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009



 ミゲルを連れてオークを回収した。


「あー、これオークの睾丸は使い物にならないですね。結構高く売れるんですよ?」

「……次は気を付けるよ」


 幸いにも鳥につつかれていた程度で損傷は軽微だったので、討伐報酬以外にもそれなりに収入になるだろう。魔石も無事だった。睾丸は精力剤になるらしい……魚の白子みたいなもんだと思っておこう。

 ついでにゴブリンは食えないので魔石と討伐報酬だけだが、だいぶ懐具合は暖かくなる。


 予定外のオークの襲撃はあったけど、これでローラへの手間賃も払えるな……シュナイダーが戦うところを見たら満足だって言ってたけど、ちゃんと払わないとな。



「というわけで、パーティーを組みましょう」


 ギルドに戻るなり、待ち構えていたローラにそう言われた。


「えっと、いきなりなんだって?」

「パーティーですよ。まさか知らないとか言いませんよね?」

「そりゃ、臨時で組んだりもしたことがあるから知ってるさ。えーっと、それはつまり今度一緒に仕事しようってことでいいのか?」

「今度、じゃなくて今後、ですね」


 それはつまり、固定パーティーを組もうという誘いか。


「ああ、理由が分かってないですか。ええとですね、理由はシュナイダーです」

「うん? あいつが理由? ……もっと戦うところが見たいとか?」

「それもあります。ですが、問題はその後なんですよ!」

「その後……」


 そういえば、血まみれになっていたシュナイダーはどこに行ったのだろう。


「シュナイダーなら今漬け置き中です。時間はかかりそうですが、徹底的に綺麗にしますからご安心ください」

「そうか。……討伐依頼をしたら毎回頼むことになりそうだな」

「そこです! それが理由なんですよルーカスさん」


 ずい! とローラが前のめりになって俺に言う。思わず一歩引いてしまった。


「えっと? それが理由っていうのはつまり、どうせ毎回洗濯を頼むことになるなら、毎回手間賃をやり取りするよりいっそパーティー組んで報酬を山分けの方が早い、ということだろうか」

「違います、全然違いますよルーカスさん。ダメダメですね。それとも男の人との感性の違いなんでしょうか」


 はぁ、とため息をつくローラ。少なくとも俺とローラとの間でシュナイダーに対する感性は明らかに違うだろうな。


「さっきも言いましたが、血の汚れはすぐに落とさないと落ちないんですよ。ルーカスさんは血が乾くまでシュナイダーを放置しそうですし……それならパーティー組んで一緒に仕事した方が私がすぐ対応できるじゃないですか」

「あ、そっちか。なるほど」

「あと、シュナイダーが怪我したときもすぐに縫えますし」

「怪我……ああ、うん。確かにそれは助かるな」


 もはやシュナイダー本位制、とでも言うべきなんだろうか。シュナイダーが絡んでいたらなんでもしそうだな。

 実際、今回は一切攻撃を受けずに済んだものの、ぬいぐるみであるシュナイダーの防御力は弱い。そしてシュナイダーがやられた場合、俺の【人形使い】は新しいぬいぐるみ――じゃなくて人形を手に入れるまで使えなくなるだろう。

