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021


 いくつかの宿場町で馬車を乗り継ぎ、俺達はいよいよデスパドーレに向かう馬車に乗っていた。馬車に俺達以外の客はいないので、かなり広く空間を使える。

 今回はメリーさんも一緒に馬車に乗っている。


「まったく、ルーカスさんは鬼畜……です。私みたいな美女が、見えないところで襲われたりしたらどうするつもりだったんですか……」

「ちゃんと宿に説明して預かっててもらっただろ。翌朝になったら消えてるから置いとくだけでいいって」


 そう。今まではどうせ転移できるんだしわざわざ狭い馬車に乗せることもないだろうと置いてけぼりにして、メリーさんには早朝毎に転移して追いかけてもらってきたのだ。

 そして今回はやっと広々としてる馬車空間。つまり荷物(メリーさん)を乗せる余裕があるってことだった。



 尚、初日の宿場でローラから酔い止めバンドを作ってもらって以降、俺は車酔いを克服していた。思い込みの力(プラシーボ効果)もあるかもしれないが、効く分には何ら問題ない。むしろありがたい。

 俺達がお揃いのリストバンドを付けているのを見てメリーさんも欲しがったので、翌日にはローラはちゃんとメリーさんの分も作ってあげていた。優しい。え? 酔い止めのボタンは付けてないって? まぁ馬車の揺れ関係ないし手首もたぶん木だからねコレ。


「まぁ乗り物酔いは良くなったが、それを抜きにしてもケツが痛いな……」

「その点、シュナイダーは大活躍ですよね。シュナイダーが居なかったらどうなっていたことか……」

「おいまてローラ」


 言われてよくみれば、ローラはシュナイダーをクッション代わりに敷いていた。

 よくよく見ればドロシーとミルスもであった。


「おま、お前らいつのまに……いや、いつから……?」

「え? 初日からだけど?」

「なんだと……?」


 なんということだ。シュナイダーは初日から女性陣の尻に敷かれていたのか。どうりで馬車から降りるときにこいつらなんでシュナイダー抱えてるんだろって思ったわけだよ。

 むしろなんで気付かなかった俺。車酔い克服に浮かれ過ぎてたのか俺。


「というか、ローラ的に良いのか? シュナイダーを尻に敷いても」

「良く考えてくださいルーカスさん。シュナイダーは、布と綿からできています」

「うん? そうだな」

「クッションも同じく布と綿ですね?」

「お、おう。そうだな」

「つまり今この馬車内において、シュナイダーはシュナイダー型クッションということですよね?」

「少し話が飛んだな?」


 だが、うん。言いたいことは分かった。


「つまりシュナイダー型クッションだから尻に敷いても問題ない、と」

「そうなのです。あ、ルーカスさんもどうぞ」

「……いや、俺はやめとくよ。ここまで来たら俺だけでも相棒(シュナイダー)を尻に敷かず行く!」

「あ、私はください。お尻が馬車の座席に叩かれ続けて割れそうです……物理的に」


 俺の代わりにシュナイダーを受け取ったメリーさんは、早速シュナイダーをむぎゅっと尻に敷いた。……敷かないぞ、俺は。大事な相棒なんだからなっ!




 と、意気込んでいたのだが、デスパドーレに向かう道はかなり綺麗なものだった。特に途中から、曰くデスパドーレの方が近いという境目を過ぎてからは尚更だった。


「今までの道と比べ物にならないくらい整備されてるな」

「ああ、まぁ、デスパドーレだからかな?」

「お客さん良くわかったねぇ、その通りさ!」


 話に入ってきた御者さんに聞いてみたところ、まさしくその通りらしい。

 曰く、これも人件費がほぼゼロのアンデッドを使って毎日のように整備しているからだそうな。……使われている側の死体には悪いが、確かにこりゃ快適だわ。


「お。お客さん。見てくださいよ、これこれ、これがデスパドーレ名物、大規模農場(プランテーション)ですわ」


 御者さんの案内に従って馬車から顔を出すと、そこには広大な畑が広がっていた。そして、畑を耕すのはスケルトンたち。物言わぬ白い骸骨が規則正しくザッザッと揃って鍬を振り下ろす光景は、まるでマスゲームでも見ているかのようだった。


