよ・・・」
端末の新たな機能と、アトホルの頭の痛くなる言い方に辟易しながらもと来た道を戻ったリン達。
本当に出入り口が視界に入る程度の距離に服飾店は存在した。
そしてたどり着いた服飾総合店「マッパ」・・・3文字しかないのになんてヤバイ名前している店だ・・・
しかし名前とは裏腹に店舗入り口は普通の店構えだった。
入り口近くには雑貨品が並んでおり、それをコースのように回って次のゾーンに進む、その道中で目的のものを買い物籠などにいれいくスタイルの店舗だった。
雑貨コースと衣類コースの二つがあり、ゴール地点・・・レジ部分は合流する作りとなっている。
「そういや今日のところはアトホルの家に泊めてもらうわけだが・・・今後のことを思うといくらか生活用品を仕入れておきたい」
「このあとバイトのお給料はいるんでしょ?貸しとくよー?」
「そう遠くないから後でもう一度来るのも良いが・・・歩き詰めで少し疲れたしなぁ、バイト代で足りるものかもわからないから、すまんが貸しといてくれないか?」
「ふふーん、じゃあ貸しひとつね!」
こうしてアホに貸しを作る予定を拵えながらヤバイ名前の店へと入った二人。
とにもかくにも配達をする目的があるため、まずは確実に店員がいるだろうレジへ向かうことにする。
ひとまず入用になる雑貨コースを回って必要品を見繕いながら行くのが効率的だろう。
「とは言ったものの、何を買おうか・・・ハブラシとかその辺かな」
「タオルとかは余分にあるんで大丈夫ですよー」
買い物籠に必要そうなものをちょいちょい見繕いながらコースを回る二人。ヤバイのは店長と店名だけと聞いていただけに店内は普通の品揃えに普通な装いだった。
むしろこの店とまともな食品店あればすべて生活は回るだろうほどに品揃えが良かった。
しかしその分店は広く、コースもそれなりに長くなっているのが難点で、買うもの少量で既に決まっている状況であってもレジまでの長いコースを辿らねばならないのは少々不便を感じ得ない。
品揃えのおかげで若干籠の中身も多めになってしまった気がする・・・貸しやバイト代が気になってしまう。
足りない分などは別途バイトなり何かで補填しようと覚悟を決め、見えてきたレジに向かう。
数ヶ所あるレジに左右のコースから客が進めるようになっているような配置が見えてきた。
衣類コースの方が少し見えたが、そちらは広い空間で色々選んでそのままレジへ向かう形式で、コースを辿るような一本道ではない様子だった。
そして今日のレジには店員が一人だけのようで、
「うぇ・・・」
「ぬ・・・げぇ」
見えてきた店員、いや、見えてしまった、見えてしまっている店員が見えてきた。
ほんとどうなっているんだこの施設の店たちは・・・
見えてしまったのはガラス張りのカウンターに立つ偉丈夫――――2mはあろうかという生まれたままの若干光り輝くおっさんだった。
「もしかしなくてもあれが・・・店長か?」
「うん・・・今日は店長の日だったのか・・・ついてないなぁ」
他にも店員がいるようだが今日ははずれの日だった模様。
どうしようもない眼前の現状を諦めつつ会計とお使いを済ませることにする。
「はーい、いらっしゃい」(かなり低いボイス)
「これらの会計と、こちら、依頼受付からのお届け物ですので判子お願いします」
遠めには若干の輝きだが、至近距離で見ると少し眩しく色々はっきり見えないセルフモザイクになるようで少し安心した。
だが長居は無用なので早めに事を済ませることにしよう。
余計なことはせずささっと離れるのだ。
「あら、待ってたのよこれ!助かるわー!ちょっとおまけしちゃおうかしら」
「あ、ハイ、ドモデス」
「おまけはうちの割引券よ、また利用してね♪」
アトホルにお金払ってもらってお使いも済ませ割引券も手に入れたリンはアトホルと一緒に店舗を出る。
その足で依頼受付まで向かうことにする。
「おぅ!らっしゃい!お、にいちゃんおかえりよ!頼んでたお使いおわったんか!?」
「あ、はい判子ももらってきました。確認お願いします」
