023
町長と挨拶のため、ギルドから大通りを通って町長宅へ向かう。
尚、乗り物は馬車――ではあるが、車を引くのは白骨の馬、スケルトンホースだ。
歩くたびにカッチカッチと石畳と骨……蹄鉄? が鳴っている。
「スケルトンホース、外だと怖がられるので町中でしか使っていないんですが、エサ代もかからないし便利なんですよ。ま、歩くくらいの速度しか出ませんけど。あんまり乱暴にするとバラバラになっちゃいますからね、骨しかないもんで!」
とはギルド員さんの言である。(ちなみに御者は普通のおじさんだった)
のんびりカッチカッチと移動して町長宅へ着く。
丘の頂点に堂々と見える3階建ての白い邸宅。ここが町長の住居らしい。庭も広く、デスパドーレの町を一望できる一等地だった。
「ルーカスさんの家とは天と地の差よね!」
「ほっとけ! ……つーか、食物作っても売れないって話じゃなかったっけ? どう思うミルス?」
「んー? 安いけど、その分量で稼いでる感じ? アンデッドだっていってたし他に使い道がないとかかもね」
薄利多売のスタイルで稼いで、その分を家を豪華にする仕事やら何やらで町に還元している、という感じか。凄いループだ、そんなシステムがあっては俺の家が太刀打ちできないのも仕方がない。
門番の兵士(例によってスケルトンも数対控えているが、人間の)に話しかけると、話が通っているのもあってか特に何のチェックもなく中に通してくれた。
……広い庭には、生け垣の迷路とか石像とか噴水まである。すげぇ。
「これは、かなりの豪邸ですね」
「そうだなぁ」
庭に圧倒されつつも玄関に着く。今回俺達は護衛&弟子という扱いなのでミルスが先頭だ。
……と、ドアを開けようとする前にスケルトンがドアを開けてくれた。なにこの手動の自動ドア――
「「「「ようこそおいで下さいました」」」」
――そして中美人なメイドさんが左右で列を作ってお出迎え……だと……?
ダンスパーティーでも開けそうな広々としたエントランスで、一級品の美女たちが揃って頭を下げる光景は、なんとも圧巻であった。
正面のデカい階段から、黒く上質なローブに身を包んだ一人の男――の骸骨が上機嫌に肩で風を切るようにして降りてくる。
「よくぞまいった鍛冶師殿! 我がデスパドーレ町長、ワグバードである! ふははははは!」
町長のワグバード氏は白骨だった。
種族としては金持ち……もといリッチだそうな。元々は人間だったらしい。
それから応接室――ここにも色々と白い壺や甲冑等の装飾品がわんさとある――に通され、改めて挨拶を交わす。
といっても、俺達はあくまで付き添い。メインはミルスである。あ、メイドさんお茶どうも。美味いっすねこれ。あ、メリーさんは食べないんでいらないです。ハイ。
「というわけでな! 我が町の鍛冶技術の発展に期待しておる!」
「はい、3カ月の間、指導コミコミで頑張りますので」
「しかしミルス殿は我の姿を見ても驚かないとは、なかなかの胆力よ! この時点で期待通りといえよう!」
「あはは、鍛冶の技術についても期待に添えられればと」
「うむ! 発展には鍛冶は不可欠であるからな! 重ね重ね言うが、期待しておる!」
しかしワグバード氏、声がデカい。どうやって喋っているかは謎だが声がデカい。
いい加減耳が痛くなってきた……といったところで、話は終わったらしい。
「おっと、つい話し込んでしまったな! 鍛冶師殿は生身故、疲れると言うのを失念しておったわ! 申し訳ない!」
「あー、いえいえ」
「宿については心配なされるな! 弟子や護衛も滞在していくとの事だったからな、屋敷を一つ用意させてもらった!」
まぁ、3カ月の滞在ともなれば宿屋に部屋を用意するよりそちらの方が都合が良さそうだよな。……でも、ポンと屋敷を用意できるとかさすが町長。
俺達は旅の疲れを癒やすべく、早速その屋敷に向かった。
*
「えーっと、ここであってる、よね?」
そして町中にあるその屋敷の前までやってきた。
見送りの馬車が降ろしてくれた場所なので間違いなくここであるはずなのだが――
「なんというか、ルーカスさん家よりはましだけどボロいね」
「ドロシー。その言い方はひどいぞ」
歯に衣着せぬドロシーがぽつりと俺の心を抉る。
そう、その屋敷は凄く荒れていた。壁こそ無事なものの、窓や戸がボロボロで、軽く覗いた中身も埃が積もっている。
長年放置されていますと言わんばかりのオーラが溢れている、そんな屋敷だ。
「これは……掃除しないといけませんね」
「うん、ローラの言うとおりだね。まずは掃除道具を探すところからだねぇ」
と、ミルスが屋敷に入ろうとしたその時だった。
「もしもしすみません。鍛冶師ミルスさんのお屋敷はここで合っていますか?」
帽子をかぶり、マスクをつけた男が話しかけてきた。
屋敷に入ろうとするのを止め、首をかしげて男に向き合うミルス。
「ん? えーっと、たぶんあってると思うけど……どなた?」
「おお! それはよかった。では失礼して……おーいお前たち。仕事だぞー」
男が声をかけると、どこからともなくスケルトンが現れた。手には、清掃道具や大工道具まで持っている。
「すぐすみますので、20分ほどお待ちください」
「えーっと、あなたは?」
「おっとご挨拶がまだでしたね。ワタクシ、こういうものです」
と、懐から名刺を取り出しミルスに渡す。……名刺とか前世ぶりだな、と思いそれを覗き見ると、『スケスケ清掃サービス 主任:ダルトン・イスケ』と書かれていた。
要するに掃除代行ってことか。……色々進んでるなぁ、この町。
「お代は町長から頂いております。是非、ミルスさんにワタクシ共の働きっぷりをご覧いただければと言う話でして」
「ああそういうこと。粋な計らい、というのかな? これ」
この荒れた屋敷は町長が用意したもので合っていた。そして、実際にスケルトンを使った仕事がどんなものか、というところまで見せてもらえるようだ。
この町の仕事にアンデッドは切り離せない。当然、ミルスが鍛冶を教える現場でもアンデッドは働いているので、良い参考になるだろう。
「じゃあお任せします」
「では始めさせていただきます。ふふふ、超特急コースの仕事はちょっとしたものですよ、ご期待ください。では、はじめっ!」
開始の合図が出るや否や、スケルトンたちの清掃が始まった。
10人、20人、50人と、大量のスケルトンが屋敷中に散らばり、人海戦術で部屋を掃除していく。また、壊れた扉や割れた戸も手際よく交換してみせ――
――宣言していた20分後には、すっかり綺麗になった屋敷がそこにあったのである。
「……これは凄いなぁ」
「確かに、実際見せられると驚きが違いますね……逆に壮観でした。ちょっとスタンピード思い出しちゃいますねこれ」
「人海戦術……いや、骨海戦術? すごいわね、掃除中カタカタうるさかったけど」
「うん、これならアタシ達全員、快適に滞在できそうだねぇ」
「……(呆然としてただの人形のふりをする呪いの人形)」
俺達が揃って感心していると、清掃サービスの人はにやりと笑った。
「どうです! 真っ白な骨のように綺麗なったでしょう!」
そしてこのノリはやっぱりこの町共通のようだった。