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「そういえば今度ワグバード町長主催でパーティーやるんだって」


 と、晩御飯の席でミルスが言った。


「パーティ?」

「ほら、そろそろアタシも任期の3カ月終わるでしょ? だからその前に『技術顧問ありがとうパーティー』を開いてくれるらしいよ。ほらこれ招待状」

「へー、いいんじゃないか」


 招待状を見ると、二つ折りにされた厚紙に、綺麗な文字で『技術顧問ありがとうパーティー』を開催する旨が書かれていた。ほー、来週かぁ。


 そのパーティー名から、部屋の中で紙の鎖や花を飾りつけた、小学生のお誕生日会みたいなパーティーを思い浮かべる俺。


「ルーカスさんも来る?」

「いいのか?」

「うん、エスコートが居た方がアタシも格好がつくし」

「エスコートって大げさだな。菓子折りでも持ってった方がいいか?」

「うーん、いらないと思うよ。立食パーティーだし」


 ほ、ほう。立食パーティー。山盛りのカラアゲとか出るのかな?


「ケータリング頼んで、あの町長邸のエントランスホールでやるんだって。スーツ・ドレス着用のフォーマルなパーティーだよ」

「……」


 ……思ってたのとだいぶ違った! エスコート全然大げさじゃなかった!

 そりゃそうだよな。町長主催って時点でお察しだよ!


「な、なるほど。そりゃ凄いな」

「で、ルーカスさんも来てくれると嬉しいなって。スーツ無いなら買ってくるけど?」

「……いやいい。俺は留守番してるよ」


 そんな堅苦しそうなパーティー、食べ物の味も分からなくなりそうだ。

 庶民な俺はクールに辞退するぜ。


「お土産よろしくねミルス」

「えー、ドロシーも不参加? ローラは?」

「私も遠慮しておきます」

「メリーさんは!」

「……ご主人様のおそばから離れられないので……」


 がく、と崩れ落ちるミルス。


「うー、しょうがない、一人で行ってくるよ」

「元々ミルスに感謝するためのパーティーだしなぁ」

「むむ、ルーカスさん護衛なのに」

「町長邸は丘の上だが、この町ん中で危険ってこともないだろ」


 この町は治安もいい。それに、迎えの馬車とかも来るらしい。骨馬の。


「まー、しょーがないか。ルーカスさんこういうの苦手そうだもんね」


 やれやれ、と肩をすくめるミルス。理解してくれて何よりだ。


「しかし、折角の技術顧問のパーティーなのに、そんなにキッチリやるんじゃ鍛冶師の連中も参加できないんじゃないか?」

「あー、鍛冶師連中でも親方クラスしか参加しないかな。それにたぶんこれの前後あたりでもっと庶民的に飲み会あるよ。そっちならルーカスさんも気軽に来られるんじゃない?」

