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エンジェルウォー・フロントライン  作者: Regulus
第一章 物語の始まり
8/33

天使襲来

 シャッターの前に置いてある武器を手に取るトオル率いる第一兵団。

 反対側に置いてある大型の武器を手に取るカオルの率いる第二兵団がシャッター前で整列し待機していた。

「よし、各々武器は持ったか? 済まないが俺たちは金がある訳では無いので武器やらなんやらはすべてお下がりだがまあ、我慢してくれ」

 兵士のひとりがライフルを手に取る。

「すいません弾はどこにありますか?」

「済まないが弾も有限なんだ、ライフルのマガジンに入っている弾がすべてだ。ハンドガンの弾だったら余ってるんだが、ハンドガンでは一撃で仕留めることが出来ない故ライフルが重宝されてる。弾は次入ってくるまで少量しか残ってないんだ」


「まあ、無くなったらライフルで殴ってくれ」


「おやっさん!」

 整列する〈ABF〉にもたれ掛かるようにしてモリタが叫ぶ。

「無理をするのはいいが、命を失うくらいなら武器もなんも壊してきて構わない。整備は俺たちに任せておけ」

 トオルが話し終わると〈ヴィーナス〉から無線が入る。

「お兄様各部隊のシンボルの説明を忘れないでください」

「そうだったな」

 部隊の先頭に立つ〈オーディン〉と〈ヴィーナス〉は壁に立てかけてあった巨大な旗を〈ABF〉の手を使い持ち上げる。


「俺たち第一兵団は天馬が描かれたシンボルだ、そして第二兵団のシンボルは一角獣が描かれている。《天使領域》の自軍の持ち場にはこの旗が目印にラインが引かれてる。まあ、よっぽどのことがない限り第二兵団の陣地には入らないように」


