034
道中のゾンビを蹴散らしつつ、俺達は町長邸までやってきた。
門番は鎧を着たスケルトンが棒立ちしているだけで、ここにもゾンビが……ミルスは無事だろうか、心配になってきた。
……離れたところからシュナイダーを向かわせて少し探してみたが、ミルスは混ざっていないように見える。冒険者ギルド長は、そう言えば顔が分からん。あの上半身裸のマッチョゾンビじゃないだろうな……ぶしゅるるるとか言ってるぞ。
「というか、シュナイダーはゾンビに襲われないな?」
「かっこかわいいですからね」
ローラの主張はよく分からんが、ゾンビでも町の外の野良ゾンビだとシュナイダーに襲い掛かってきていたはずだが……こいつら、野良ゾンビとは違うのか?
「とりあえずミルスやパーティーの参加者は庭には居なさそうだな。館の中を探ってみよう」
「そうなるとさすがに糸の長さが足りませんね」
「こっそり行くか、殲滅させていくか……帰りを考えると殲滅だが、数が厄介だ」
「なら行きはこっそり、帰りは蹴散らして、って感じでしょうか」
「そうなるな」
おあつらえ向けに、植木の迷路がある。ここを通って行けば、最小限の戦闘で済むだろう。……犬ゾンビとかいないよな? ハンドガンが欲しくなるぜ。ゾンビと言ったらハンドガンだよな。ナイフ縛りとかしないぞ俺は。マグナムやショットガン、特殊弾もガンガン使うぜ? ロケットランチャーも可。
「うぇい、ふぉろみー」
「? なんですか」
「……すまん言ってみたかっただけだ」
とりあえず、金剛力士カカシと戦闘用シュナイダーを先頭に迷路を進む。ノーマルシュナイダーに植木の上を歩かせて迷わないようにしつつ、ゾンビとの遭遇も最小限に。メリーさんには後ろを警戒してもらい、ローラは俺の補助だ。
……お、宝石や謎のエンブレムが落ちてる。これはきっと必須アイテムに違いない。
「火事場泥棒してないでさっさと行きましょう」
「いやこれはきっと後で使うから」
「使う?」
「仕掛けのカギになるに違いないから」
「何の仕掛けですか」
「……なんかこう、くぼみにはめると扉が開いたりする仕掛け?」
「普通のカギで良いじゃないですか」
……隠し扉なんだよ。うん。
「お、鉢植えがある」
「ハーブですね」
「ハーブ! ……なるほど、持ってくか?」
「え。邪魔なだけでしょう。摘みたてハーブティーでも飲むんですか?」
「いや、回復アイテムにだな」
「薬草じゃないですよこれ。それに、一回でも噛まれたらダメなんですから回復も何もないですよね?」
「……まぁ、そうだな」
よく考えたらあの手のゲームの主人公って噛まれまくってるのによく平気だよな……なにか設定があるんだっけ? 抗体があるとかなんとか。
「ミルスさんを助けなきゃいけないんですから、遊んでないで早く行きますよ」
「ああ」
ローラに引っ張られるように進む。……おっと、ゾンビだ。金剛力士カカシに仕留めさせる。絵面が……金剛力士な怒りの表情&腐った血肉の返り血や破片とかがやばいな。
植木の迷路を抜けて玄関にたどり着く。
おっと、エンブレムが丁度はまりそうなくぼみが……特に無いし普通にカギも開いてるな。不要なカギを捨てて行ったりする必要も無いってわけだ。うんうん。
「なんか残念そうですね?」
「あー、すまん。こんな時に。ちょっとロマン的なところでな」
「そんな場合じゃないですよね?」
「あ、ああ。分かってる」
真面目にやろう。実際ミルスの危機だ、遊んでる余裕はなかった。
玄関の中は……ゾンビが普通に居そうだな。
「シュナイダーに中を見てきてもらおう」
「ミルスさんは無事でしょうか……」
玄関の鍵が開いてて、扉も普通に開いてる時点で中にもゾンビがいることは明白だが――うん、エントランスには着飾ったゾンビも居る。きっとパーティーの参加者だ。
見る限り、ミルスはいない……かな? 多分いないんじゃないかなと思うが……
「ううん、シュナイダーだと目線が低くてよくわからんな」
「では……私が、行きましょう……」
金剛力士カカシを進ませようとしたが、メリーさんが止めた。
「いや、カカシで良いんじゃないか?」
「私も、ルーカスさんの人形ですから……そろそろ活躍しておきたいですし?」
「……まぁ、いざとなったら瞬間移動で緊急離脱できるからいいか。俺の後ろ限定だが。危なそうならいつでも逃げてこい」
「はい」
メリーさんの目を借りる。メリーさんは堂々と歩いて玄関から入る――が、ゾンビたちは特にメリーさん相手に襲い掛かることは無かった。
ここのゾンビは人に襲い掛からないのだろうか? 何か特別なのだろうか。
「おお! おお! なんということよ、貴様、我の支配下ではないな!? 生者でもない、何者だ!?」
ゾンビに溢れたエントランスから、1人のスケルトン――いや、リッチが現れた。
黒いローブに豪奢な宝石達を身に着けたリッチ。――他でもない、この町の町長。ワグバード氏だった。
「ということは……ここのゾンビたちは、町長の支配下にある……と?」
「む? 当然であろう! この町のアンデッドは全て我の支配下にある! ふははははは!」
骨の身体で高笑いするワグバード氏。
とりあえず、町長が無事ということは……ここは安全なのだろうか? いや、それにしてはパーティーの参加者がゾンビになってるのはおかしい。俺はメリーさんの手を動かし、町が大変なことになっていることを伝えてくれと言う。
「町長……町が大変なことに……」
「おお! そうであるな! 早く片付けば良いのだが! 用はそれだけか? 貴様の術者はどこにいる!」
「片付く、とは、どういう意味ですか……?」
「おや!? そうか、見覚えがあった! 貴様、鍛冶顧問殿の仲間であるな! これは都合がいい!」
話が通じていない。
……ミルスのことが出てきたな。聞いてみてもらおう。
「鍛冶顧問殿は屋敷の客間で休んでおるよ! 我の仲間になってもらうためにな!」
「仲間……?」
「すなわち、アンデッドよ! 何、貴様の仲間もすぐアンデッドになる! そのための、死の行進!」
ワグバード氏が両手を掲げると、エントランスのゾンビたちが拍手を鳴らす。
「もしかして……町の惨状は、町長の仕業……?」
「惨状? 福音であろう! この町で死ねば、我のスキルで不死になれるのだぞ? 喜ぶべきである!」
うーん。
これはあれかな。詳しいことは分からないが、とりあえずワグバード氏が黒幕っぽい雰囲気だ。俺はローラに不意打ちの準備をするようにハンドサインを出す。
大声で話しているワグバード氏。話の内容はローラにも聞こえているようで、こくりと頷いた。
しかしこうなると金剛力士カカシじゃなくてメリーさんを送り込んで良かったな。情報を引き出せる。
「貴様は既に生者ではない――つまり我の仲間のようではあるな? であれば話は早い。ひとりでノコノコ着たのは好都合である! 我に従え!」
「……」
「む?」
「……今、何かしましたか……?」
「ふむ。どうやら一人ではないようであるな? 術者がすぐ近くに居る、残りの仲間のうち、男の方か、女の方か? まぁ、良い! 隠れておるのであろう、出てくるがいい!」
よくわからんが、気付かれたようだ。俺はローラにいつでも不意打ちをできるように弓の準備を万端にしておいてもらい、1人だけ顔を出した。




