うきうき☆初任務
「もったいない」
俺はボソリとつぶやいた。
「持ってるものをまるで活かせていない。本来の破壊力はそんなものじゃないだろう」
思わず本音が口から溢れる。
眼の前ではせっかく爆乳の女の子が胸を揺らしていたが、それが全く見えなかった。
だぼっとした、布地の多いベージュのワンピースで、凄くダサい。
そして何より胸の大きさがうかがい知れない。
アクションが大きめで、アニメだったら決めポーズの後は一回胸が揺れるだろうに。
これじゃ台無しだ。
セクシーな衣装でさっきの動きをすれば、男性に対する破壊力は半端じゃないだろう。
惜しい、実に惜しい。
「今、発言したのは貴様か」
何やら軍服っぽい感じの服を着た、かっこいいお姉さんが俺に向かって言った。
若くして要職についたエリートで真面目なタイプのキャラクターだと一瞬で理解った。
「自分です」
俺の一人称は普段俺だが、軍人相手と思ったので自分と言ってしまった。
ふっ、ちょっと俺、格好いいかもな。
よく考えればこの場所は軍事施設のようにも見える。
俺はなんとなく人が集まってるから、ふと覗いてみただけなのだ。
ここが何処で、何をやってるのか全く把握していなかった。
「貴様、さっきなんと言った」
ナチュラルに偉そうな態度のお姉さんだった。
多分本当に偉いんだろうけど、まだ若くて綺麗な人だ。
そういうキャラクターは、大体可愛い一面を持っているものだと知っている。
まあ、アニメだったらだけど。
よって、どうせ実は猫好きとかなんだろとか思いながら笑顔で答えた。
「もったいないと言いました。持っているものの良さを少しも発揮していません」
丁寧な受け答えを心がけたぞ。
これでもアルバイトはしているので、それくらいのことは出来る。
「ほう」
感心したような顔を見せる軍服美人。
メガネをかけていれば掛け直すポーズが似合うだろうに、これまた惜しいな。
「先程の炎の魔法は学生にしては十分に高い魔力だったが、あれでもまだ破壊力が足りないと?」
は?
魔法?
俺は魔法の破壊力じゃなくて、おっぱいの破壊力の話してんだけど。
「何か彼女に試したいことがあるのか」
唇の端を上げて、試すような笑い方をした。
どうやら俺のことを面白がっているようだ。
まー、この人に歯向かったり意見を言う人って少なそうだもんな。
魔法がどうのこうのはよくわからんが、思ったことを言っておくか。
「そうですね、着替えるだけでも大分違うでしょうね」
「なっ!? 貴様、服装が魔力に影響を与えることを何故知っている」
目を見開き、驚愕という顔で俺を見てくるお姉さん。
そんなに見つめられるとドキドキしちゃうじゃん。
俺はリアルな女性にはあまり慣れてないのだ。
ところで魔力って何?
「貴様、やはり只者ではないな。よかろう、ついて来い」
くるりと身体を翻して、背中を追って来いと命令されてしまった。
くぅ~、なんか燃えるし萌えるシチュエーションだな!
俺は割とお気楽な気持ちで、彼女について行ったのだった。
東南アジアのお城か神殿のような、金を使用したきらびやかな門をくぐっていくと、まさに修練場のようなところについた。
本当に軍の施設なのか?
なんというか、古い。
まるで中世の軍事施設みたいだ。
偉い人が座りそうな椅子に、いかにも偉そうなおっさんが肘をついて座っていた。
軍服美人はヒゲのおっさんに敬礼して報告した。
「ジュナイデール長官殿、この者の入場を許可いただきたい」
「ふ~ん、なんで?」
「面白いことを言うので、試してみたいのであります」
「アシェラが面白いと思ったの? ふーん。いいんじゃない」
物凄く恰幅のいい偉そうなおっさんなのに、えらくフランクな物言いだった。
このおっさんもキャラ濃そうだなあ。
声も激シブっすよ。
「ついて来い」
奥に進む。どうやらこの軍服美人さんはアシェラというらしい。
アシェラさんと二人で石畳をコツコツとブーツで鳴らしながらしばらく進むと木の扉の前に止まった。
そのまま小さな部屋に通される。
そこに居たのは可憐な少女だった。
だがしかし、なんとも残念な仕上がりだった。
奴隷が着てるような汚れた安っぽい衣服に、適当すぎて長さもよくわからないぼさぼさの青みがかった黒髪。
わざと醜くしてるんじゃないのかと思うくらいだ。
まぁ、俺の目は誤魔化せないがな。
この子は絶対美少女だ。
エメラルドのような瞳はきらきらと光り輝き、ぱっちりとしている。
それに少し褐色の肌は、汚れているもののとても綺麗だった。
年の頃は13、14というところだろうか。
背も胸もまだ大きくなりそうに見える。
「もったいないにもほどがあるな」
思わず俺は声に出してしまった。
「やはりわかるのか!?」
アシェラさんはちょっと嬉しそうに大きめの声を出した。
やっぱこの人、笑うと可愛いだろ。
これについてはもったいないとは思わない。
普段ふてくされているからこその魅力ってものだ。
アシェラさんは、そのまま捲し立てるように話し続ける。
「実はこの者は奴隷で軍の掃除洗濯をしているのだが、先日洗濯していた貴族の服に勝手に袖を通していてな。その際に見よう見まねで魔術を使用したところ、なかなかの魔力を見せたらしいのだ。勝手に貴族の服を着た罪で今はこのような扱いなのだが、同じ魔術をさせても全く魔力が衰えていてな」
理解者を得たとばかりにウキウキと話してくれるのは有り難いが、俺は理解が追いつかない。
魔術とか魔力とか、言葉としては理解できるが何を言っているのやら。
なんとなく世界設定を意識し始めたが、これは夢なのか?
よく考えてみればみんな日本人じゃないけど日本語で話してるし、どうも都合が良すぎる。
アニメを見すぎて、中に入ってしまったんだろうか。
しかし俺の考える時間はあまり用意されておらず、アシェラさんは話を続けた。
「普段着と魔導着で魔力が違うことはわかっていたし、学生服のほうが魔力が高かったというのもよくある話ではあったのだ。今回のことで私は確信した。魔力は服装によって変わるのだと」
アシェラさんは子供のように目を輝かせて拳を振り回している。
ギャップ萌えはありがたいが、そんなこと言われてもな。
さっきから言ってる魔力ってなんなんだよ。
俺はせっかく可愛いのに勿体無いって言ってるだけなんだが。
「この者の服を選んでやってくれないか」
アシェラさんは俺の手を握り、見つめながらそう言った。
こんなんされたらなんでも断れないぞ。
軍事的な効果について期待されているのだろうが、それはどうにも理解できない。
しかし俺は、美少女に好きな服を着せることができるというチャンスを逃す気は無かった。
「お任せあれ」