ぺこぺこ☆ランチタイム
「アシェラさん、すみませんっ! 俺は紳士にあるまじきセクハラをっ!」
「え? なんのことでしょう? シラーラをお風呂に入れて欲しかっただけ、ですよね」
勘違いの内容をようやく理解した俺は、90度に腰を曲げて謝罪した。
ところがどうやら、全部無かった事にして許してくれるみたいだ。
なんという慈悲深い……というよりは恥ずかしかったから無かった事にしたいんだろうなコレ。
まぁ俺にとっても都合のいいことだし、それならそういう事にしよう。
「どうぞ」
アシェラさんはシラーラの手首を掴んで、それをそっけなく、手渡しされる。
うわ、お風呂上がりの美少女と手を繋いでしまった。
柔らかい……握手会で握った声優さんよりも。
とりあえず俺に充てがわれた部屋まで連れて行く。
数分だったが、無言だったこともあり長く感じられた。
「そこに座ってくれ」
彼女をベッドに座らせるのは紳士じゃないので、俺がベッドに。
彼女を椅子に座らせる。
終始彼女は無言だ。
髪や肌は綺麗になり、お風呂上がりのいい匂いがする。
しかし、服を着せるにはまだ何か足りない。
表情が乏しいというか……。
まぁ無言系美少女っていうジャンルも一時期人気だったし、俺も理解するけど。
なんか違うんだよな~、覇気がないというか。
単に元気がないみたいな。
病気には見えないんだが……と思っていると。
くぅ~という可愛らしい音が聞こえた。
シラーラはすぐにお腹を抑えた。
俺はぽんと手を打った。
腹が減ってるから元気がないんだ!
考えてみれば俺も何も食ってないし、飯にしよう。
「食堂は……どこだろ」
「知っております」
「そうだよな、ここで働いてるんだもんな」
俺はシラーラの後をついて行った。
石畳を蹴る音が続く。
シラーラによって、ぎいっと開く木の扉。
「えっ」
着いたところは、土間だった。
うーん、これは食堂じゃなくね?
「おばちゃん、何かある?」
「あら、シラーラちゃんじゃない。あるよ、食べ残しの骨が」
「ありがと」
ってオーイ!?
それ誰かが食い残した鳥のモモ肉じゃねえかよ。
狼に育てられた少女じゃあるまいし、そんなワイルドすぎる食い物ダメダメ!
「おいおい、シラーラ」
「なんでしょう」
今にも骨と骨の間の肉に齧りつきそうなところを止める。
早く食わせろよという目だ。
今までで一番、人間としての意思を感じる。
「俺は、ちゃんとした食堂で食べていいって言われてるから」
おばちゃんに気を使ってひそひそ話していたが、おばちゃんに笑われた。
シラーラは理解していないようだった。
「なんです、腕章をお持ちのお客様ですか。それでしたら案内しますよ。シラーラも食堂で食事なんてよかったねえ」
おばちゃん、凄くいい人だった。
どうやらこの炊事場は捕虜や囚人、奴隷の食事を作るところらしい。
なんか闇が深いなあ……。
「おばちゃんありがとう」
食堂に着いたので、おばちゃんにお礼を言って別れた。
なかなかに広いが、食事時じゃないのか利用者はまばらだった。
受付がやってきて、俺の腕章を見るとテーブルに通された。
どうやら腕章によってサービスが異なるっぽい。
階級社会だなー。
受付の給仕はメニューを渡して、俺たちのテーブルで待ったままだ。
待遇がいいのかもしれんが、さっさと選べよって無言で言われてみたいで落ち着かない。
「好き嫌いないか?」
俺は彼女に確認をする。
それが紳士だろう。
来たことのない食堂で、好きなものを頼めというのは酷というものだ。
シラーラはとんでもないというように首を振る。
よし任せたまえ、俺はこう見えてもグルメなんだ。
そしてメニューを開くと。
何一つわかんねえ。
写真どころか絵もねえ。
全部異国の文字でびっしりだ。
どうしようもねえぜ~なんて言うと思ったか。
俺はそんなに弱くないのよ。
すっと立ち上がりトイレを探すそぶりをしながら、他のテーブルを見る。
そして何事もなかったかのようにリターン。
「あれと、あれ、そしてあれをくれないか」
オタクだと思って甘く見るなよ。
こちとら英語版しかなかったオンラインゲームで協力プレイやってんだ。
言葉なんてわかんなくても何とかなる方法は心得ているぜ!
やがて運ばれてきた料理は当然だが、和食ではない。
とはいえ何だかさっぱりわからないということもない。
まずは野菜がたんまりと入った赤いスープ。
シラーラには栄養バランスのいい食事が大事だ。
見た目に反して辛くもトマトの味でもなく、塩気の少ない豚汁みたいな慣れ親しんだ味だった。
スプーンで食べるのが変なカンジ。
シラーラは一生懸命に頬張っている。
腹減ってたんだろうな~。
こういう姿を見ていると若いっていうより子供に見える。
あとはミートボールみたいなやつ。
何の肉だかわからんが、やたらとさっぱりしている。
豆腐ハンバーグみたいなお味だ。大葉に似たハーブが効いている。
そしてパン……というよりはチャパティだったかに似てるもの。
具の入ってないお好み焼きみたいなものを食べながら、おかずを食う。
おかずの味が薄めなので、俺はこれはあまり食わなかった。
シラーラはもう、とにかく一生懸命食っていた。
「美味しい?」
そう聞いても、首をこくこくと軽く動かすだけ。
俺はもう腹いっぱいになったが、まだ食べ続けているシラーラ。
ちらちらと隣のテーブルのでかい肉の塊を見ている。
うーん、実はいっぱい食べる腹ペコキャラ。
これは萌ポイントだなー。
「なぁ、あの肉を食いながらでいいから、君のことを詳しく聞かせてくれないか」
シラーラは頬いっぱいに入ったミートボールを咀嚼しながら、首をこくこくと軽く動かした。
薄々お気づきかと思いますが、お話進むの遅いです。就任するまで結構かかりそう……
世界の説明も少しずつ。