035
「よぉ町長。お呼ばれしたから出てきたぜ」
「ククク! 貴様! 貴様が術者であるか!」
骨の手で俺を指さすワグバード氏。
ちなみに俺の後ろには金剛力士カカシも一緒だ。
「ふん、バレたなら仕方ない。そうだ、俺がそいつのご主人様だってな」
メリーさんがメイド服だからそう言ってみた。ワグバード氏もメイドを連れていたし。
「スケルトンには動かぬよう、ゾンビたちには人間を襲うように命令しておいたのだが! よくぞゾンビたちを潜り抜けてここまでやってきたものよ! ……そうか! そうか! ふははははは! 貴様も死霊を支配するスキルを持っておるのだな!」
「ちげえよ!?」
「隠すことはない! 我もであるからなぁ! 分かるのだ! 【死霊支配】、その系統のスキルであろう? そして、近距離であれば我の支配よりも強力なのだろう! ――だが貴様はまだ生者。そここそが未熟である証拠よ!」
思わずツッコミを返してしまった。だがさっぱり話を聞かないヤツめ、俺はワグバード氏の前に金剛カカシを出す。
「ククククク、中々の素体を持っているではないか! だが、肉体の、生命の枷に捕らわれた貴様が我に勝てるものかよ! 行け、ゾンビども!」
着飾った服の、目が虚ろなだけでまだ生きているようなゾンビが俺の周囲に迫ってくる。ローラが足払いして先頭のゾンビを転ばせると、それに躓きゾンビ達はさらに倒れる。が、すぐに立ち上がってこちらに寄ってくる。
俺はワグバード氏を正面に見据えたまま、左手側に逃げる。
ゾンビの群れを金剛力士カカシで押しのけ、引き付け、逃げる――と、ローラとワグバード氏の間に射線が通った。
「そぉらこっちだ! 来い!」
俺が叫ぶ。同時にローラが飛び出し、ワグバード氏に矢を放った。
が、ゾンビが間に割り込み矢をその体に受け止めてしまった。
ちっ、やはりそう簡単にはいかないか……
「ふはっ! 残念であったな! 残念であった! 今の軌道は我の頭蓋骨に当たる良い不意打ちであったぞ! だが、生者の気配は読めるのよ、アンデッドなだけになぁ! そやつも、あらかじめ殺しておくべきであったな! ふは、ふははは!」
高笑いするワグバード氏。ローラの回りはカカシとシュナイダーで固めている。もっとも、俺がこうして激しく動き回っていると大した動きはできないが……牽制か囮にはなるだろう。
「さぁさぁ、鍛冶顧問殿の仲間よ。なんならもっと大量の矢を射かけてみるかね? もっとも我の骨の身体では矢がすり抜けてしまうほうが多いだろう、しっかり狙いたまえ。ふは、ふはははは!」
そんなに高笑いして、何がおかしいのか。飽きないのかコイツ。
「ローラ!」
「はい、ルーカスさん!」
ゾンビがローラの方にも向かっていくのを見て、俺はローラの側に駆け寄っていく。強引に、ゾンビたちを金剛力士カカシとメリーさんで押しのけて。
「おお、なんということよ。貴様の死霊はなかなか強いではないか。だがこれはどうかな? ――ライトニングボール!」
突然、ワグバード氏がバチバチとスパークする玉を周囲に浮かべる。
「ルーカスさん! リッチの魔法です!」
「! そうか、町長はリッチだったな!」
死体を操るスキルの他、町長はリッチ――魔物である。当然、魔法が使える。というかリッチといえば魔法を使いこなす魔物で有名じゃないか。前世も、今世も!
バチバチ光る玉は、ひゅんひゅんと飛んで金剛力士カカシとメリーさんに直撃した。
「ぐあ! ……う」
倒れ込むメリーさん。
「ふははは! ゾンビには筋肉というものがある。スケルトンは骨だけであるから関係ないが、筋肉というのは電気を流せば勝手に収縮してしまうものなのだ!」
「そいつはご高説どうもってな。で、それがどうした?」
「つまり! いかに貴様の死霊が強かろうと、ゾンビである以上はライトニングボールが良く効くという事よ! ふははははは! まだ一度すら死んでいない人間如きが、死霊の知識で我に勝てるものかよ!」
「ハッ! そりゃそーだ! だがそれで勝てない訳でもないぞ?」
確かに死霊の知識については勝てないだろう。が、俺の使ってるのは人形だ。死霊じゃない。……それに、俺は一度だけなら死んでるしな!
