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025

 さて、というわけで今日一日は旅の疲れを癒やしつつデスパドーレを観光だ。


「というか、昨日も普通に風呂入れたし飯もあったけど、ミルスが用意してくれてたのか?」

「ああ、スケスケ清掃サービスさんがそこらへん用意しておいてくれたみたい。今日のはアタシが作るよ」

「凄いなスケルトン」


 たった20分で色々やり過ぎだろう。まさに数は力ということか。……元コックのスケルトンとかが料理したりしてるんだろうか? スケルトンなら料理に髪の毛が入ったりする心配もあるまい、なんてな。


「さて、そんじゃ観光と行きますか。どっからいくか……」

「一応、アタシが鍛冶を教える工房を確認しときたいね」

「私はカカシを見たいから畑に!」

「んー、服とかどういうのが売ってるかみたいです。大通りにお店があったと思います」

「人形……売ってたりしますか?」


 というわけで女性陣の意見を元に、まずは工房へ行き、それから外へ行って畑にあるカカシを見学。その後に大通りへ行って服や人形等のウィンドウショッピングという流れが決定した。



 徒歩で移動するのもなんなので、馬車を借りることにした。

 この町では骨の馬に馬車を引かせる他、普通のスケルトンによる人力車なんかもある。なので馬車というより骨車なのだが、まぁ呼び名は馬車だ。

 そして、レンタカーの如く馬車を貸してくれる専門の店もあった。


「3カ月レンタルでこのお値段……だいぶお安いな」


 まぁ使用範囲が町中とちょっと外に出るだけ、という制限はあったが、思っていたよりもだいぶ安い価格であった。

 ミルスが町長期待の鍛冶師のため値引きされている、というのもあったのだが「この町付近は道の整備が行き届いてて相当無茶な使い方しない限りはあんまりメンテいらないんですよ」とは貸し馬車屋の言だ。

 そして道が整備されている分、馬車の需要も多くて薄利多売でもやっていけるらしい。


「ちなみに町から離れたらどうなるんだ?」

「そのためのスケルトン達です。そっちに行かないようになってるんですよ。逆に付けない場合はほぼ買い取りと同等の保証金をお預かりすることになりますね。つまり――馬車も肉も、骨付きの方が美味しいってわけです!」


 うん、なんかこのノリ慣れたわ。


 俺がカカシを使って車引こうかとも思っていたのだが、そんなわけでスケルトンホース付きの馬車を借りた。屋敷には十分置くスペースもあるし、エサ代もかからないし、従順で言うことを良く聞いてくれる。見慣れれば可愛いもんだ、骨だけど。


「……馬ってこんな骨格してたんですね、っていう印象です」

「昨日も見ただろ?」

「昨日はこんな近くで見てませんでしたから」


 そう言いつつスケルトンホースをおっかなびっくり撫でるローラ。もう怖いのは大丈夫かな? まぁシュナイダーはいつでも貸してやるから気軽に言ってくれ。



 さて、それでは足も手に入れたことだし今度こそ観光に出発だ。俺が御者を務める。


 まずは鍛冶工房である。ミルスの職場となる鍛冶工房は、馬車で10分ほどの場所にあった。

 近くまで来ると、カーン、カーン、という鉄を叩く音が聞こえてくる。


「ほほう。なるほどねー」

「こっから見てなんか分かるのか?」

「あーうん。これは中々に教えがいがあるなって」


 工房を外から見てミルスは言った。俺達には良くわからなかったが、プロのミルスには何か気になるモノがあったらしい。

 鍛冶工房は道の確認が目的だったので、ミルスも「もういいよ」とのことで。俺達は次に行くことにした。



 町の少し外に出る。畑を見学するためだけに通行料を払うのもどうかなぁと思っていたのだが、門番さんが「お、スケルトンホースですか。なら畑までですね、タダでいいですよ」とのことで、無料で門の外まで出れた。

 なんかこの骨馬、通行証替わりにもなるらしい。便利すぎる。


 そうしてこの目の前に広がる広大な麦畑までやってきた。

 今の時期、ここでは麦を作っているらしい。


「ここはスケルトンが耕してたりしねぇんだな」

「そりゃ、作物が生ってるところを耕したりはしないわよ。せいぜい見回りでしょ。さぁーて、それじゃあ見せてもらいましょうか、この大規模農場、デスパドーレのカカシとやらを!」


 それもそうか。

 と、俺が納得しているそばでドロシーは早速カカシを探す。


「……あれ、カカシが、無い?」


 だが、見渡す限りの麦畑の中、ただの1体のカカシも見つけることはできなかった。

 いたのは、見回りのスケルトンくらいなもんだ。


「どういうことなの!?」

「いや、俺に聞かれても……って、さっき見回りって言ってたよな?」

「言ったけど……」

「それじゃね?」

「え?」


 固まるドロシー。

 そもそもカカシというのは、休まなければいけない人間の代わりに畑に立って鳥獣を追い払う存在だ。なら、人の代わりが山ほどある、つまりスケルトンが不眠不休でその仕事を担う事の出来るこのデスパドーレでは?


