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「パーティーは不参加でもドレス選びくらいは付き合ってよね」


 ミルスがドレスを買うということで、俺達は服屋へやってきた。

 他の人の意見も聞きたいということで、同居人一同同行で。


「ううう……マネキン……マネキンがいないの……ゾンビなの……っ」

「大丈夫かドロシー。顔色が悪いぞ」


 そして入り口、入る前からいきなり躓いた。


 ドロシーにとって服屋はトラウマになっているようだ。

 カカシやマネキンがゾンビなのはデスパドーレ限定なので帰ればすぐ治りそうなトラウマではあるが。あ、でもまたデスパドーレに来たときに発症するか。


「……もしまたミルスがデスパドーレに呼ばれたら、ドロシーだけ留守番かな」

「……ッ!」


 俺がぽつりとつぶやいたのが聞こえたのか、ドロシーは顔色が悪いまま気合いで立ち上がった。


「だ、大丈夫よルーカスさん! 私だってミルスのドレス選び、手伝うんだから!」

「その意気ですドロシー! じゃ、そういうわけでミルスさん、入りましょうか」

「だねー」


 ……まぁ、大丈夫だそうなのでいいということにする。



「いらっしゃいませー」


 服屋に入ると笑顔の店員さんが出迎えてくれた。マネキンの関節が気になっていたドロシーにサービスでマネキンゾンビ生着替えを見せてくれた店員さんだ。

 思わずひくりと頬がつるドロシー。だが、今日の主役はミルスだ。お前じゃないから安心しとけ。


「ワグバード町長主催のパーティーに呼ばれてて、ドレスが欲しいんだけども」

「ああ、技術顧問のミルス様ですね! お話は伺っております、お代もいただいていますので、どうぞお好きなドレスをお選びください」

「え、そうなの?」

「はい、町長は太っ腹なお方ですから――骨だからお腹ないですけど!」


 きっと生前はたっぷり出てたに違いないさ。

 すっかり慣れたデスパドーレジョークに笑顔になりつつ、ドレスのあるコーナーへ向かう俺達。


 そういえば、何気に前世を通してこういう女性の買い物に付き合うのって初めてだ。緊張してきたぞ?

 ……なんか煌びやかなドレスが吊るされている中に俺みたいなオッサンが居ると、場違い感半端なくないか? これ大丈夫? 通報されない? へんな料金とか発生しない?


「あー、なんかルーカスさん見てたら落ち着いてきた」

「お、おう? 良くわからんがお役にたてて何よりだ」

「実家のような安心感」

「俺は人だぞ?」


 なんか知らないうちにドロシーがトラウマを乗り越えた模様。俺もしっかりせねば。

 ……

 うん、しっかりしたところで特にすることが無くて手持ち無沙汰だな!


「ああ、町長からはお連れさんの分の代金も頂いていますが」

「んー、でも連れはパーティー行かないんだよねー」

「試着だけでもいかがです?」

「そうだね、試着だけでもいいってんなら。……いいよね? ローラ、ドロシー、メリーさん?」


 パーティーにはいかないんだからそれくらい付き合ってよー、という隠された言葉の圧力に、3人は頷いた。


「じゃあそういうことで」

「かしこまりました。ささ、お嬢様方! ウチのドレスはどれも自信作ばかりですよ! きっと気に入るドレスがございますとも」

「しかもいまなら欲しかったら『パーティーに行く』って言うだけでなんと無料だってさー」

「無料……ここのドレスが……!」

「タダならカカシに着せても……!?」


 そして無料の言葉に揺れるローラとドロシー。

 まさかミルス、最初からこれを狙って……!? あり得る、だってミルスだもん!


 ともあれ女性陣がドレスの試着に引っ張っていかれたので、俺は一人ぽつんと残されることになった。……うん、どっかいい待機場所ないですかね店員さん? あ、メリーさんの糸が届く範囲で……