「それはどうしてですか?」

 兵士のひとりが問いかける。

「まあ、入っても弊害はないですけれど、部隊ごとに違う〈天機〉の行動パターンから割り出した陣地だから私たちとお兄様たちとじゃ戦ってる相手が違うのよ」

「戦う相手が違う?」

「そう、私たち第二兵団は基本的に大型の〈天機〉を目標に。そしてお兄様たち第一兵団は群れを成してる〈天機〉を目的にしてるのよ、それによって武器も戦い方も変わるの」


「ありがとうございますお姉様!」


「お姉様!?」

 カオルがリサからそう呼ばれるのを聞いてトオルは耳を疑った。

「お前、なんて呼び方させてるんだ……」

「私の勝手でしょ?」

 カオルの動きと連動するように〈ヴィーナス〉が首を傾げると下で待機していた整備員から声をかけられる。

「もう、シャッター開けてもいいですか?」

「あ、ああ。頼む」


 トオルの返事の数秒後大きな音ともにシャッターが開き始める。錆び付いたその音の先には街を焼く天機の機械音が混じっていた。

 その音の中には今まで流れていたものとは異なる音が紛れていた。

「お兄様……聞こえましたか?」

「ああ、聞こえた。あれは紛れもなく」

 トオルは〈ABF〉の操縦席のグリップを強く握る。



「人の声だ」




 圧倒的威圧感のある〈天機〉の放つ銃火器により破壊され始める街、逃げ惑う人々。

 軍をなすように群れる〈天機〉は《天使領域》を広げるべく荒野からさらに進軍し住宅街へと攻め込んできていた。


「お前ら! ローブの死神が出てくるまで街を燃やせ! 何人死のうが関係ない!」


 先頭に立つ異形の〈天機〉からは人の声がしていた。

 逃げ惑う人々が次々と焼かれていき、街は大型の虫の形を成した〈天機〉に踏み潰されていく。

 大通りの先にある格納庫のシャッターが開かれるとそこは既に半分が焼き野原となっていた。


「ようやくお出ましか」


 異形の〈天機〉は馬の様な体に人間の胴体が付いていた其の姿は神話上のケンタウロスを彷彿させる人馬であったが、不気味にも足は四本よりも多かった。

 今まで出てきたことのない人馬状の〈天機〉のその姿は遠くからでも目視出来た。

 その姿と、焼かれる街を見るなりトオルは旗を掲げ叫んだ。



「全軍突撃!」



 トオル立ち率いる第一兵団は、格納庫のある大通りを迂回し群れを成す〈天機〉へと進軍していく。

「おいおい、さっきの地図よりも多くないか」

「隊長! 先程の異形の〈天機〉がこちらへ進軍してきます!」

 オーディンのコックピット内に表示された標準の先には槍をこちらに向け突進してくる〈異形の天機〉の姿がそこにはあった。


『トオル! 回避してください!』


 ジークの呼びかけに慌てて回避するも、トオルはその速度に反応できず、回避行動をとった〈オーディン〉の肩アーマーが吹き飛ぶ。

『トオル、油断大敵です。あの天機機動力が通常の3倍です、下手に攻撃を受けると』

「分かってる、ちょっとぼうっとしただけだ」

 その場で腰を抜かした〈オーディン〉は慌てて立ち上がり、双剣を手にする。


「かかってこいや!」


 再度〈異形の天機〉がトオル目掛けて突進してくるが、先程とは異なり槍を突くのではなく、太刀のように切りかかる構えで向かってくる。

『トオル攻撃パターンが読めません! 防御に徹底してください!』

「分かってるよ!」

 人馬が振り下ろした槍を二本の剣で受け止めるも、受け止めたことにより二体の面が急接近する。


「おい、あの死神はどうした!」


 急接近する〈異形の天機〉から放たれた人声に驚き防御を緩めるも、再び剣に力を込めてその体を押し返した。

「あいつがどうした!」

「俺が用事があるのはあの〈死神〉だけだ。お前みたいな雑魚に用事はない!」

