019
さてさて。
そんなわけで、俺達は2人パーティーから2.5人パーティーになった。
え? この0.5は何かって?
呪いの人形ことメリーさんだよ!
なんやかんや俺から離れないメリーさんは、いつの間にかすっかり俺達のパーティーメンバーのような状態になったんだよ!
実はメリーさんには【人形使い】のパワーを溜めておくバッテリー的なものがあり、俺が操作しなくても、メリーさんはそのパワーを使って自分の意思で体を動かせた。
ただしこれで動けてもせいぜい3分程度。
で、俺が動かすには指1本分で十分なのだが、このバッテリーはロスが大きいのか指1本あたり、5秒充電1秒行動のレートである。
メリーさんが自走するにはバッテリー内のパワーを使う必要があるため、常時自走状態にするには指5本分のパワーを垂れ流せばいいわけだな。
要約してしまえば、俺電源で動くエ○ァンゲリオンだ。まさにアンビリカブルケーブル。あとメリーさんがダミー○ラグ。
そんなわけで呪いの人形ことメリーさんは俺の近く限定で自分で動こうと思えば動ける。ただし俺から離れると3分で動けなくなる。そんな半端なパーティーメンバーとして加わったのだ。まぁ荷物持ちの手伝いくらいだけど。
というわけで最近の狩りは、
・メリーさんを連れてローラと待ち合わせ。
・その後門の外へ行き、オークを探して森の奥へ。
・シュナイダーやクッキーズを使ってオーク討伐。
・メリーさんにオークを背負子で運んでもらい、帰還。
というルーティーンが組まれていた。
荷車ではなく背負子を採用することで森の奥まで行ける。これによって再びオークが狩れるようになったのだ。移動が面倒にはなったが、これなら隣町に移住する必要もない。
「いやー、しかしメリーさんが自分で動いてくれるから楽でいいな。森の中で自分とカカシを同時に動かすのはさすがに手間すぎてよ」
「こちらこそルーカスさんのおかげで、動けてますから……それにこんな怪力まで……」
もちろんメリーさんは人形なので、俺が余計にパワーを注げばその分強い力が出せるし筋肉痛を心配する必要もない。多少壊れても勝手に直る呪い付きなので、細かい気を使わないで運用も可能だ。
「ほんと、便利だよなメリーさん。貰ってよかったぜ」
「それほどでも……ありますね?」
「でもルーカスさんの相方は私で、メイン武装はシュナイダーですからね!」
「……まぁ、メリーさんに刃物とか持たせるの、めっちゃ怖いからな」
だって呪いの人形のメリーさんだから。
「……私も、戦えますよ……? 壊れるのはいやなので助かりますが……」
「めっちゃ怖いからな。背後から刺してきそうで」
「大丈夫です……大事なごはん――エネルギー源に、ひどい事はしません……」
「言い直しても酷いんだが。せめて持ち主とか言ってくれないかな」
……尚、転移についても色々条件付きで燃費が変わる。これは呪いというシステムを利用しているからだそうだが、『夜中に持ち主の寝床へ転移する』という条件であればほぼ消費なく転移できる。次点で『刃物を持ったまま持ち主の背後へ転移する。あわよくば刺す』だそうな。ドロシーが全力で呪いの元になっている術式とやらを解析してくれた。
で、この状況に近いほど燃費良く移動できるわけだ。
うん、作ったやつは天才でバカだ。そしてやっぱり天才だ。
「というわけで、メリーさんに刃物持たせるのはホント怖いからね。メリーさんが自分でも知らないギミックが発動しても嫌だし」
「試しに一度くらい……?」
「ダメ」
「包丁が持てれば料理もできる……?」
「ダメ」
ドロシー曰く、呪いは『暴走させた儀式魔法』だから何が起こるか分からない。ので、刃物を持った途端強制転移で俺を背後からざっくりなんてことも有りうるのだ。
現状使えることが分かっている【人形使い】パワーまでが俺の許容できる限度な。
「でも私……包丁とか、きっと似合うと思うんです……?」
「うんうん、そう言って刃物持ちたがるのが一番の不安要素なんだよね」