 ちなみにここは芋畑らしい。他では蕎麦、麦とか野菜とかも使って大規模に輪作しているんだとか。あと当然のようにクローバーや牧畜もして連作障害に対応している。


「ま、牧畜は気を付けないとアンデッド化するから大変なんですがね」

「え? 豚とか牛とかがアンデッド化するんですか?」

「ここではオークとかミノタウロスがですな。ああ、でも勝手になるんじゃなくて、野良アンデッドに襲われてって話だから、そこ間違えないでくださいね」


 どうやら異世界の畜産業ではオークやミノタウロスを育てたりしているらしい。すげぇな異世界。だがこれもアンデッドが豊富に使えるデスパドーレならではのものらしい。

 見張りとかがオークやミノタウロスのスケルトンだそうで、戦力的にも十分対抗できるからこそなんだとか。


 ……しかし、そうか。家畜がアンデッド化するのかぁ……ここでお肉食べるときは気を付けた方がいいのかな。


「きちんと処理した肉はアンデッドになりませんから大丈夫ですよ」


 といわれても、進んで食べたいとは思えないよな、こりゃ確かに。


「農業・畜産従事アンデッドはちゃんと衛生面を考慮して漂白処理済みスケルトンに限定してるというのに。肥料だってモンスターの骨を砕いた高級品だというのに……」

「ハハ、そうなんですか」


 その、(スケルトン)が砕いた骨を撒くわけか。皮肉が効いてるな。


「ねぇお客さん。ここの野菜は本当に美味しいんですよ、まるで口の中でまで生きているみたいに! だから是非堪能して、そしてお友達におすすめしてくださいね!」

「アッ、ハイ」


 生きてるみたいにって、逆にそれがデスパドーレの作物が売れない訳なんじゃねぇのかな、なんてな。



 そんなこんな、しばらく走って行った時の事だった。


「ああっ! す、すみませんお客さん、ちょっとゾンビウルフが出ました」

「ゾンビウルフ……って、オオカミのゾンビか」

「はい、やつら野菜なんて食わないくせにたまに農業エリアにも出てくるんですよ。どうにも、農業スケルトンたちの綺麗な骨を目当てに出てくるんじゃないかって話でして」


 なにその理由。ちょっと面白い。


「でも我々のように肉付きの良いのがいるとこっち狙ってくるので……ちょっとお願いできますかね? 運賃サービスしますんで」

「肉付きの良いって……まぁいいですけど、これ普段はどのようにしてるんですか?」

「コイツがゾンビホースなので、多少齧られるのは無視して全速力で突っ走って逃げますね。今はお客さん載せてるから安全運転なんですが」


 なんと、この馬車はアンデッド馬車だったようだ。


「へー、ゾンビなのに臭くないんだねぇ」

「おっとお客さん。ゾンビだからって腐ってると思ったら大間違いですよ。ちゃぁんと防腐処理してフレッシュなゾンビだっているんだから。コイツのようにね!」


 今度はミルスが興味を持ってくれたのが嬉しかったのか、ミルスに元気に話しかける御者さん。いや、今ゾンビウルフがこっち向かってきてるんだよね? 何なの、のんきなの?


「ま、まぁとりあえずゾンビウルフを倒せばいいんだな?」

「はい、お願いしますお客さん! あ、野良ゾンビは100%防腐処理してないんで臭いですよ、初めての方にはキツイかもしれません。覚悟してください」


 俺はその一言で出そうとしていたシュナイダーを引っ込め、代わりにカカシを前に出した。ローラいわく、賢明な判断だったとのこと。



  *


 で、実際にゾンビウルフと戦ってみた感想だが、ゾンビは強敵だと言うことが分かった。

 いや強さはそれほどでもない。むしろ通常のウルフより弱かった。別段群れという訳でもなく、一匹だけでふらりと、よろよろとてとて走ってきていた。むしろ足が折れているのか遅いくらいだった。


 まぁ、この時点で見た目のインパクトはヤバかった。

 なにせ妙な腐汁がぽたぽたしたたり落ち、目がでろんと零れ落ちているうえ、赤と黒と骨、虫、内臓、あ、うん。これはキツイ。オロロロロ。


 次に臭い。腐った肉のニオイがカカシに付いてしまった。

 これにはさすがのドロシーも馬車内に置きたくないのでこのカカシは以後外を歩いてもらうことになった。あとで徹底的に洗うそうだ。パーツ交換も視野に入れているとのこと。


 そして見た目とニオイを無視しても、ゾンビはしぶとかった。

 なんと首を落としても死ななかった。一応首が落とされれば首から下は動かなくなるようだが、頭だけで噛みつこうとしてきやがる始末。

 最終的には頭をパッカーンと割ってようやく倒すことが出来た。……できたよな? ここらへんの倒し方は種類によるらしいので、アンデッド対策講習の受講は必須だろうな。ギルドで受けられるらしい。


「……これ、冒険者としてやっていけるかなぁ3カ月」

「確かにビジュアル的にもキツイし臭いしで心が折れそうですね……」


 俺とローラはがっくりとうなだれていたのだが、一方で他の面々といえば。


「森の中じゃたまにああいう死体もあるし、結構慣れてるわね」

「まー、アタシも意外と平気かな。解体とか普通にするし。むしろどうやって動いてるのか気になるよね」

「……むしろ怨念っぽさが親近感、でしょうか……?」


 メンタル強いなお前ら!


「はっはっは、このくらい三日でなれますよ、三日で!」


 御者さんの明るい笑い声に、俺とローラはひくついた笑みを返すしかなかった。



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