びしびし☆逆指導
放課後、俺はシャラルナを呼び出した。
俺が指導をする……はずだったのだが。
「魔術が使えなくても、魔力を上がることが出来る。それは理解しましたわ。ですが! 見てくれの悪い人に見てくれのことをとやかく言われたくありませんの」
なんと、俺が説教されてしまった。
自分のルックスをなんとかしてから言えと、そういうことらしい。
だってさぁ~、女の子の服には興味あるけど、男のなんて興味ねえよ。
男の服にはあまりにも興味ないから、オンラインゲームでも女の子でプレイしちゃうタイプだよ俺は。
欲しいアイテムが軒並み女性限定の装備なんだから、そうなるでしょ。
「だいたい、なんですの、その変な服」
「は!? これは始発でビッグサイトに行って、ずっと並んでようやく昼過ぎに買えた激レアTシャツだぞ!」
「何を言ってるのか少しもわからないんですけれど」
シャラルナは左手で右肘を抑えながら、右手の指を頭にあてて顔を横に振る。
わざとらしいくらいわからないアピールをするのが妙にサマになっていた。
「しかもこのプリントは魔法少女のやつだからね、ある意味君たちが目指すべき存在と言ってもいい」
「そんなことはどうでもいいのです、ダサいと言ってるんです」
ガーン。
自分が知っていても言われると傷つく言葉の一つだろう。
わかってるよ、わかってる。
アニメプリントTシャツとブルージーンズとサンダルですからね。
っていうか俺ってこの服しか持ってないんだけど。
気づいたらここにいるけど、どうやってここに来たのかよくわかってないし。
「そう言われてもどうすりゃいいんだ」
完全にお手上げだった。
普通にファッションビルがあったとしてもどうしていいかわからないくらいなんだ。
こんなよくわからんところに、ほっぽりだされてる俺に服装をなんとかしろと言われましても。
「お金は持ってますの?」
中学生くらいの女子に完全に上から目線で金を持っているか尋ねられるとは。
別に普段から金持ってないけどね、バイトしてないし。
「あ、ちょっとなら貰ってます」
教官就任の際に貰っていた、給料日までの支度金を見せる。
自然に愛想笑いを浮かべる俺を一瞥すると、シャラルナは
「じゃあ、仕方がないから、私がなんとか見れるようにしてさしあげますわ」
と言い放ち、長い金髪を翻して、すたすたと歩いていってしまう。
ええ……。
「はやく付いて来なさいよ!」
「は、はい!」
うう、俺は先生になったはずなのに。
なんだろう、この下僕感。
マジでお姫様、いや皇女様かもしれない。
そういう属性、アリだな。
連れて行かれた先は、よくわからないが服を売っている店のようだった。
洋服、でも和服でもない。
アラビアンナイトの世界のイメージだろうか。
魔法の世界だから、ちょっと神秘的な衣服なのかもしれない。
赤やら青やら金色の模様もいっぱい付いてる派手な服だ。
よくわからん。
シャラルナの言うがままに着せられる。
靴も、帽子も、アクセサリーも何やらいろいろ付けられた。
温暖な気候の土地のためか、半袖、膝下で麻のような着心地。
俺は動きやすければ何でも良い。
「ふーん、なかなか見れるじゃないの」
着替えた俺を評価しているシャラルナ。
一応褒められているっぽいな。
悪い気はしない。
「背が高い割に筋肉が少なくて、色が白いから頭が良さそうに見えますわ」
褒められてんのかコレ?