 そう。カカシが不要なのである。


「……なん……だと……?」


 馬車の上、脱力して膝から崩れ落ちるドロシー。

 無理もない。ドロシーの愛してやまないカカシ、それがこのデスパドーレではただのインテリアにしかならないというのだから。


「その、ドロシー。それなら逆にあのスケルトン達がカカシともいえませんか?」

「え……?」

「だって、あのスケルトン達、人の代わりに見回りして、鳥獣を追い払う――ってことは、つまりカカシじゃないですか? 骨を使ったカカシです。それに、動くならルーカスさんのカカシだって動くじゃないですか」

「……一理、ある……」


 ローラの一言にむむむ、と頭を抱えて考えるドロシー。


「……」


 見回りをするスケルトンを見ては、なんとも言葉にし辛い表情を浮かべる。

 ……


「やっぱりダメッ! スケルトンはカカシじゃなぁい!」


 ダメだったようだ。

 俺にはさっぱり基準が分からないが、カカシフェチなりのこだわりがあるのだろう……

 そっと、メリーさんがドロシーを抱きしめた。


「……なんなら、私がカカシになります……よ?」

「うっ、うっ、ありがとうメリーさん。そう言ってくれるのはメリーさんだけだよ……」


 そら他は生きてる人間だからな。カカシにはなれないだろ。

 メリーさんに慰められつつ傷心のドロシーを乗せたまま、俺達は別の門から町に戻った。



 さて、気を取り直して大通りをウィンドウショッピングだ。

 この町は外貨はなくとも生活に余裕があるおかげか、芸術にも造詣が深い。『生と死』という人類にとって究極のテーマのひとつが身近にあるのもその一因だろうか。


 というわけで、店頭に飾られたマネキンが着る服一つとってもなかなかのハイレベルであった。


「おお……すごく丁寧な縫製です」

「分かるのか、ローラ」

「はい。ただ、縫い目はキレイで均一なんですが、デザインに合ってないというか、着心地が考えられていないというか。ここのところはもっと縫い目に遊びがあった方が着心地に格段に差が出るんですが、どれも全く同じような縫い目になってまして」

「うん? つまりどういうことだ」

「針子さんが流れ作業的にやってる感じ、というと分かるでしょうか。ああ、私が縫い直したい……私ならもっと良く仕上げられるのにっ、ってなっちゃいますね」


 俺にはさっぱりわからんが、そういうものらしい。


「しかしこのマネキン、人間そっくりよね。参考になるかも!」

「お、生き返ったかドロシー」

「ふっ、そもそも死んでないわ。いくらデスパドーレと言えどね!」


 そのノリ、うつったのか?


「これ、組み立て式だと思うけど。メリーさんはどう思う? そうじゃないと着れないでしょこのポーズ」

「……マネキンが動けば着れるのでは?」

「メリーさんみたく関節付きってことね、あり得るわ。服の上からじゃよくわかんないけど、参考になるかしら」


 じー、とマネキンを観察するドロシーとメリーさん。ウィンドウショッピングってこういうのだったっけかなぁ。まぁいいか。

 と、その時店員さんが笑顔を浮かべてやってきた。


「失礼しますお客様。よろしければマネキンの服を換えますので、ご覧になりますか?」

「え? あ、はい!」


 ドロシーの話が聞こえていたのだろう、店員さんの提案にドロシーは二つ返事で飛びついた。

 そして、服の着替えが始まったのだが――


「はい、これに着替えて」

「……!?」


 そう、マネキンが動いて、店員さんの渡した服に着替えたのだ。しかもその体にはメリーさんのような球体関節など一切ない、純然たる肉体。下着までは脱がなかったが、これ、もしかして。


「はい! ウチのマネキンは皆フレッシュなゾンビたちでございますよ! 防腐防臭加工しているので、服にニオイ付いたりなんてことも有りません、ご安心を!」


 まさかのマネキンゾンビであった。身体が少しテカッていてマネキンっぽさをだしていたのだが、それが防臭加工によるものらしい。まぁ、実際服は人が着るわけで、なら人型の方がいいわけで、究極的にこれ以上ないマネキンなわけなのだが――

 ――当然、カカシ作りの参考になどなりようもない。ドロシーはまたしても膝から崩れ落ちた。


「この町は……私に優しくない……ッ!」


 なんかもう、ドロシーにとっては散々であったが、まぁ、そこそこ楽しく観光したよ?

 ご飯も美味かったし。




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