 それを現地で修復できるのは強い。


「でもいいのか? その、ローラは定期組だろ。今まで見たことないし」

「いいえ? 普通に依頼組です。スキルが【裁縫】なのでそれを生かした手伝いとかもしますけどね。私、最近この町に引っ越して来たんですよ」

「そうだったのか」


 そういえば、初めて会った時も皮の胸当てを付けていた。

 言われてみればあれは町の中で働くやつがする格好じゃないな。


「って、その歳でスキル開花してるのかよ」

「その歳って、私もう16歳ですよ? 12歳の時には覚えてましたけどね。昔から裁縫は得意でしたし」


 悪かったな、俺は40歳までスキル不明だったんだよ。

 ちなみに【裁縫】スキルは繕いものやらそういうのがうまくなるスキルだ。

 裁縫限定で器用度がものすごく増えるといった感じで、日常生活にお役立ちなスキル。

 冒険者としても服が破れたりは日常茶飯事(俺でも裁縫セットを携帯してる程)なのでサポートとして優秀と言えよう。

 ただ、やはり【裁縫】で冒険者というのには結びつきにくいのではないか。


「それならそれで、裁縫の仕事に就けばよかったんじゃないか?」

「裁縫の仕事は歳を取ってからでも就けますし、今しかできないことをやりたいっていうのはあるじゃないですか」


 ふむふむ、言われてみれば確かに。歳をとると針の穴に糸を通すのとか大変になりそうだが、【裁縫】のスキルを持つローラであればその程度は些事だろう。


「他に聞きたいこととかありますか? 私はパーティーメンバーにおすすめだと思うんですけど」

「あー、そうだなぁ……というか、依頼組ってことは戦闘も多少はできるんだよな? オーク倒すの手伝ってくれてもよかったじゃねーか」

「……まぁシュナイダーがいれば大丈夫かなって。実際、ほとんど問題なかったじゃないですか」


 シュナイダーに全幅の信頼を寄せすぎだろう。

 まぁ、俺も実際そう思ってたけどな。結果としては決定打に欠けることになったが。


「むしろ私も、ルーカスさんはソロだって聞いてなんでパーティー組んでないのか聞きたかったんですけど」

「……特に理由はないよ」

「言いたくないなら別に言わなくてもいいですよ」


 いやホント無いから。かつての仲間が死んだからとかそんなドラマチックな理由のひとつでもあればよかったかもしれないけど。どう記憶を思い出しても、ただ人付き合いとかが面倒だっただけなんだよなぁ……


 ともあれ、固定パーティーを組むメリットはデカい。

 デメリットは、今まで独り身で自由気ままにやってたのが今後は連絡とかが必要になるってくらいだ。


「いいぜ。それじゃあこれからよろしくな」

「はい! よろしくお願いしますね、シュナイ……ルーカスさん!」


 今シュナイダーって言いかけたけど、俺ってぬいぐるみっぽいか?

 これきっとシュナイダーの中の人っていうことなんだろうな……糸で操ってるから外の人かもしれない。どっちでも変わらないか。


 と、俺とローラが握手したところで、ギルド付属の酒場で酒を飲んでいた奴らからヤジが飛んできた。


「おお! ルーカスがついに彼女作ったのか?」

「わはは、あいつ早速尻に敷かれてそうだぞ」

「ひゅー、そんな若い子捕まえるなんてやるじゃねぇか」

「つーかオーク狩れたんだって? おめでとう、長かったな! 結婚式には呼んでくれ」

「うるせえちげーよ! オーク狩れたよ初だよ結婚式とかしねぇからなオラァ!」


 黙ってろよコラ! と睨みをきかせるも、奴らはニヤニヤするばかり。

 というかこいつらいつも酒飲んでるけど金大丈夫なの? って俺が心配することじゃないか。きっとこの間見たくパーティー組んで討伐依頼を受けたりもするんだろう。


 というか、歳でいったら俺の三分の一だぞ。下手したらローラのお母さんが俺より若い可能性すらあるわ。そんなオッサンと結婚とか、常識的に考えてないだろう。

 ……ん? まてよ、この世界的にはあり得る話なのか? 今までの記憶を振り返ってもあまりそういう話に興味なかったから分からん。


 俺はローラに向き合い、軽く謝る。


「ったく、すまねぇな、ココはこういうノリなんだ」

「ああいえ、前の町でもそうでしたし大丈夫ですよ」


 どこの町の冒険者も似たようなものになるのかもしれない。


「とりあえず今後の話でもしようか」

「そうですね。あ、ルーカスさんってどこに住んでるんですか?」

「安普請の集合住宅だよ。パーティー組んだことだし、場所は教えとく」

「私の家の場所も教えておきますね。クララもまた動くシュナイダーに会いたがってましたから、いつでも遊びに来てください」


 あ、うん。俺はシュナイダーの動力扱いなんだね。まぁ分かってたよ。




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