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007


 と、掲示板を見に行ったときだった。


「ルーカスさん!」

「お?」


 聞き覚えのある声。振り向くとそこにはローラが居た。


「なんだ、手間が省けたな。伝言の依頼を出すところだった」

「いやぁ、私もすっかり連絡方法を聞くのを忘れてました。あ、これ返しますね」


 そう言ってお金を渡した時に使った皮袋を俺に差し出すローラ。

 ……あー、もしかして全部使っちゃったのか。足りないのか。


「すまん、追加で渡せる金がすぐになくてな……作業できるところから始めてくれ」

「あ、いえいえ。大丈夫ですよ。もうできましたから」

「……ん?」


 気のせいだろうか。今、もうできたと聞こえたような。


「こちらがルーカスさん専用シュナイダーになります!」


 と、ローラは後ろに持っていた袋を広げ、中から猫のぬいぐるみを取り出した。


「おお! もうできたのか! ……って、あれからまだ1日しか経ってないぞ?」

「そりゃもう張り切っちゃいました」


 にっこりと笑うローラ。

 そして、シュナイダーをずいっと渡される。……受け取る。

 というかデカい。昨日クララちゃんが持っていたシュナイダーが猫サイズだとして、子供くらいの大きさはあるぞこれ。


「戦闘用ならこれくらいの大きさは欲しいですよね!」

「あ、うん。そうだね」


 ……これ、持ち歩くのか。俺が。いい歳したオッサンが。

 見下ろすと、シュナイダーと目があった。あっちはボタンだけど。


「武器は……これカギ爪装備してるのか」

「はい。シュナイダーは猫ですからね」


 ぬいぐるみのぼへっとした何もない手に皮のグローブがはめられており、そこから3本ずつ、両手合わせて6本の白く長く爪が生えていた。

 ってこれ、サーベルウルフの牙じゃないか? 結構高かった記憶があるぞ。


「……あー、その、材料費足りたのか?」

「あ、大丈夫です。いつかシュナイダーに着けようと思って昔作った、私特性のかぎ爪なんですよ。ちゃんと取れないように縫い付けてありますからご安心を」


 うん、そこの心配はしてない。


「シュナイダーが使うなら何の問題もないですよね?」

「ですよね? ってお前な……あー、その、なんだ。手間賃……いくら払うべきかな」


 俺はぽりぽりと頭をかいた。


「あ、手間賃はいらないです。大きいシュナイダーを作れただけで私は満足なので」

「そういうわけにはいかないだろ、仕事には対価を払うべきだ。といっても、今手持ちがないんだけどな。これから稼いでくるからまってて――」

「――なら、シュナイダーがモンスターと戦ってるところを見せてください!」


 俺の言葉をさえぎって、ローラはきらきらした瞳でそう言った。


「…………うん? それってつまり」

「あ、ゴブリン退治がありますよ。丁度いいじゃないですかコレ行きましょう」

「えっ、あ、おい」

「さ、行きますよルーカスさん! シュナイダーの初陣ですっ!」


 まじかよ、モンスターだぞ? そこは野良犬とかから初めて慣らしていくべきだろ……

 そう思いつつ、ローラがさっさとギルドから出ていってしまったので俺は慌てて追いかけた。

 後ろから「ありゃ女の尻に敷かれるタイプだ」とかいう笑い声が聞こえた。そんな相手がいてくれたら別に敷かれてもいい気がするんだけどな。いないよりはマシだ。


「遅いですよルーカスさん!」

「いきなり飛び出してくから置いてかれただけだよ。……はぁー、え、マジでゴブリンにするの?」

「シュナイダーの初陣なら、ドラゴンでもいいくらいです」

「アホか、死ぬわ」


 念のため道具屋に寄って色々な装備を買い揃えてから、俺達は町の外へ向かった。



  *


 モンスターというのは、体内に魔石がある生物のことを言う。

 先日俺が死にかけた相手、大イノシシとかは魔石の無いただの動物だ。


 で、モンスターと動物にどういう違いがあるかというと……モンスターは魔法を使う。

 魔法という武器を持つ、それがモンスターだ。


 たとえるなら、野生の熊が出たら脅威だが、そいつが銃で武装していたらもっと脅威。

 そんな感じでモンスターは怖い。舐めてかかってはいけない相手なのだ。


 ゴブリンは緑色の小人だ。背丈は子供くらいで成体らしい。

 こいつが使う魔法はピンポン玉くらいの火の玉を投げつけてきて「あちっ!」ってなるくらいだと聞いている。

