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037

 そうこうしているうちに、俺達は村長邸の部屋を片っ端から開けてミルスを探した。


「ミルス!」


 そして、ようやくミルスを見つけ出す。ベッドに縛り付けられてどこか虚ろな目をしていたミルス。俺が声をかけて近寄ると、はっとその目に光が戻った。


「ミルス、大丈夫か!?」

「る……ルーカス、さん? ……え、どうしてここに……?」

「もう安心だ、町長のやつは俺がぶっ飛ばした……ってこの枷どうやって外すんだ? 鍵とかないぞ。どうしよう」

「ええええ!? ちょ、ルーカスさんそこ大事なとこ――うっ、ご、ごめんルーカスさん、その、枷、壊してくれない?」

「鍵探してくるよ」

「いやその! とても可及的速やかに! この枷を壊してくれないかな!?」


 焦りを感じさせる声で必死に叫ぶミルス。


「なんだ、鍵を探して来ちゃいけない理由でもあるのか?」

「……乙女の……」

「ん?」

「乙女の尊厳がピンチなんだってば! だから早く!」


 察した。察した俺は、翌日の筋肉痛を覚悟して人形使いパワーを自分に注ぎ込み、ミルスを拘束している枷を引きちぎった。

 オッサンの筋肉痛など、乙女の尊厳の前ではカスみたいなもんだ。

 枷から解き放たれたミルスはなんとか起き上がり、ベッドから降りる。


「ありがとう……うっ……!? ……ふ、あ、あぶな……」

「気を付けて行けよ、トイレはさっきこの部屋出て右の方に見かけたぞ」

「う、うん、ありがとうルーカスさん……」


 そしてミルスは、内股で恐る恐る歩いて部屋を出――


「ミルスさん! ご無事でしたか!」

「ろ、ローラ!? や、だ、だめっ! 今抱き付かれたらぁあああああ!?」


 ローラに抱き付かれるミルス。……俺はそっと目をそらした。とりあえず10分ほど目と耳を閉じておいた。

 何、俺は何も見てないし聞いてない。それで良いじゃないか。



 そんな温かい目で帰ってきたミルスを見たら、怒鳴られた。


「いや!? ギリギリ踏みとどまったから! 漏らしてないからね!?」

「ああ、分かってる。分かってるとも」

「いーやその目は分かってないでしょ絶対! 嘘じゃないんだからね!? ね、ローラ!」

「はい、間に合いましたよ」


 え? 本当に間に合ったって? ならいいけど。


 *


 改めてミルスを連れてエントランスに戻ってきた。


「というわけでな、この通りだ」

「おおぅ……町長の頭が粉々に……」


 町長の粉々になった頭蓋骨と、残りの骨を見て驚愕しているミルス。ふふふ、俺のことを褒め称えても良いのだぞ?


「で、ルーカスさん自分が何やったか分かってる?」

「え? そりゃまぁ、ゾンビの元締めを倒したわけだが」

「うん、ゾンビっていうか、アンデッドの元締めなわけだけど」

「おう、アンデッドの元締め――ん、どうした?」


 ミルスのうわぁ、という顔。どうかしたのだろうか。


「……この先、デスパドーレの町はどうするのかな」

「え……?」


 ミルスの呟きに、現実が頭をよぎる。


 このデスパドーレは、大量のスケルトンやゾンビといった安価な労働力を用いて大規模農業やその他産業を行っていた。そしてそれは、すべて町長のスキルに寄るものであった。

 そう。この頭が粉々になってピクリとも動かないリッチの。

 うん。

 ……あれ? じゃあその、大量の労働力を使っていた大規模農業やその他産業はどうなんの? 無いよ? 労働力無いよ?