  *


 待つこと数分。俺が店員さんが入れてくれたお茶をそそくさと飲み終えたところで、ミルスたちは試着室(という名の別室)から出てきた。


「どうよルーカスさん、これは」


 ミルスはシックな紺色のチャイナドレスみたいな、身体の線が良く出るシンプルなドレスを着て現れた。


「なんかこう、ドレスっていうとふりふりのヒラヒラがついてるようなイメージがあったんだが」

「そんな子供じゃないんだからね、アタシ」


 言われてみればミルスもさんじゅ……げふん。ドワーフ故に一番若く見えるが、俺の次に年上なのである。むしろ歳相応の落ち着きのあるドレスと言えよう、子供サイズだが。


「似合ってるよ」

「そぉ? ならよかった。『マセた格好してるんじゃねぇ!』とか言われるかと思ったよ」

「ンなこと言わねぇよ。ミルスは立派なレディなんだから」


 俺達の中で一番頼りがいのある、それこそ俺よりも大人らしい所があるんだからな。


「……それ口説いてるようにも聞こえるよ?」

「おっとすまねぇ。気を悪くしないでくれよ?」

「あはは」


 と、次に試着室から出てきたのはローラだった。


「ど、どどど、どうですか!」


 こちらはミルスと対照的に、ピンクでふりふりのヒラヒラでふわっふわなドレスであった。頭にはこれまたフリルなヘッドドレス。これはこれで可愛いんだが、なんかその。フリルの数が防御力だとしたら、グレートボアの突撃も防げるに違いない。


「この布の量、すごい贅沢な感じがしますよね!」

「あー、なんていうか、防御力高そうだな?」

「……へ? ぼ、防御力ですか?」

「俺の意見だが、あんまり似合ってないな。これはこれで可愛いけど、ローラにはもうちょいシンプルな方が似合うと思う。んー、あんな感じのとか」


 と、俺は目の端に見つけたもっとフリルの少ない、ついでにシュナイダーみたいなグレーのドレスを指差した。


「……店員さん! 次はあれを!」

「はい、試着ですのでどんどん変えましょう、どんどん」


 俺の指定したドレスを持ってローラは再び試着室へ戻っていった。


「いかにもなドレスだったけど、ルーカスさんのお気には召さなかったようだね?」

「あれはちょっと無理してただろ」

「まー、うん。お人形さんみたいだったかな? ゴシックっていうの?」

「……つか、ミルスは他の試さなくていいのか?」

「んー、アタシはこれにするよ。ルーカスさんが似合ってるって言ってくれたし」


 ああ、ミルスが居るだけで一人で待ってる時よりよほど気が楽だ。

 と、次はドロシーが出てきた。こちらはグリーンのふわりとしたドレスである。……ただ胸元が開きすぎな気もする。谷間。谷間である。


「どうかしら?」

「お姫様みたいだな。似合ってんじゃねぇか。……まぁ、多少目に毒なところあるからそこだけどうにかして欲しいが」

「ほう。私のおっぱいに見とれたか」

「そんだけ開いてたら見ちまうわ! なんかこう、当て布とかないのか?」

「あるけど、まぁルーカスさんを魅了できたみたいだからいいかなって」


 何を言ってるんだコイツは。魅了なんてされてねぇし!


「あはは、それじゃ他のドレスも着てくるね」

「おう。いってら」


 トラウマはすっかり払拭できたようでなによりだよ。と、俺は再び試着室へ入るドロシーを見送った。

 そして入れ替わりでローラが出てくる。先程俺が指定したドレスを身に纏って。


「……あ、あの、ルーカスさん。どうでしょうか?」

「ほう。いいじゃねぇか。さっきのより似合ってる。やっぱシンプルな方が好きだなぁ」

「! そうですか! ……えへへ、これ貰えるならパーティーに参加してもいいかも……シュナイダー色だし……」


 そう言ってローラはくるりと一回転した……


「まてローラ。ダメだ。それを着てパーティーに行くのは絶対だめだ」

「へ? なんでですか?」

「……背中めっちゃ透けてる」


 そう、このドレス、背中が思いっきり透けていたのだ。遠目で見たらわかんなかったけどこういうドレスだったのかこれ。


「~~ッ! ……き、着替えてきます」

「お、おう」


 ローラは顔を真っ赤にして、俺に正面を向けたまま試着室へ引っ込んでいった。


「そこはパーティーにルーカスさんが同行して、体で隠してあげるとこじゃん?」

「どんだけ密着させる気だよオイ」


 まぁ、そんなこんなでその後も色々試着する2人と、途中からはミルスもまた着替えに参加し、さらには俺までタキシードやら燕尾服を着せられるという事になった。


 結局、ドレスはミルスだけが購入したのだが――なんかもう、ホント、疲れた。疲れた! 大事なことなので2回言ったぞオラァ!



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