 他にも棒や剣といった武器を使ってきたりするくらいの知能がある、厄介な相手だ。



 そんな相手が今、俺とローラの足元に3匹。ぎゃいのぎゃいの騒いでいた。



「あ、あぶねぇ……いやぁ木登りしたのなんて何年ぶりだろ」

「すみません、シュナイダーの初陣だって、つい興奮しちゃって……」


 事の顛末としては、森に入ってゴブリンをあっさり見つけたローラが、シュナイダーを抱えて突撃していったのだ。

 で、当然見つかったので慌てて逃げて、仲良く木に登ったところ。

 幸い、ゴブリンは猿みたいな奴だが木には登って来ないらしい。


「……せめて俺がシュナイダーに糸付けるまで待っててほしかったな? いや、俺のスキルのこと話してなかったのもアレだけどさ」

「す、すみません……」


 木の上で、俺はローラから改めてシュナイダーを受け取った。

 糸で俺の指とシュナイダーの首をつなげて、【人形使い】のスキルを使おうと念じる。


「動け……よし」


 木の枝の上でシュナイダーが思い通りに動きそうだということを確認する。


「それじゃ早速」


 俺は、シュナイダーをゴブリンのど真ん中に放り投げた。

 くるくると回転し、ズサッとカッコ良く着地――できたらよかったんだが、そんなことしたら糸が絡まる。普通に落とした。

 ゴブリンは上から落ちてきた子供サイズの猫のぬいぐるみを見て、警戒して取り囲む。


 しゅばっ!


 勢いよく立ち上がるシュナイダー。そして、ぶぉんぶぉんと手を振り回す。

 手にはカギ爪。それも、サーベルウルフというゴブリンよりも上位のモンスターの牙だ。

 ちゃんと使い物になるのか? とも思っていたのだが、これが案外凶悪だった。


「グギャアアア!」

「ギギギッ!? アギーッ!」


 シュナイダー無双。そんな言葉が頭をよぎる。

 かぎ爪は、2匹のゴブリンののど元をさくっと切り裂き、赤い血を噴出させた。


「ちゃんと鍛冶屋で研いでもらったので、そこらのナイフよりよっぽど斬れますよ」

「マジかよ……いや、斬れるのは見りゃ分かるけどさ。とう!」


 倒したのは2匹。残りの1匹が棒を突き出して反撃してきたので俺は糸をひっぱりシュナイダーを持ち上げて回避させた。


「シュナイダージャンプ! カッコいいです!」

「いや釣り上げてるだけだからね」


 ワイヤーアクションの如く飛翔し、再び着地するシュナイダー。

 そして改めてゴブリンに向かって爪を突き立て、突進する。

 ゴブリンはとっさに手に火の玉を出すが――遅い!


「グギガ……ッ!」


 おう……スプラッタ。顔面にシュナイダーの爪が深々と突き刺さった。

 ずぼっと引き抜き、腕をふって血を払う。

 というかゴブリンって肌は緑色なのに血は赤いんだな。不思議。


「シュナイダー……強い! さすがシュナイダーですね! ねっルーカスさん!」

「いや、動かしてるの俺だからね。まぁシュナイダーが強いってのは認めるけど。


 実際、思っていた以上にシュナイダーは武器になりそうだ。

 今まで討伐依頼を避けていた俺だが、これならやっていけるかもしれない。


「……というか、これ本当に銀貨3枚で足りたのか?」

「……実は前々からコツコツ作ってた大型シュナイダーも使ってまして。その、総額だと銀貨5枚くらい……かな? って」


 下手な剣より高いじゃねーか。というか前から作ってたのか、道理で仕事が速いと思った。


「……分割でいいか?」

「え、払ってくれるんですか?」

「当たり前だ! ケチくさいことは言わん!」


 分割がケチくさくないかということはさておいておく。手持ちがないんだから仕方ないだろう。


 と、そういえば視界をシュナイダーの方に移せるのを忘れていた。

 今はこう、ロボットを遠隔操作して戦ってた感じだな。ちょっと試しておこう。

 俺は両目を閉じる。


 ……おお、視界をシュナイダーの方に移せばFPSみたいな感じになるな。

 次はこれでやってみてもいいかもしれない。


「……! る、ルーカスさん、あれ見てください……!」

「ん? なんだ?」


 小声で、緊張した声を上げるローラ。俺は目を開けてローラの指さす方を見る。

 そこには、オークが見えた。ふんすふんすと鼻を鳴らし、まるでエサを探しているような――こっちに向かってきているような。


 ……あれ、もしかしてゴブリンの血の匂いを嗅ぎつけてませんかね? ヤバくない?





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