「ふはははは! ふはは、は?」
メリーさんは特に何事も無かったかのように立ち上がる。金剛力士カカシに至っては、少し焦げ跡が付いたくらいでそもそも倒れてすらいない。
「大丈夫かメリーさん」
「びっくり……は、しました……」
「なんと! やるではないか貴様、我の雷魔法を上回る支配力とは! だがそれでは筋肉はズタズタに切り裂かれ、先程までの出力は出まいよ!」
当然、そんなことは無い。だってそもそも筋肉ないし。カカシと呪いの人形だもの。
「いでよ、合成ゾンビ!!」
ワグバードがそう言って、奥から巨大なゾンビが降ってきた。体格的に、金剛力士カカシよりも大きく、かつ腕が4本もある。しかもその手にはそれぞれ剣が装備されていた。
「おいおいおい、なんだこいつは」
「ふははははははは! これぞ、これぞ鍛冶顧問殿の真似をして、この我が作ってみた究極の戦闘用ゾンビ! ヘカトンケイルよ!」
ミルスから何を学んだのかは知らんが、奇妙なものを作り上げたもんだ。
「まぁもっとも、まだ腕のうち2本は飾りであるが」
「そこバラしちゃうのかよ!」
「クカカ! この歳になると新しいことを身に着けるのも一苦労でなぁ!!」
あ、ちょっと親近感。ってそんな場合じゃない。
「そういや、ミルスは無事なんだろうな。生きてるかって意味で」
「ミルス? ……ああ! 鍛冶顧問殿であるな、当然よ! 下手に同意なくアンデッドにしたら能力が著しく低下する故、鍛冶顧問殿にはしっかり同意を得たうえで儀式に臨んでもらわねばならぬ! そのためにも! 貴様らは死ね! 貴様らが死ね! 死んでアンデッドになれ! 仲間がアンデッドとして楽しくしている姿を見れば、鍛冶顧問殿も進んでアンデッドになってくれるだろうからな!」
ああ、そう。そういうことか。ペラペラと全部説明してくれて助かるぜ。
「……まさか、俺達を殺すために、町全体を巻き込んだのか?」
「巻き込む? 何を言っている。この町は我の所有物。であれば、どう使っても構うものか! 全員がアンデッドになった後、また元のようにしてやるさ!」
「そうかい!」
向かい合うヘカトンケイルと、金剛力士カカシ。ヘカトンケイルの白く濁った眼が金剛力士カカシを睨みつける。
「ヘカトンケイルだかなんだかしらんが、そんな失敗作にドロシーの金剛力士が負けるかってんだ!」
「メイド共、ヘカトンケイルを補佐せよ!」
メイドさん――新たなゾンビが現れ、金剛力士カカシを囲む。あの美人さん達までゾンビにしてやがったのか、もったいな、許せん!
「舐めんな! いけ! 金剛力士!」
「おお、おおお!?」
俺は、金剛力士カカシに操作を集中。元メイドさんたちが襲い掛かってくるのをヌルリとしたステップでかわし、ヘカトンケイルの懐に素早く潜り込む。
直後、背中をぶち当てるように体当たり――鉄山靠、と呼ばれる八極拳の技だ。前世の格ゲーの見様見真似だがな!
「あっ」
だが、しまった。それぞればらばらになって崩れ落ちるヘカトンケイルと、金剛力士カカシ。
ここまでの酷使が祟ったか、細かいヒビが入っていたのだろうか。今の一撃はヘカトンケイルと金剛力士カカシの両方へのトドメとなってしまったようだ。
……すまんドロシー。折角の力作を。
「お互いに切り札を一つずつ失ったか、やるではないか! いけ、ゾンビども!」
「くっ、メリーさん!」
「はい……」
襲い掛かってくるゾンビ達(元メイドさん含む)。これをメリーさんに止めてもらう。
メリーさんなら壊れても直る。とはいえ、すぐにではない。その力加減や数の差を考えるとゾンビ達の足止めが精一杯だ。
「ふはははは! 我の大魔法で片を付けてやろう! ――■■■■――■■■■……」
そして足止めが欲しかったのは俺達よりもあちらだった。ゾンビの垣根に守られ、うにゃうにゃとよく分からない詠唱をするワグバード。くそ、このままだと押し込まれた上に魔法の餌食に――
「ルーカスさん!」
と、ここでドロシーからシュナイダーを手渡された。




