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022



 そんなこんなでゾンビの厄介さを堪能しつつ、俺達はデスパドーレの町に到着した。

 門のすぐ外で馬車から降りる俺達。


 ドラヴール同様、巨大な壁に囲まれた町なのだが――その壁には、スケルトンの兵士がずらっと並んで外側を向いていた。ナニコレ、怖い。


「スケルトンは雨風に強いですからね。まぁ、筋肉無いので力は弱いですが……それでもこれだけ兵士が並んでいれば、外からアンデッドが来ても安心安全ってなもんですよ! では、良い滞在を!」


 と御者さんは言ってたけど、それは感覚がマヒしてる人間の意見だと思う。骸骨が並んでるのは普通に怖い。たまにケタケタ顎鳴らすのは心臓に悪いからやめてくれ。え? 歓迎して興奮してるんだって? 食らいつこうとかしてない? 本当?


 そんなわけでスケルトンたちには面食らったが、受付はちゃんと人間の兵士が対応してくれた。


「久しぶりのお客さんだ。ようこそ死者の都デスパドーレへ。歓迎するよ」

「なんか死んだ気になる紹介だな……死者の国って感じで」

「ああ、一つだけ忠告しておこう……ここから無事帰りたいのであれば、この町の食べ物は食べちゃぁいけないよ――美味しすぎて帰りたくなくなるからね!」


 バチコーン、とおちゃめにウィンクする兵士さん。

 一瞬ヨモツヘグイ(黄泉の国の食べ物を食べると死者となる日本神話的なアレ)かと思ったじゃねぇかびっくりしたなぁ!


「こういう冗談言ってるから食料が売れねぇんじゃねぇのか……?」

「あり得ますね。まぁ、特に売れなくても死にはしないから、住人としては別にどうでもいいとかでしょうか? お偉いさんは別でしょうが」


 『死にはしないから』とか、皮肉が効いてるなローラ。

 まぁ、実際食い物が売れなくても自分たちで消費してしまえばいいわけだ。売れ残るほどある食料により、住人は食うに困らない程度に生活はできるだろう。

 でもって、お偉いさんは現状を良しとしないからこそ、テコ入れのためにミルスを技術顧問として呼んだんだろうと。俺もそう思う。


「あ! ごめんごめん、久々のお客さんで大事なことを言い忘れるところだった」


 と、門を抜けようとしてたところを呼び止められる。


「ん? なんだい兵士さん」

「とれたて新鮮なお肉や野菜の持ち込みがある場合はここで申請してね。モノによってはアンデッドになるかもしれないから確認が必要になるよ。ここで『処理』もできるから、気軽に言ってね。……ま、中にはアンデッド化させた方が美味しいってワザと処理しない人もいるんだけど、その場合でも申請だけはしてね」


 何それ怖い。食べ物がアンデッドになる可能性があるのかよ。そしてアンデッドの肉や野菜を食べたりもするのかよ。

 やっぱりこの国でものを食べるのは気を付けた方が良さそうだな。

 俺達は頬をひきつらせつつ、兵士さんに手を振って町の中に入った。



 スケルトンに囲まれた物々しい外見に反して、壁の中に入ってみればいたって平和な町だった。

 ところどころで清掃活動にいそしむスケルトンが見られるが、住人はおだかやで、のほほんとした空気が広がっている感じだ。のんびりと昼過ぎのカフェでお茶してるような、ベンチで盤上遊戯(チェス)に興じるような、そんな感じ。

 ミルスが地図を取り出し、目的地へ歩いて向かう。


「あんまり働いてる人がいない、ですね……」

「んー、どっちかっていうと(せわ)しなくないって感じかな?」


 メリーさんとドロシーの発言でよくよく見てみれば、確かにその通りだった。ドラヴールだったら、あるいはシーフォールでも商人やら冒険者が何か忙しそうに走っていたりしたものだ。

 だがここの町の人間にはそんな「忙しい」空気が感じられないのだ。まぁ、まだ来てから数分、大通りを見てるだけだけど。住民はどいつもこいつも笑顔で、幸せそうに見える。


「なるほど、こりゃ確かに死者の都だ。まるで天国のようってか?」

「大丈夫、アタシたちはまだ死んでないよルーカスさん」


 くすくすと笑うミルスを先頭に、俺達は目的地である冒険者ギルドへ歩いて行った。



「こんちわー」

「はーい。あ、初めて見る人だ。ようこそ冒険者ギルドへ!」


 冒険者ギルドに入ると、やはりのんびりとした空気が漂っていた。

 併設されている酒場でも騒いで飲むと言うより「あー仕事した仕事した。さて飯食べつつ一杯やるか」というような日常を感じさせる落ち着きがある。


「ギルドからの依頼で来ました、鍛冶師のミルスです。こっちは助手と護衛。あ、護衛依頼の方先に処理してもらえる?」

「おお、貴女が! お待ちしておりました。えっと、それじゃ護衛さんの依頼は半達成っと」


 ミルスが依頼票を渡すと、ギルド員さんはカウンターの向こうで2、3回ハンコを押したり機械っぽい物に通したりして、戻ってきた。あれたしかシーフォールにもあったな。……特に驚いたような反応は無い。さすがにここまでは俺の名前も鳴り響いてないかな? ちょっと残念。


「ではこちらはまた3カ月後ですね。その間はこちらで冒険者活動を? それとも一旦帰られますか」

「一応ここで活動してみようかなと。様子見しつつだけど」

「では、対アンデッド講習を受けられる事をお勧めしますよ。デスパドーレとアンデッドは切っても離せない仲ですからね、アンデッドなだけに!」


 このノリはデスパドーレ共通なんだろうか。

 ともあれ、俺とローラは講習を受ける予約をした。元々受ける予定だったしな。後日また来れば講師が来てくれるらしい。


「で、これからアタシはどうすればいいのかな?」

「はい、まずは町長に挨拶を。その後住居の方へ案内します。たぶん仕事は明後日くらいからになるんじゃないかなと。――あ、町長に連絡しないと。ちょっと失礼」


 ギルド員さんが「ピィ」と小さく口笛を吹くと、ネズミが走ってきた。

 そして尻尾に手紙を結び付け、「町長にお願いします」と言って放す。


「伝書ネズミ?」

「はい。この町では結構使われてますね。なにせアンデッドマウスは安価なので」


 なんと、普通のネズミかと思ったがあれもアンデッドだったのか。


「ちゃんと防腐処理はしてますからニオイませんよ? ご安心を」

「なんというかこう、お肉見つけて寄り道したりしない? そのまま届けるの忘れたり」

「大丈夫です。この町のアンデッドは、すべからく町長の影響下にあり、職務を忠実にこなす働き者ですから」

「すごいな。……【死霊使い】だっけ?」

「はい、この町の根幹をなす町長のスキルですね。ほぼユニークに近いレアスキルなんです」

「へー」


 ……俺の【人形使い】をより便利に使いこなしたらこんな感じになるんだろうか。ちょっと参考になるかも。まぁ町の内外にいるアンデッドの数を見るに規模が全く違うが。


「……なぁ、でもそれだと町長が居なくなったら一気に崩壊しちゃうんじゃないか?」

「大丈夫ですよ。我らが町長はこの町からいなくなったりしません」

「え? いや、でも寿命とかあるだろ?」

「いいえ。なんたって彼自身もアンデッドですから。もう寿命とか無いんですよね」


 驚愕の事実。町長は自分すら【死霊使い】の対象にしてしまっているということか。

 ――あ、良く考えたら俺も【人形使い】で自分を強化・操作とかできるんだったわ。似たようなもんか。……似たようなもんか?



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