「おぅよ!どれどれ、うむ!問題ないな!じゃあ端末を出してくれ。持っているだろう?」
「えーと、どうやれば・・・」
「なんだい、そこの嬢ちゃんからは教わってないのかい?」
「ふぇ?えーと、今日登録したてだから追々教えようかと・・・」
絶対忘れてたヤツだと思う反応でアトホルが返す。
しかしこいつは案内はしてくれるがその他はほとんどノータッチ、こちらにお任せしてくれる姿勢のようだ。
今後こいつの手伝いをする羽目になるわけだが、こんな消極的な感じで先行きが不安になると考えるリン。
ただ、何をするにも新しい環境ゆえ手探りな時期でもあるので気が楽でもあるのであまり突っ込むのはやめておこうと思う。
「あとで色々使い方とか教えろよ、急がなくてもいいからな」
「あ、うん。えっと、端末の出し方はね、念じれば出るの」
「こうか」
言われたとおりに出ろと念じると手の上に端末の画面が浮き上がった。
ちょうどSFなどにある直接手で持たなくてもいいタイプの画面が出る感じで端末が表示される。
どうやら操作の方も思うだけで行えるようで、色々な機能もあるのが伺えた。
「おし、じゃあ駄賃の清算だ!受けとれい!」
そういっておっさんの端末から何か申請が出されたようで、俺の端末に通知が届いた。
その通知をスマホよろしく開くと”入金されました”と通知があるのが見て取れた。
「使うの初めてみたいだから軽く教えておくと、そいつ使えば金も卸せるからな!あとはそこの嬢ちゃんにでも聞けばいい!」
「わかりました、ありがとうございます」
「いいってことよ!!そういやそこの嬢ちゃん・・・実習生だろう?今後ここもよく使うだろう、俺はダッドン!いつでも来てくれぃ!」
「「あ、よろしくお願いします」」
なんとも勢いのある豪快なおっさんだった。
実習と依頼は関係があるのがはっきりしたことで、ここを何度も利用することになるのだろう。
他の店舗のようなどこかしらの異常はぱっと見見当たらないことに安堵しつつ、早速先ほどの雑貨立替を清算しようと考えた。
「じゃあ端末の使い方の練習かねてさっきの立替を払いたいんだが」
「あーそれなんだけどね、ちょっとあっちにあるカフェでお話ししながらでいい?歩き疲れて喉も渇いたでしょ?もちろん、飲み物くらいなら奢るから!」
「あ、あぁ別にかまわないが・・・」
少し殊勝な態度でカフェ行きを提案してくるアトホルに違和感を感じながらも、実際喉の渇きもあったので休憩を兼ねたカフェ行きに同意する。
というかギルドというような建物なら酒場というのが定番じゃないのか・・・
変なところで期待を裏切る施設である。
今度のカフェは集客でも考えたのかこれまた入り口近く、つまり今いる依頼受付から少しのところにあった。
”カフェ-満腹軒”
やはり突っ込みどころがあるようだが、どういった趣旨の店かは簡単に想像できた。
そして入り口の立て看板には、「カップルサービス!飲み物にケーキ付きます」とある。
それを訝しげに見ていると、
「ここのケーキおいしいんだー。だから・・・どうかそういうことで!おねがいします!」
(p´□`q)こんな顔で頼み込んでくるアトホル。
「ここまで案内とかしてくれたんだ、腕組みまでなら良いがカップル判定にそれ以上を要求されるんじゃないだろうな?」
「ぎくぅっ!」
「そのまま既成事実とかいって事を進めようとしていたとか・・・?」
「ぎくぎくぅっっ!」
少しでもこいつを信用しようとしたのが失敗だったようだ。
こいつは欲望に突き進んでいるがそういった神でも目指しているのだろうか。
「というわけで普通に2人客で飲み物だけでいいからな。ケーキは別途にしてくれ」
「うぅ・・良い案だと思ったんだけどなぁ・・・でもチャンスはまだまだこれからも・・・ブツブツ」
「店員さーん、2名で。」
「あー!待ってくださいよー」
バレバレな計画をつぶやいているアホを置いて店内へ進む。
店内はごく普通の喫茶店・・・ではなくところどころ中華飯店風だった。
見るからに中華も出しますというのがわかる内装だ。
そして案内された席へついてひとまずアイスコーヒーを頼むことにした。
