3 ギルドの内側
冒険は・・まだ始まらない!
「では、次こそは成功を祈ってますね?アトホルさん」
「ん?次・・・?」
今回が初ではなかったのか。
今まで見てきたアトホルと受付嬢さんの「次」という単語に不安を覚える。
一応前回というものを知ってそうな受付嬢さんに聞いてみよう。
「えーと以前にも実習の登録を・・・?」
「はい、私がここに立っている間だけでも過去に数回ほど実習で来られてます」
「ちなみにその時も実習のパートナー登録ですか?」
「いえ、そちらは今回が初になりますね」
少し安心する回答を聞けた。これで過去にも同様のパートナー登録をしていたと聞いたときには、その前任者たちがどうなったのか聞くのが怖くなってしまうところだった。
「過去の話は後で聞くとして、一応これのパートナーとなってしまう以上、これからここでの生活もあるのでしょうが、その際に色々手続きもいると思うんですがそれもこちらでいいんですか?」
「はい、こちらでほとんどの手続きを行えますよ。神界に来たばかりの様子ですし拠点となる住居もご入用かと思いますが、そういった手続きもこちらで承ります」
「ほとんどの手続きを一箇所とはすごい・・・」
「ふふふ、では住居の手続きもされていきますか?家賃なども考慮しなくてはいけないのでお仕事の斡旋も一緒にいたしますが・・・」
うーん、実際問題として拠点は必要だろう。
ラノベにあるような異世界にすぐに旅立つのであればここでの拠点は不要になるともいえる。
「なぁ、アトホル。お前の実習計画はどうなっているんだ?それによってはここにも居を得る必要が出るんだが」
「うーん、そうですねーひとまず・・・・・・・わたし一人暮らしですからうちに来ます?ニヤリ」
「鍵付きの別部屋になるならな」
「むー、まぁいいでしょう。部屋ありますし。その辺は追々・・・」
なんか獲物を見るような雰囲気を感じたがこの世界のお金などもちろん持っていない。
背に腹は代えられないので少々の予防線を張ってコイツの提案をOKとした。
身を守る手段は・・・あとでシールさんに相談しよう・・・。
「では住居の手配は大丈夫ですね?竜胆さんの現住所はアトホルさんのお住まいということでこちらで登録しておきます」
「ありがとうございます」
「他にも何か手続きが必要な際はいらしてくださいね?手続き以外にも空いている時でしたら簡単にご案内なども出来ますのでご利用ください」
「そのときは頼らせてもらいますね、えーと」
「申し遅れました、私はミリーと申します。以後お見知りおきを」
そうしてショートな茶髪が良く似合うミリーさんと挨拶して、この後のことをどうするかアトホルと相談するため一旦カウンターを離れた。
「さて、今日の俺の宿は決まったわけだが、お前の実習計画とかどうなるんだ?」
「あ、今シール姐から連絡はいってたよ!明日はあなたの世界の時間でいう8時くらいに集合しましょう。だってー」
「りょーかい。んじゃまだ日は明るいんだがこの後どうするんだ?」
「それじゃーこのギルド内をぐるっと見て回ってからー、少しお茶してーその後にうちへ案内しますねー」
「ひとまずの俺の生活用品とかはどうするんだ?」
「この施設内で揃えられるんでそれも見ちゃいましょー」
「あぁ、それで頼むわ」
そして頼むと言うやいなや、俺はすぐに近くの売店へそそくさと非難する。
ヤツの言葉から次の言葉の予測をしたので、面倒を避けるため回避に移った。
「ふたりっきりでふらふらしながらショッピングやお茶とかーなんかデートみたいですねー、きゃっ。あ、今日はお金は私が持ちますから!おこづかいもらってますから!」
置き去りにした後なんか遠くで予想通りのことを言っていた模様。
こんなことになった元凶なので、日用品程度のお金ぐらいは負担してもらおうと思う。
「あー!!置いていかないでくださいよー!もー!」