「お、それじゃあそっちには参加させてもらうわ」

「というわけだから、そっちにはローラも参加でいーい?」

「分かりました。同行させてもらいますね。ドロシーは?」

「んー、じゃあ私もそっちなら参加するよ」

「じゃ、メリーさんも参加でいいね。ルーカスさん来るし」

「……私、飲み食いはできませんが、それでもいいなら……」


 おっけー、とにこやかに頷くミルス。

 ……ん? もしやこれ、あれか。最初に格式高いパーティーを断らせたことで次の飲み会の誘いを断りにくくするという、ドアインザフェイスとかいう手口。

 うーん、恐るべしミルス交渉術である。まぁいいか、飲み会参加くらい。


「まー、鍛冶師の連中は気の良い人ばっかりだからねー。みんな勉強熱心だし、こっちも教えるのが楽だったよ」

「へー。……ミルスはこの2か月ちょい、きっちり先生やってたんだなぁ」

「うん、そうだよルーカスさん。アタシ、女教師だったの。……どうよ、いろっぽい?」


 うふーん、とポーズをとるミルス。

 だが合法ロリのミルスである。女教師らしきいろっぽさはかけらも無かった。


「……いろっぽさはねぇけど、魅力的だとは思うぜ!」

「あはは。まぁ実際モテモテだったよ、最初は」

「ほうモテモテ……え、最初だけ?」

「最初だけだねぇ」


 鍛冶師達の中にはドワーフもいて、ミルスはきちんと成人女性として扱われたそうだ。

 そして、何気に鍛冶師には男が多い。そんな中、技術顧問として招聘(しょうへい)される程に腕の立つ女性の鍛冶師――しかも独身――とくれば、否応なくモテモテである。


「でもね、ある日を境に変わっちゃったの……」


 それは、3日目くらいのことだった。

 デスパドーレの鍛冶はスケルトンが手伝ってくれる(ゾンビは熱で色々問題があるので不採用らしい)のだが、ミルスはこのスケルトンに興味を持ってしまった。

 スケルトンはどうして動いているのか。どこまで命令を聞けるのか。どこまで破損してても直るのか、動くのか、活動限界は? パーツを分解(バラ)しても大丈夫? 他のと交換したらどうなる?

 という、ミルスのいつもの癖、探究心の虫が騒ぎだしてしまったのだ。


 気が付けば、ミルスは自身に貸し与えられていた3体のスケルトンをバラバラにしていた。


「3日目でって、もうちょい我慢できなかったのか?」

「だって! 目の前で動いてるんだもん! 気になるでしょ、むしろよく3日も堪えたよアタシ!」


 この町の鍛冶師にとってスケルトンは仕事道具であり、同時に仕事仲間であり、さらには家族でもあった。

 そんな彼らスケルトンを、きらきらした瞳で分解していくミルス。容赦なくろっ骨をもぎ取り、大腿骨を入れ替え、頭を挿げ替えるミルス。終いには3体を合体させたりしちゃったミルス。

 そりゃ引かれる。ドン引きだ。


「……ちゃんと直したんだよ? マーカーで印つけておいて、どのスケルトンのどのパーツかってのもきちんとメモしてたから。それにさすがに骨を折ったりするような実験はしなかったし」

「お、おう……」

「でもおかげでスケルトンの本体は頭がい骨の内部にあることが分かってね――」

「この脱線長くなりそうだから先に本線終わらせとこうか。モテの」

「――あ、うん」


 まぁそんなわけでミルスは蝶よ花よのモテモテ状態から恐怖のマッドサイエンティストの如き扱いにクラスチェンジされ、今に至るわけだと。


「大事な家族をバラバラにされて三体合体した相手なら、そらそうなるわ」

「ちゃんとスケルトンで実験してもいいかって許可は貰ったんだよ。……まー、技術力的には尊敬されてるんだけどね?」


 実際、焼き入れとか鍛え方とか温度管理とか、そういう技術的なところでミルスはこの町のだれよりも上だった。「スケルトン頼りになりすぎていて、誰も自分の手でやってなかったからだと思うよ」とのことで。


「ウチじゃ温度調べるためにかまどに手を突っ込んだりするんだけどさ。『かまどに手を入れたら、手だけスケルトンになっちまうよ!』とか言ってたからねー。突っ込ませたけど」

「ははは。ミルスらしいな」

「まぁそんなわけ。――じゃ、スケルトンの話に戻っていいかな?」

「あ、ハイ」


 いつの間にか入れ替わった本線と複線に、横を見るとこちらもいつの間にか俺一人しかいなかった。ローラ、ドロシー、それにメリーさんまで……いつのまに消えたんだ。俺だけ残して。


 ……そんなわけで、俺はその日たっぷりミルスのスケルトン実験結果について聞かされることになった。

 まぁ、パーティーに同行しない代わりにってんなら……仕方ない? あれ、これやっぱりドアインザフェイスされてませんかねぇ?



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