ざっとメニュー見たところ、内装の通り本格中華がメニューに存在し、満漢全席の文字も見えた。
満漢全席とか頼むヤツいるのだろうか・・・
「じゃあこのアイスコーヒーで」
「あ、わたしはオレンジジュースで!あー・・・とこのケーキ1つ!」
ケーキは諦めきれなかったようだ。
「さて、弁解を聞くのは別として、立替の清算から端末の使い方を教えてくれ」
「あーそれなんですけどね、あなたを色々巻き込んでしまったわけではないですか」
「巻き込んだと言うより、仕出かしただよな?主犯殿?」
「うぐぅっ、そ、それはー・・・」
「違わないよな?」
「はい・・・それで案内しながら振り返ってみて、さすがに申し訳なくなってきて・・・あ、ケーキ来た!」
申し訳なさ<ケーキ と言うことだけは良くわかった。
「それでねハムハム。うーん、やっぱりおいしー!今後も手伝ってもらうことになるし、わたしのお詫びも兼ねてこの施設での支払いは私が持っちゃいます!ハムハム」
「食いながらしゃべるなこのアホ!」
「だってーおいしーんだもーん!」
「はぁ・・じゃあ使い方とかは後で教えてくれよ」
「おーばっちこーい!手取り足取り教えちゃいますよー!」
「普通で頼む」
そんなこんなで休憩を終え、当初の目的である登録も済んだので施設を後にする。
「結構歩いたのか日が傾き始めているなぁ」
「それじゃうちに行きましょーか」
「また案内頼むな」
「はーい。あ、今度はカップル待遇でカフェきましょーね!」
「断る」
「ちっガード固いな・・・」
「シールさんに報告しとくな」
「ひぃ!すみませんそれだけはごかんべんをぉぉぉ!」
「考えとくから案内してくれ」
「ひゃい・・・」
考えとくだけだから報告しないとは言っていないことに気づかないアトホルと一緒に日の傾き始めたとおりを連れ立って歩く。
ギルドから10分ほど歩いたところで2階建ての建物にたどり着いた。
その入り口を潜り抜けるとそこは・・・団地だった。
もう色々自由すぎる世界である。
建物の中の空間なので天井はあるのだが、透明になっており屋外と変わらない様子の団地だった。公園まで入っている。
植物園とかにあるあんな感じをイメージしてもらえればいいと思う。
そこから進み、階段を上った3-115号室と書かれた一室にたどり着く。
「とうちゃーく!ここが我が家です!ささ、どーぞどーぞ」
「おじゃまします」
今までのような異常な光景は無かった。玄関を抜ければごく普通の・・一人で暮らすには広めのリビング、その左右にいくつもの扉。
トイレやお風呂はリビングに出るまでの通路の横にあったので、個室や物置だろう。
「こっちの部屋はわたしの個室で、こっちは空いてるのでリンはこっちの部屋を使ってくださいね。布団とかは余ってるの後で出しますね」
そうして部屋に案内してくれるアトホル。案内してくれた部屋は物置・・・になり始めた程度の部屋ですぐにでも使用できそうだった。
ひとまず買った雑貨をその部屋に置いておくことにする。
そうこうしていると、
「夕飯は私が作ります!胃袋掴んじゃいます!」
「・・・お前ってところどころ致命的にアホだよな」
「アホってゆーなー!ひとまずお姐呼んでくるね」
「ん?」
ご近所なのかな?と思うような言葉が聞こえた。そして徐に個室の反対側の扉へ向かっていき、
「おねーえー、シール姐ーいるんでしょー?」
どういうことだろう?と思うリンは、がばん!と勢い良く扉を開けていくアトホルの姿を追いかける。
その先にはアトホルに上半身を起こして介抱しているシールさんが居た。
場所はリビング。部屋の間取りはアトホルの部屋のリビングと同じ感じだった。
しかしテーブルの上にはビールの空き缶とつまみが多数。
当のシールさんはホットパンツにTシャツと言うラフな格好で、出会った当初のイメージとは違い・・・だめな独身女性という風体で酔っ払って介抱されていた。
なんだこれはという思いと光景に・・・やるせなくなった。
もうちょい冒険始まるまで掛かります。
冒険にならない可能性も少し・・・