戯言は無視して売店などを見回ってみたが、よくある旅行先の土産屋のようなものだった。
ただ、異世界らしくスライム饅頭などといったファンタジー要素のある食材から未来ロボットの秘密道具のような妙なものまで雑多であった。
「実用的なものはほとんど無いなこの売店・・・」
「まーそうですよねー。このテナント、オーナーの趣味の店ですからー。あ、奥の方行けば冒険者向け!ていうコーナーになってますよ?」
ちらっと奥を見るとファンタジーな武器や防具、道具が並んでいるゾーンが見えたが、お金もないし客もいないところを見ると怪しいゾーンのようなので見るのはスルーしようと思う。
その後ぐるっと回ってみたが、ざっくり言うと役所とショッピングセンターとよくファンタジーものにある冒険者ギルドをごちゃ混ぜにした施設だと言うことがわかった。
「なんで一まとめにしたんだこの施設・・・」
「いやー展望塔で見たようにそこまで町自体は広くないじゃないですかー。なのでー中を広げられることをいいことに・・・ね♪」
「ね♪じゃない。雑多すぎるだろう・・・」
「まー繋げたりするのが好きなんでしょうかねー」
「それはさておき、バイトのようなことも斡旋所行けばあるのか?お前に一日とも頼りっぱなしは嫌なんだが」
「えー頼ってくださいよー。むしろ養わせてください!あ、でもでもゆくゆくは養ってもらうのもー・・・」
妄想に入って何かをのたまうアホは放っておいて、早速ミリーさんを頼ってみることにした。
「アルバイトですか?日当とかでもいいものでもあちらの斡旋所で対応していますよ。あとは軽いものがあればですが、依頼受付の方に出された依頼を消化することで報酬としてお金をもらうことも出来ます」
「いやほんとそれギルドですね・・・。ちなみにさくっとできるような依頼ってあるんでしょうか?」
「手頃な所ではいわゆる薬草採取とかあったと思います」
「おぅ定番~」
「一度依頼受付の方へ行って聞いてみるのがいいと思います」
「わかりました、ありがとうございます」
「いえいえーまたいらしてください」
そうこうして依頼受付へ行き、今日中にこなせそうな軽い依頼はないかと聞いてみる。
「こんにちはー初心者なのですが、即日で出来る依頼なんてありませんか?」
「おぅ、らっしゃい!」
八百屋風のおっさんが受付だった。
こういう所は綺麗どころが定番なのではなかろうか?
気を取り直して聞いてみる。
「今から始めて多少でも報酬出るような依頼は無いですか?」
「んーそうだなぁ・・・定番の薬草採取・・・は今からじゃ時間かかりすぎるしなぁ。初心者向けで他には・・・・・そうだ!ちょっとお使い頼まれちゃくんねぇかい?正式な依頼とは違うが駄賃と出すぜ!」
「ひとまず内容聞いてからでいいですか?」
「おうよ!手伝いと言っても簡単だ!この段ボール3つをこのギルド内の各所へ届けてこの台紙に判子もらってきてくんねぇか?ちょうど郵送係が出払ってしまっててな」
「それなら大丈夫そうです。すぐ行って来ます!」
「おぅ頼んだぜ!行き先のメモはコレだ!急ぎじゃないがあんまり遅くならないように頼むぜ!」
「では行ってきます」
そして積めば3つ同時にいけそうな段ボールを受け取った。
-------宅配クエスト!----------
とは言ったもののこの施設内部、くっそ広い。外観は大衆酒場程度のサイズなのに中身は大型総合ショッピングモールを超えそうである。超えてるかもしれない。
とりあえずさっきから静かだなと周りを見ると、先ほどの売店付近で未だくねくねとしながら妄想を繰り広げているだろうアトホルを発見した。
一体どれほど妄想は進んだのだろうか厄介そうなので追求はしないでおこうと思う。
「こらアホトル、往来でいつまでそうしているんだ」
「・・ハッ!もういいとこだったのにー!ってダレがアホトルですかー!わたしはアトホルですー!」
「はいはい。一応少しはお金用意しないとと思ってな、依頼受付で簡単だが仕事もらってきたぞ」