似合うだろうけどね、なんたって『メリーさん』だし。
ま、そんなわけだから、メインが使い慣れてるシュナイダーなのは当然だった。
「もし戦ってもらうとなったら刃物じゃなくて怪力で、な?」
「……しかたありません、ね……特別ですよ……?」
まぁ、そんなこんなで、新たな仲間を加えた俺達は、また順調に稼ぎ、順調に生活していた。俺の家も順調に増築し、寝床に加えてトイレができた。次は台所だな、一緒に風呂を増築してもいいかもしれん。
え? 増築するまでトイレどうしてたのかって? ……ま、そんなことは良いじゃねぇか。
そんなある日。
鍛冶屋ミルスに武器の整備を頼みに行ったのだが――
「ルーカスさん、ローラちゃん、ちょっといーい?」
「ん? どうしたミルス。なんか不味い事でもあったか?」
「そうじゃなくてさ。今度護衛依頼受けてくれないかなーって」
「護衛? どっか行くのか」
それは、ミルスからの依頼だった。
「一応ギルド通して話は行くと思うんだけど、その前に打診をということで」
「まぁ、ミルスさんの頼みなら良いですけど。ね、ルーカスさん」
「ああ。俺も異論はないぞ。メリーさんもいいよな?」
「……はい。私はルーカスさんに付いてくので……同行します……」
「あはは、そう言ってもらえるのはありがたいね。まぁ、詳細言っとくとデスパドーレって町に鍛冶師の技術顧問として呼ばれてさー。その道中の護衛を頼みたいの」
デスパドーレ。初めて聞く町の名前だ。……もっとも、この間まで俺はドラヴールの町の名前さえ知らなかったわけで、名前を知ってる町の方が少ないけど。
ローラは知ってるのだろうか?
「あー、あのデスパドーレですか」
どうやら知っているらしい。そして曰く付きらしい。
「ルーカスさんは知らないみたいだから詳しく言っとくとね、デスパドーレはゾンビとかが出るんだよ」
「……は? ゾンビ? ゾンビって……死体のゾンビか?」
「そうそう。死体のゾンビだよ。他にあるかは知らないけど」
ゾンビ。いわゆる動く死体だ。前世では映画やゲームの題材によくあった。ブードゥー教の呪いでよみがえった死体、とかが元だか聞いたような。あやふや知識だが前世の事だ、調べることもできないし調べる意味もない。
「なんでも、そこの町長は【死霊術】ってスキル持ちで、死体を動かして労働力にできるんだって。それでゾンビとかスケルトンに畑を耕させたりしてる、一大耕作地なんだよ」
死人に鞭打つというか、死んでもこき使ってるわけか。恐ろしい。
だがその安価な労働力で大量の穀物を作成し、輸出したりして金を稼いでいるそうな。
「でも死人が作った食べ物とかあんまり進んで食べたいとは思わないじゃん? 質も悪くはないんだけどね」
だから今度は鍛冶製品で稼ごうって話になり、それでミルスに白羽の矢が立ったということらしい。
なぜミルスかというと、スタンピードの時に前線で鍛冶をしていたからだ。
デスパドーレの鍛冶師はゾンビに指示を出して鍛冶をする。そんな環境――つまりゾンビがすぐ近くでうろうろしているような――で、いちいち怯えていては仕事にならない。故に、命の危機がすぐそばにあるような前線で鍛冶をした経験が買われたんだとか。
「それでギルド経由のちゃんとした依頼だから受けようと思うんだけど、【死霊術】の影響で町の周囲でもアンデッドが自然発生したりするらしくてさ。護衛が必須だから、気心の知れてるルーカスさんたちに頼みたかったの」
「なるほど」
ゾンビとは戦ったことないが、何とかなるだろう。基本的にオークよりは弱いらしいし、攻撃も単純なものなんだとか。
「ちなみに私も助手としてついてくからね!」
「ドロシーも行くんですね。そうなると、この面子でそのまま行く感じになるんでしょうか」
「アタシたちみんなで旅行に行く感じだねぇ。……お? ルーカスさんこれ美女3人、いや4人に囲まれてハーレム状態じゃない? このこのぉ」
「ははははは」
とりあえず俺は否定も肯定もせず笑って誤魔化した。