「へえー、雑魚……全く、いいだろう全力出してやるよ。行くぞジーク!」

『やるんですね。トオル』

「勿論だ、雑魚って言われて俺が大人しくすると思ってるのか?」

『いいえ、そうだと思って準備はしてあります。リミッター解除します!』

「よっしゃ! やるぞ!」

 トオルが気合を入れるとオーディンのコックピットに


『function unlocked ok ?』


の文字が表示され、それと同時に、操縦桿の隣にあるタッチパネルにyesのnoのボタンが表示される。

 トオルは力強くyesのボタンを押す。

『トオル、もって2分です。それ以上は期待が耐えきれません。分かりましたか?』

「勿論だ! 出力最大で行くぞ!」

 トオルがグリップを握ると〈オーディン〉の装甲の隙間が赤く光り始める。


 バックパックは姿を変えて格納されていたスラスターが展開、片方の肩は装甲が展開する。


 両腕と両足に格納されていたスラスターも展開し、頭部のフェイスパーツが剥がれ中から般若のような面が現れた。


 手に持っていた2対の剣も赤く光り、熱を持ち煙が出始め、氷のように凍てつく目をした〈オーディン〉はその剣の両端をつなぎ合わせて薙刀のような形状に変形させる。


「ジーク、カウントダウン頼む」

『了解』

 みるみる姿を変えていったオーディンの体は鬼神のような姿へとなっていた。

「身体が赤くなった如きで何だってんだ! お前は俺には勝てない!」

 人馬がオーディン目掛けて突きの体勢で突進してくる。



 しかし、〈異形の天機〉の目線の先にいた〈オーディン〉は、赤い残像と共にその場から消える。

 赤い閃光となった〈オーディン〉が、人馬の背後へと回り込み奇襲を仕掛けた。


「ここだ!」


 攻撃を受けた〈異形の天機〉は急旋回し〈オーディン〉の攻撃を受け止めるも、受け止めた腕は切り口から溶けその場に落ちる。


「何で避けるんだよ!」

「お前……馬鹿なのか? 声を出しながら攻撃したらそれはもう奇襲とは呼ばないぞ?」


 もう片方の剣を分離させ構える〈オーディン〉の攻撃を避けきれず受け止めようとすると、目の前に一機の〈天機〉が庇うように現れる。


「おい、何してるんだ!」


「隊長、貴方は生き残ってください。その為だったら僕達の命なんて容易いものです」

 そう言い〈天機〉の目から光が消えた。

「良くもやってくれたな、こっちも本気を見せてやる」

 怒りに身を任せた〈異形の天機〉は威嚇するかのように後ろ足で砂を蹴る。

 しかし、委縮することもなく堂々としている〈オーディン〉は、動こうとするもそううまくは行かなかった。

『トオル、残り三〇秒です』

「任せておけ」

 機体が暑くなるのと同時にコックピットも暑くなりトオルの頬からは汗が滴り落ちると、赤く輝く〈オーディン〉の関節駆動部からは火花が散り始める。

 目の前にいたはずの人馬の形をした〈異形の天機〉は白い閃光となり、戦場を駆け回ると、それに負けじと〈オーディン〉も再び赤い閃光となり追いかけようとトオルはフットペダルを踏みこんだ。

 その中、無慈悲にもジークのカウントダウンが始まる。


『残り一〇秒』


 二体は一般兵の眼には見えぬ速さでその武器をぶつけ合い、住宅街を飛び交う〈オーディン〉は〈異形の天機〉の片腕を抉りとった。


『残り五秒』


 残り五秒のカウントダウンに焦りトオルが一瞬の隙を作ると、機会を疑っていた〈異形の天機〉がその攻撃を見切りオーディンの片腕を吹き飛ばす。


『4……3……2……1……機能停止させます!』


 ジークのカウントダウンが終わると〈オーディン〉が纏っていた赤い光が次第に消えていき、体が青く鎮静化された〈オーディン〉はその場に膝をついてしまい、その体全身からは煙が立ち込め、フェイスパーツからは蒸気が漏れ出す。