「えっわたしがここにいる少しの間にそんな・・・恐ろしい子・・・」
「・・・大した仕事じゃないがな。この3つのダンボール箱の配達だ。場所はこれなんだがわかるか?」
「ほうほうほう、この3箇所ですかー」
・服飾総合店「マッパ」
・食材処「ゴッドイーター」
・素材工房「無添加」
なんかやばい名前ばかりな気がするがここは触れないほうがいいだろう。
「わからんならミリーさんとこで聞いてくるぞ」
「わーかーりーまーすー!案内でーきーまーすー!」
アホ呼びと妄想放置で若干不機嫌になったのかもしれないので少しだけ上げておこうと思う。
これからお世話になる家主でもあるからな・・・
「今の俺にはアトホルだけが頼りだ、頼む」
「まままっかせてください!さぁ、いきましょー!」
「(なんてちょろいヤツだ・・・)」
非常に楽して気分良く案内させることに成功した。このちょろさに今後が心配になるところではあるが、便利な面もあるので有効活用していこうと竜胆は心に決めた。
「まずは近いところからで頼むわ」
「おーらーい!じゃあまずはこの食材処から行っちゃいましょうーおー!」
先ほどの売店や手続きカウンターからそれほど離れていないとも言えなくないところに食材処はあった。
でもkm単位は離れている気がするのは気のせいではないと思われる。
道中、何箇所も迷子センターが見えていたが、この広さなら必須かもしれない。
「とうちゃーく!」
「この広さを迷わず真っ直ぐ着くとは感心するなぁ」
「ふっふっふー・・・・もう迷子センターのお世話になんて・・・」
「常連だったんだな・・・」
「うぅ・・・その度にシール姐に助けてもらってたの・・・。でも何度も呼び出しされるシール姐に悪いと思って・・・」
「道をしっかり覚えたと」
「だから案内は自信を持っておこなえます!」
「よし、案内”だけ”は任せたぞ!」
「”だけ”ってなんですかー"だけ”ってー!」
「さーて配達配達~」
「んもー!」
なんとも叩けば響くこいつをいじることに楽しさを覚えながら食材処の入り口前に立って見上げる。見上げる。見上げるほどに入り口がでかい。
「この入り口のでかさはなんだ・・・?」
「むー、あんまりいじわるすると教えませんよー」
「あー、ほどほどにするから教えてくれ、頼りにしてるんだから」
「では教えましょう!」
「(やっぱちょろい・・・)」
「たとえば異世界って色んな生物いるじゃないですかー」
「あぁ、ファンタジーなのがいたりするんだろうな」
「魔物とかも異世界って感じですよねー」
「まぁな」
「そういうことです!!」
「納得できた気がする・・・しかし持ち込むにしてもここ、遠すぎないか?」
「鑑定とかもしてるんですけど、量がすごい時があって・・・はみ出すんですよね・・・あと匂いとかもすごい」
「換気とスペース確保のためか・・・」
「うぇぇ思い出しちゃった・・・アンデッド祭りの時を・・・」
青い顔をしているアトホルの背中を少しさすってポイントを稼ぎつつ、お使いを済まそうと店内へ入っていく竜胆たち。入ってすぐのところは食材?を拡げられるよう少し広い広場となっていた。その奥の方に進むとそこは・・・スーパーマーケットだった。
アンデッド祭りとか行なわれる場所の奥にスーパーとか利用するのに抵抗が出そうな店舗である。
なんかここは突っ込み体質の人が立ち入った場合、出てこれない施設かもしれないと思いながら、とりあえずレジさんに訪ねに向かった。
「あのーすみませんー」
「はいなんですか?」
「依頼受付の八百屋のおっさんポイ方からお届け物なんですけど、どこへ伺えばいいでしょうか?」
「あ、こちらで受け取っておきますよー」
「ではこの台紙に判子お願いします」
「はいなっと」
「たしかにいただきました」
「ごくろうさまですー」
さくっと一件目が終わる。恐らくこのスーパーも範囲は広いことになっていただろうから簡単に済んでよかったと思われる。