「え、つまり……?」

「うん。この町はおしまいだね。でもって、何気にデスパドーレはこの国の食糧事情を下から支えていたわけで……」


 国の……国家レベル!? 値上がりする食糧、崩壊する食糧事情、荒れる国内――


「――やばくね?」

「うん、ようやくルーカスさんは自分のしたことの結果がどういう事になるかわかったようだね……!」

「やばくね!?」

「やばいね」

「えーっと、つまりどういうことですかミルスさん、ルーカスさん?」

「……私も、良く分からない、のですけど……」


 まだ頭が追い付いていないローラとメリーさん。うーん、何と説明したものか。

 簡単に説明すると……


「シュナイダーのパンチで国がヤバい」

「シュナイダー凄い!」


 目を輝かせるローラ。いや、ちがくて。


「こ、こうなったら俺の人形使いで農場を耕したりするしか……いや、無理! さすがに手が足りない! メリーさんみたいな自立運動できる呪いの人形を集めて……いやいやダメ! 稼働時間も足りない!」


 俺は頭を抱えた。どうしようもないぞこんなの!


「そのな、すまん、俺が深く考えなかったから……」

「いやルーカスさん。これは仕方ないよ。だって町中ゾンビとかだったんでしょ? 普通にこの町は切り捨てられておしまいだったと思うし……」

「まぁ仕方なかったでしょうなぁ。ワシもそう思いますぞ」

「そうそう。その通り」

「くっ、こんなの俺一人で責任取れる話じゃねぇぞ……って、今の誰?」


 見ると、そこに1体のスケルトンが腕を組んで頷いていた。


「えーっと、あんた、誰?」

「ワシですかな? あ、ワシは本物の町長ですじゃ」

「え? 本……物?」

「その通り! 実はこの町は、このリッチに乗っ取られていたのですじゃ!」


 ニカッ、と骨を鳴らして笑うスケルトン。


「まー、三代目ということになっとったが、あやつは【死霊支配】というスキルでワシの力を乗っ取っておったのじゃよ。あ、ワシはワイトな。ワイトのイトーじゃ」

「そうなん、ですか?」

「まぁ自分で力使う必要が無くて楽じゃったからそのまま村長の座を譲って放置して寝とったんじゃがな! ハハハ」


 なんてのんきな。

 ん? でもそれってつまり、ゾンビやスケルトンを動かしていたのはこのスケルトン、もといワイトってこと?


「うむ。ワグバードは自身の力で死霊を生み出すことはできなんだが、その分支配力が強かったでな。……元々農場始めたのは初代じゃし、ワシもやっとったし、先ほど言ってた不安は――まー、ないじゃろ。多分」

「え、その。それじゃあとりあえずは農場はこのまま動かせるってこと?」

「久々なんでちゃんと統率しきれるかは怪しいとこあるが……なんなら初代町長も起こすかのう?」


 えっ、初代も居るの?


「初代町長もアンデッドゆえな、次の【死霊術】が見つかったからとワシに町長の座をおしつけて隠居の眠りについたのじゃ。ただしいつでも蘇れる形でじゃがな。どうしても手が回らなかったら起こせと言われとるよ」


 アンデッドの世代交代って……そうなるのか。なるほどなー。


「なんか、大丈夫そうですねルーカスさん?」

「あ、ああ。はぁ、よかった……? 天文学的な賠償金を要求されるかと思ったぜ……」

「カッカッカ! そんなことせんよ――おっと、皆を起こさねば。【死霊術】!」


 ワイトがパキン、と骨の指を鳴らすと、倒れていたゾンビ達が起き上がった。

 だがその目に野性は感じない。暴れていたゾンビたちは意思も本能も感じさせない従順な状態に、パーティーの招待客だったゾンビは頭を押さえつつ理性の光を取り戻していた。


「町で暴れとったのはスケルトン工場のゾンビじゃな、整列! 戻れ!」


 ワイトがそう命令すると、ゾンビ達は「あー」とか「うー」とか呻きつつも並んで屋敷から出て行った。しっかりいう事を聞いているようだ……


 ……おう、何気にヘカトンケイルの素体になってたゾンビも起き上がってんぞ? しかも頭押さえてる方。片腕と両足がもげてるけど。


「おお! 冒険者ギルド長、久々じゃなぁ!」

「ん? お? ああ、先代町長! お久しぶりです! どうかしたんですかい? あれ、足がねぇや。どこいった?」


 そう言って、ヘカトンケイルだったゾンビはぽりぽりと頭を掻いた。


 ……お前冒険者ギルド長かよぉ!?



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