要は肉体労働してないから知的労働者に見えるということだろうけど。
背が高いってのはこの辺りではということだろう。
俺は高校では平均くらいの身長と体重だ。
オタクなので日焼けはしていない。
「その中途半端に伸びたヒゲは剃ること。あとは香水ですわね」
「ヒゲはともかく、香水はいいだろ」
「なんでですの、匂いはさせないのがエチケットですわ」
「だから毎日風呂入ればいいだろ!? 俺から体臭なんかしねえって」
「麗しい匂いをさせてこそだと思いませんの?」
「女の子はそのままで良い匂いがすんの!」
俺たちの議論は平行線を辿っていた。
がるると噛みつきそうな顔で睨むシャラルナに、俺はこれは負けられないと睨み返す。
「わかった、こうしよう。お前たちは毎日風呂に入って、香水は使わない。俺はシャラルナの言う通りに香水でもなんでも従う」
「お互い言うことを聞くということですわね……わかりましたわ。ヒゲはすぐに剃ってくださいね」
そこで俺は何やら甘ったるい、香水をかけられる。
なんだよこれ。
「あぁ~いいですわね。フローラルですわ」
「便所の芳香剤みたいな感じだな」
「なんでお花の香りが、トイレの香りになるんですの!?」
またしても睨まれる俺。
いらん事言うのは止めておこう。
こちらのトイレに芳香剤なんてないから、理解されるはずもないし、これは取引なんだ。
俺が常に便所の臭いをさせていたとしても、それで彼女たちが毎日風呂に入ってくれるなら安いもの!
「いや、こっちの話だ。いい男にしてくれてありがとうな、シャラルナ」
「い、いい男にまではなってませんわ、まだ」
そう言って、プイと顔を背ける。
じゃあな、ええ、という短い挨拶をして今日のところは別れた。
寮に戻ると、丁度シラーラが部屋に帰るところに遭遇した。
家無しの俺達は同じ寮に住んでおり、俺は1階でシラーラは2階。
風呂は共同で1階にある。
髪が濡れているから、風呂上がりなのだろう。
シンプルな茶色の部屋着を着て、歩いている。
「よう、シラーラ。ちゃんと風呂に入ってて偉いぞ」
風呂に入ることを褒めるなんて幼稚園児かよ、と思いつつも俺は心から称賛していた。
俺にとっては宿題をちゃんとやっている、のと同義なのだ。
教官としては褒めてやらなくては。
「……え?」
シラーラは片手をあげて挨拶をしている俺に対して、何やら知らない人を見るかのような顔。
「あの……?」
なんだ?
なんか様子がおかしい。
親戚の家に初めて訪ねてきた小さな女の子のような、妙な恥ずかしさを持った表情だ。
もじもじと、薄手の寝巻きを恥じらうように腕で隠しながら身体をくねらせている。
「なんだ? ああ、わかった、腹減ったんだろ、一緒に食堂で夜飯食おうぜ」
そう言うと、彼女は驚いたような顔で、こう言った。
「えっ、まさか、ユーイチ?」
「ユーイチ先生と呼びなさい」
「ええっ、だって、ええっ!?」
俺の頭やら足やらに人差し指を向けながら疑問符を投げつけてくるシラーラ。
何を困惑しているのか、あわわあわわと、顔を手に当てたり、かぶりを振ったり落ち着きがない。
何だというのか。
「そ、その格好は……?」
「あぁ、途中で出ていったから知らないのか。服装にダメ出しされてな、シャラルナっていう娘の言うとおりに着せ替えさせられた」
「ヒゲは?」
「剃れって言われて剃った」
「へ、へえ……香水も?」
「あぁ、俺は嫌だったんだが」
少しだけ歩み寄って、スンスンと鼻をひくつかせるシラーラ。
うーん、女の子に匂いを嗅がれるなんて初めてだ。
なんともいえない気分だな。
「ほら、さっさと飯くおうぜ。まだだろ?」
そう言って、まだ少し濡れている髪を頭の上からくしゃっと撫でる。
「ほわ……」
なにやら恍惚とした表情で固まるシラーラ。
なんかこいつさっきから変だな。
食堂に行って、向かいに座り、おそらく鳥であろうモモ肉を炙ったものを齧る。
咀嚼しながらシラーラを見ると、豆を大量にスプーンに乗せたままぼ~っとしている。
こいつが飯を食うのに、少しでも止まるなんておかしい……。
病気なのかもしれないと、額に手を当てると、跳ねるように逃げた。
そんなに嫌わなくてもいいだろうに。
指先が熱い。これは熱かもしれない。
「なあ、熱があるんじゃないか? 食欲もないみたいだし、医務室行くか?」
「こ、これはその、女の子の秘密だから、ほっておいて!」
そう言い放つと、食事の載ったお盆を持ったまま、食堂から出ていった。
ふーむ。
そうか、女の子の日だったか。
俺は少し赤面しながら、一人で食事を続けた。