「よし、次行こうか頼むぞ」
「ふぇーい・・じゃあ次は素材工房にしましょうか・・・」
「どこかで休んでいくか・・・・?」
「いえ、ココから離れれば記憶の呪縛から解き放たれると思うので早く・・・」
「お、おぅ」
そして今度も結構な距離があった。青い顔したアトホルが覚束ない足取りだったのも最初の方だけで、だんだんと回復していき、素材工房に着く頃にはすっきりしていた。
素材工房は入り口付近にあった手続きカウンターから奥へ奥へ行った食材処より更に奥だった。
帰りもあの距離歩くのかと思うと若干うんざりしそうな距離である。
「ここもでかいな・・・」
「素材となる物っていうと鉱石とかあるじゃないですか」
「もしや、さっきの所が食べられる物系でこっちは食べられない物系ということか?」
「リンすっごーい!正解!」
「しっかしここまで大きい素材って何があるんだ・・・?」
「ほら・・ゴーレムとか・・・あるじゃない?」
「あれを持ち込むんだ・・・」
「そりゃぁ全身素材だからね・・・」
もはやどうやってとかは置いておこうと言う雰囲気で話し込む二人。
この様子だとゴーレム関係でまた何かがあった場所ということが推測できる。
掘り下げるのは危険かもしれないという直感を得るものの、知らないほうもまずいという直感も働く。
「念のため聞いておくが、ここでも何かあったのか・・?」
「それがね、いつだか起爆系の素材が大量の時があったの。それもゴーレムサイズ。」
「起爆したのか・・・」
「思いっきり踏んじゃった☆」
危ない素材が転がる時もあるようだが、このアホを連れて歩く時は色々気をつけたほうがいいとひとつ決めた竜胆であった。
ひとつ腹に決めたので役目を果たそうと店内の従業員を探してみると、こちらの店は入り口から少しのところにカウンターのような場所があり、そこで少量の素材などの対応をしているようであった。
そこに近づき荷物を配達するため店員に話しかけた。
「ちわーっす依頼受付からのお届けものでーす」
「お、早かったじゃないかー」
「こちらに判子くださいー」
「はいよー」
「ありやとやんしたー」
昔やってた配達のバイトを思い出す対応でさくっと終わらせた。
我ながらまだ忘れていないなと感慨に耽りながら、次の目的地へと足を向けるため素材工房を足早に後にした。
「ねぇリン。ずいぶん手馴れて・・・っていうかずいぶんそそくさと離れたのね」
それもそのはず。あのカウンターに近づいた時にその上に並んでる物が目に入ってしまったのだ。
明らかに怪しいガスがもや~っと出ている妙に柔らかそうな謎の物体が置いてあることに・・・。
「あそこは必要時以外に近づくのはやめよう。やばい物も無造作に扱っていそうだ・・・」
「同感よ・・・」
「なぁアトホルさんよ」
「なによリン」
「まともな店無いのここ?」
「あったらもっと客いるでしょう?」
どの店もカウンターもすんなりと事が進んでいた訳がここにあった。
どの店舗も何かしらやばい部分があり、それを知っているがために客足が遠かったという事実であった。
それでも成り立っているということは需要だけは存在する証拠といえる。
「なぁ、最後の服飾店もやばいところか・・?名前なんかほら・・・」
「残念ながら・・・」
「そうか・・・」
そう答えて顔に手を当てて上を仰ぐ竜胆。そして答えの続きを語るアトホル。
「店の名前とオーナーの格好だけやばくて、他の店は普通のお店よ。生活雑貨なんかもあって便利だし」
「それでもどこかはおかしいのな」
「そういう施設だと思って諦めることよ・・・」
アホの子としか言いようの無い行いをするアトホルをもってしても、諦めの境地に至る恐ろしい集合施設。遠い目をして諦めを語るそんなアトホルを見ながら、この業の深そうな施設に関して今後も利用しなきゃいけないのかなと、すごくやるせなくなった。