「おいおい終わりか?」

 片腕を失った〈異形の天機〉は〈オーディン〉に向けて槍を構える。

「んな訳ねーだろ!」

 逆上したトオルは、フットペダルを踏みこみ〈オーディン〉を立ち上がらせようとするも火花が散り立ち上がることすら出来なかった。


「どうやらここまでのようだな。雑魚と言って悪かったな、お前はなかなかいい戦士だったよせめて死ぬ時は一撃で仕留めてやる」

 目の前で崩れ落ちる〈オーディン〉を目の前にして〈異形の天機〉が槍を突き出そうとすると、大型の鎌がその槍を吹き飛ばす。



「遅いぞミツキ」



 トオルは安堵し背後を振り返ると、そこにはローブを着た〈死神〉が目の前に立っていた。



 シャッターが開きトオルが右方へ迂回して行った直後、ミユキ率いる第二兵団は住宅街の左側に面する発電施設を狙う大型の〈天機〉の進行を止めるべく左方へ進軍していく。


「お姉様、何なんですかあれは」

「まあ、初めて見るうちは驚くわね」

 大型の〈天機〉は、蛾の幼虫の形を成した見た目をしていた。

「え……〈天機〉は人型ではないんですか!?」

「一般的に住宅街へと進軍してくるのは人型が多いんだけど、人型では壊すことが出来ない主要施設を狙ってくるのは巨獣型の〈天機〉なのよ」

「なるほど」

「それにあの大きさじゃ1人でなんて倒せるわけないのよね、だからあなた達には団体で行動してもらわないと、分かったらさっさと行くよ!」


 カオルがそう合図を出すと〈ヴィーナス〉はその場から勢いよく走り出した。

 その姿を見た〈ポーン〉達も遅れをとるまいと全速力で走り出す。

「隊長速すぎます!」


「あなた達が遅いのよ……」


 そう口にすると〈ヴィーナス〉はビルやアパートの屋根を飛び越え、蛾の幼虫形をした大型の〈天機〉目掛けて飛び上がる。


 滞空時間は一瞬であったがその時間の中で〈ヴィーナス〉は、背中の槍をすべて展開させ端の2本を手に取り、目の前で進行する〈天機〉へ投擲する。



「オウラァ!」



 今まで話していたカオルの口調とは違う口調でカオルが叫ぶと、無線は前回になっていたためその声が兵士全員に筒抜けだった。



「オラァ! 新兵共さっさと私に続け!」



 新兵たちはカオルの変貌ぶりに困惑しつつも、その言葉に続き武器を構え走り出す。

 街に響く〈ABF〉が走るたびに鳴る怒号は第二兵団の士気を高め、第二兵団は軍として最高峰の連携が取れていった。


「いいか! そこの3人は右から、そこの3人は左から攻めろ! 前面は私が攻める!」


 三方向からの攻撃に大型の〈天機〉はその場に倒れると、倒れた〈天機〉が不気味な動きをし始めたのを見つけ、兵士のひとりが槍の先でつついてみると、前足からパネルが剥がれ落ち中から無数の食屍鬼タイプの〈天機〉が虫のように湧いてではじめた。


「うわぁ!」


 つついた兵士が慌ててカオルの所に戻ると、奥の方でも大型の〈天機〉のパネルが剥がれ食屍鬼タイプの〈天機〉が湧いてでる。

『カオル、気をつけてください』

「分かってるわよ! それよりも数は?」

『おおよそ50です。しかし、コアの温度から考え通常の〈天機〉よりも弱いと考えられます』

「なるほどね」

 カオルは脳内で様々な憶測を立て始めた。


(この数、明らかに主要施設を破壊しに来ていない。この数を此処に運ぶということは……)


 カオルの思考が一つの結論へと結び付けられた。


「全員! 距離をとって! こいつらの狙いは私たしたち自身、最初から第二兵団を殺戮するつもりだったのよ!」


 カオルの言葉を聞き兵士たちは一斉に後退し始める。

 その刹那、武器を持たない無数の食屍鬼タイプの天機が、第二兵団向けて走り出す。


「お姉様! 何なんですかアレ!」

「向かってきた〈天機〉から倒してるけどキリがないわね」

「隊長、困ったことに囲まれました!」

 その状況は正しく四面楚歌、通常タイプの〈天機〉と比べ出力の低いとはいえ、倒せても10体程度だったため残る〈天機〉は40機強。


 第二兵団の武装は大型の〈天機〉を倒すため装備した近接武器しか持っておらず、打つ手がない状況になってしまった。

「参ったわね……誰か銃火器持ってる人いる?」

「持っていません! うっ!」


 兵士が〈天機〉を押しのけても、さらに次、さらに次と生きた屍のように立ち上がる。


「こいつら昔映画で見たゾンビみたいですよ!」

「アテナ、何かいい手はない? 私もう槍のストックないわよ……ってどうしたの?」


 小型モニターに表示される猫の映像が後方を見たまま、振り返らなかった。


『カオル! 南東の方角からポーンが一機走ってきます!』

 格納庫のシャッターがある南東から、全速力で走ってくる〈ポーン〉の重い足音が近づいてくるのと同時に、無数の銃声が聞こえる。

 その銃声の先から放たれた銃弾は的確に〈天機〉の頭部を貫き、その先を見通すかのように徐々に数を減らしていく。

「何事!?」

 カオルは思考回路が及ばない状況に動きを止めていると、そこに一本の無線が入る。



「カオルさん! 助太刀に来ました!」



 確実に頭部を打ち抜かれた〈天機〉が倒れたその一本道の先には二丁拳銃を手にした〈ポーン〉が立っていた。

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