026
翌日、いよいよミルスが鍛冶の技術顧問として働く日がやってきた。
俺達もこの町で冒険者活動ができるか試してみようじゃないか。
尚、俺達の滞在費もある程度出してくれるらしい。少額ではあったが、物価が安いこの町では十分な額だった。そんなわけで、最悪働かなくても生きていけるわけだが――
「ちょっと引きこもってカカシ作るわ……」
「お、おう」
――色々ショックなことがあったドロシーは、この引きこもる道を選んだ。
さっき様子を見たら「人は自然の摂理の中で生きるべきなんだわ……死者が動くなんて冒涜だわ……」とか、すごくエルフっぽいこと言ってカカシの頭を彫っていたが、まぁ大丈夫だろう。
ドロシーのことだし、カカシが1体でも出来上がるころには落ち着くさ。
そんなわけで、昨日借りた馬車でミルスを鍛冶場へ送り届けた後、俺とローラ、ついでにメリーさんは冒険者ギルドまでやってきた。
「こんちわーっす」
「はーい。あ、先日の冒険者さん。ようこそデスパドーレ冒険者ギルドへ! お仕事ですか? それともご依頼? ……ま、まさかもう帰るとか?!」
「ああお仕事お仕事。ヒマなんで何かいい仕事は無いかなってね」
「ああよかった! この町のおもてなしに落ち度でもあったかと思いましたよ」
そう言ってほっと息を吐くギルド員さん。
「随分歓迎してくれてるんですね?」
「そりゃもう、こんな町ですからね。新しい人は大歓迎なんです。特にアンデッドでも偏見を持たないで怖がらずに接してくれる人は」
なるほど。確かにアンデッドというと普通におどろおどろしいイメージだもんな。
この町の無駄な明るさは、そういうイメージを払拭するための努力なのか。
「おっと、ご依頼でしたね。――っと、その前に、対アンデッド講習を受けると言う話でしたっけ?」
「おっと、そうだそうだ。忘れるところだった」
「いやぁ、そこ忘れられちゃ困りますよ。なにせデスパドーレとアンデッドは――」
「――切っても離せない仲だからな、アンデッドなだけに。だろ?」
「その通り! 覚えててくれましたか。嬉しいです!」
ぐっと握手する俺とギルド員さん。
「さて、それでは丁度講師の方もいらっしゃいますし、今からでもどうですか?」
「お、そりゃちょうどいい。ローラ、それでいいか?」
「はい。すぐできるならこちらとしても都合がいいですね」
というわけで、俺達は対アンデッド講習を受けることとなった。
……講習を行う訓練場に向かう途中で依頼掲示板をちらりと見たのだが、やはり討伐依頼、それもアンデッドのものが多い。『はぐれスケルトンの討伐』とかいうのもあるようだった。
「カッカッカ! よくきたのぅ!」
そして、講師はスケルトンであった。
「……へ?」
「なんじゃ、説明しとらんかったのか?」
「はい! その方が驚くかなって」
「カッカッカ! それなら大成功じゃの! 口がぽかーんと開いとるよ、ワシの目ん玉のように!」
当然スケルトンなので目玉は入っていない。
「ええと、講師の方で?」
「うむ。ワシはもう引退した冒険者でな、こうして対アンデッド講習の講師をしとる」
引退って冒険者どころか人生を引退してやいないかこの骨老人。
「普段は土の中で寝てるんですが、講習がある時は掘り起こして働いてもらうんですよ」
「まったく、老骨をもっと労われというにな! 骨なだけに!」
「土の中で寝てるのは趣味じゃないですか」
趣味で寝てるのか……しかも「この人、ほっといたら何年も寝てますからね」とのことで、なんというか、その、なんだろう……何?
よくよく考えたら町長がアンデッドなんだし、他にもアンデッドな人は居るだろうとは思っていたが……なんだろう。この釈然としない感じ。
「そういえば、依頼に『はぐれスケルトンの討伐』とかあったけど……じ、爺さん? のようなスケルトンなのか? いわゆる盗賊討伐的な扱い?」
「ああいやいや。ワシはこの町の中で死んだからこうなっとるけどな、町の外で死んだヤツとかが自我のないスケルトンになる。『はぐれスケルトンの討伐』は基本的にそういう仕事じゃの」
「自我のあるスケルトンの盗賊は、普通に盗賊扱いになりますね。たまに自我のないスケルトンに擬態してるケースもありますが」
どうやら、自我の有無は町の中で死ぬか外で死ぬかという違いがあるらしい。
外から死体を持ち込んでも、自我のないゾンビやスケルトン――畑を耕していたような労働力――になるのが関の山。そして外で死んで放置されてアンデッドになった場合、アンデッドの本能剥き出しの『はぐれスケルトン』や『はぐれゾンビ』ということになるんだと。はぐれ共は討伐対象ではあるが、一回討伐して死体を持ちかえると労働力にできるとか。むしろこれで報酬が払えるんだそうだ。
ちなみにこの町の区分では――
自我が無く、アンデッドの本能のままに彷徨うのを下級アンデッド。
自我は無いが、命令を忠実に聞き労働力となる中級アンデッド。
そして自我があり、人と同じように話せる上級アンデッド。
――といった分け方になる。
この区分でいえば講師の爺さんや町長は上級アンデッドで、今この町の農場等で多く働いている自我のないスケルトン達は中級アンデッドにあたるわけだ。(多くの中級アンデッドは大昔にあった戦争で死んだ兵士を再利用しているとかなんとか)
「だから死にそうになっても気合いでこの町の中まで帰ってくるんじゃよ? そうすればワシのように骨太な第二の人生を送れるからの! ワシ、骨しかないけどのう!」
「お、おう……」
それ死んでるじゃねーか、あ、いや、生き返って……んのかな? うーん分からん。
ともあれ、俺達は対アンデッド講習を受けた。
現役のアンデッド……骨の爺さんは、自らの身体を教本に「ここじゃ、骨盤を割るとスケルトンは歩けなくなる。とはいえ、アンデッドはある程度再生するからくっつけて置いたりなんかはしたらあかんぞ――そんなに股間をマジマジみられると恥ずかしいのう!」とかノリノリで色々教えてくれた。
まぁ、基本的には足を封じ、頭を破壊すればいいらしい。
「武器は剣よりもハンマーの方がいいじゃろう。骨を折るのに剣を潰してしまっては――骨折り損になるでな!」
今更ながら言い回しが日本語に聞こえるんだけど、ここ本当に異世界なの? まぁどうでもいいか、別に生きるのに支障はないし。言語が本当に日本語だとしてもどうせ転生者が広めたとかに違いない。
「うーん、ハンマーか。今まで使ったことないんだよな……ミルスに武器の交換を頼まないとな」
「シュナイダーのパンチじゃ骨は割れそうにないですもんね」
「砂袋が入ってる方でも厳しいだろうな」
剣よりハンマーの方がいいとなると、新しく買う必要があるな。
帰りにミルスを迎えに行ったときに、ついでに頼んでみるか。シュナイダー用のハンマーとかも。
……軽いから逆にハンマーに振り回されそうだなぁ、シュナイダー。まぁ、それはそれで俺の腕の見せ所だろうか?