033
俺は副ギルド長にカカシとシュナイダー、そして金剛力士カカシとメリーさんを見せる。
「こいつらは、俺の【人形使い】のスキルで動いている。噛まれたところでゾンビにはならん」
そう。毒にも麻痺にもならない俺の【人形使い】の人形たち。それは当然、ゾンビにもならないという事に他ならない。
「ま、俺だけが気を付けりゃいいってわけだ」
「分かった。ルーカス、いや、ルーカス殿に任せよう。……十分に気を付けてくれよ」
「ああ。分かってるって」
ゾンビにゃなりたかないからな。俺は、自分の家を建てるまでは死ぬ気はないぜ。
「「ルーカスさん!」」
ローラとドロシーが駆け寄ってきた。2人とも当然齧られた後はないとチェック済みだ。
「ルーカスさん、ミルスさんを助けに行くんですか?」
「ああ、そのつもりだローラ。2人はここに残ってくれ。今の所、ここが一番安全みたいだからな」
「うん! ミルスのことは頼んだわルーカスさん! 私たちは大人しく待ってるわ。ね、ローラ」
「嫌です」
素直に応じるドロシーと対照的に、俺を睨むローラ。なんかこう、既視感を覚えるのは……気のせいじゃないよなぁ。
「えー、ローラも私と一緒に待ってようよ。ルーカスさんならきっと大丈夫だって」
「いいえ。今度こそ、私も一緒に行きますから。パーティーメンバーですからね」
「……ドロシーの言う通り、危ないだろうが」
「ルーカスさんこそ。人形を動かしながら満足に動けないでしょう? どうやってゾンビたちの噛みつきを避ける気ですか」
……いやその。前にヒュドラ・バジリスクを倒した時だってそうだったから、弱点を克服すべく努力はしてる。努力はしてるんだが、この歳でそう簡単に並列思考を覚えてるなんて出来ねぇんだよなぁチクショウ!
でもローラのサポートなしでもゆっくり歩きながら【人形使い】を使えるようにはなったんだぞ! は、走るのはまだ無理だ!
「それに一人じゃ付け替えも満足にできないでしょう? 付け替えの隙が一番危ないんです。それとも付け替えないで戦う気ですか? それだとせっかく馬車に積んできたシュナイダーやカカシも持ち腐れになってしまいますよね?」
うぐっ! 相変わらずローラの指摘はもっともだ。俺の不器用さでは人形の付け替えにだいぶ時間がかかってしまう。ローラなら【裁縫】スキルを使って1秒もかからず付け替えることができるのだ。
「……私だって、ゾンビ狩りしてた冒険者ですよ? パーティーとして連携はしっかりとれます。足は引っ張りませんし、むしろサポートできる分連れて行くしかないですよね。それに、単独行動は不味いと言ったのはルーカスさんですよ?」
「くっ……一理あるどころか反論する隙がねぇ。分かった、一緒に来てくれローラ」
「はい」
にこっと笑うローラ。……うん、なんか俺、ローラの尻に敷かれてる気がするなぁ。
でもローラが俺のサポートに最適なのは事実でしかないのだ……
「……でも、できればローラを危険な目に合わせたくないんだがなぁ」
「私にとっては、ルーカスさんの隣が一番安全ですよ」
「俺は、俺が一番信用ならないんだが……まぁいい。ローラが信じる俺って奴を、信じてみるか。いざとなったら俺を置いて逃げろよ」
「はい」
あ、これ逃げる気ねぇな。しっかり守れと。分かったよ。守るよ。
「……じゃー私は留守番してるね! 二人とも、ミルスの事は頼んだ!」
「ああ。最悪ゾンビになってても連れ帰ってくるよ」
「縁起でもないこと言わないでくださいルーカスさん。ミルスさんならきっと大丈夫ですって」
「お、おう。そうだな。……まぁドロシーの代わりに、こいつを連れてくからよ」
そう言って金剛力士カカシの肩をポンと叩く。
「えっ。私その子いないとめっちゃ心細いんだけど。ここんとこ私の心の支えがその子だったんだけど」
「……さすがに戦力として手放したくないぞ、こいつは」
「置いてってもらうわけには……ダメかな?」
「ゴメン、流石にダメ」
そもそも俺がいないと動かないマネキンなのだ。宝の持ち腐れ以外の何物でもない。
「くっ……! じゃ、じゃあ代わりにカカシを、普通ので良いから1体置いてって!」
「……それならまぁいいけど」
「ありがとう! 頑張ってねルーカスさん! ローラとメリーさんも!」
というわけで、カカシを1体渡し、俺とローラ、メリーさんはギルドを出た。
「ルーカス殿! できれば、ギルド長の事も頼む!」
「ああ! 代わりにウチのエルフのこと、頼んだぜ、副ギルド長!」
そうして俺達は、金剛力士カカシに馬車をひかせてゾンビだらけの大通りを爆走する。
「る、ルーカスさん、前! 前!」
「突っ走る! っとぉりゃ!」
馬車をひく金剛力士カカシの立派な身体を足場に、シュナイダーが剣を振るう。馬車を掴もうとしていた女ゾンビの腕を斬り落とし、退けた。
「い、今のっ! 今の、服屋さんでしたよ!?」
「ははっ! ヤベェな、マジで感染するのか、このゾンビ騒動!」
「笑いごとじゃないですよ! あああ、あっちには肉屋さんも! カフェの店員さんも!」
見れば、ゾンビたちの中に見知った顔が何人も紛れていた。周りのゾンビと同じく、服を血に汚し、虚ろな顔で。
ギルドに避難した中に住人が少なかったのは、ゾンビたちに真っ先にやられてしまったから、かもしれない。普段からアンデッドを身近に置き、警戒する間もなく襲われた。そう考えるのが、一番しっくりくる。
「これじゃミルスさんも、もしかしたら……」
「いいや。ミルスは無事だ。きっとな」
進むにつれてゾンビの密度が増えてくる大通りを走りつつ、俺はそう思った。
理由は無い、が、あえて言うなら。こういう時、救出されるヒロイン役は、最悪主人公が助けに行くまでは無事だって相場が決まってるってなもんだからな!
目指すは、町長邸――丘の上にある、大豪邸。
きっとそこに、ミルスはいる。




