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018

「呪いの人形、へぇー」

「てっきりルーカスさんがやっちゃったのかと」

「わ、私は信じてましたよ?」


 俺は無事に諸々の誤解を解くことに成功した。


「それにしてもすごく精巧ですね。こんな人形、普通に買ったら金貨何十枚とかするんじゃないですか?」

「昨日ギルド長に貰った……というか、押し付けられてな。タダどころかむしろ金までくれたぞ」

「へー。あ、こんなとこまで作りこまれてるんだ。へぇー、へぇー」

「おお。こんな関節してるんだ……ここが回るとこう、こう。ほほう」


 そして呪いの人形は、早くも好奇心の塊ミルスと、その見習いドロシーの標的となっていた。ドロシーはすっかりミルスの弟子になっているのが分かるな。あといくら人形だからって下着の中まではみないでやろう? な?


「……あ、あの。二人とも呪いとか怖くないんですか?」

「まー、呪いが怖くちゃ鍛冶屋はやってられないっていうか」

「呪いってのは意図的に暴走させてる儀式魔法みたいなものだから、確かに何が起こるかしっかり分からないとこあるけど……見たところ落ち着いてるみたいだし、大丈夫でしょ」


 ローラ以外は思いのほか図太い神経をしているようだ。前の人形の持ち主も、ミルスんとこに持ち込んだら普通に引き取ってもらえただろうにな。


「こんなカカシあったら便利よねー、あ、でも畑から勝手に帰ってきちゃうのか。いやむしろ持ち主を畑って指定できれば盗まれても畑に戻ってくる……!」

「しかも自動で直るんだって。あー、どこまで刻んでも直るのか実験したいなー」


 どこからともなく(ナタ)を取り出し、俺のGoサイン待ちみたいな状況が出来上がってしまった。ヤバい。絵面がヤバイ。


「まってミルス、魔法的に解析するのが先よ。魔法陣か魔術回路がどこかにあるはず」

「こういうのは大体コアがあるんだよね。ということはそこ以外は切っても平気なのかな? 埋め込まれてる可能性の方が高いから気を付けないと」

「頭か胸、意表をついて手足に仕込んでる可能性もあるわね……つなぎ目から丁寧に分解しないと」

「……あ、あの。切り刻むのは止めてほしいです……!」


 と、そこで可愛い女の子の声が響いた。


「ん? 今のルーカスさん?」

「女の子の声だったわ。ローラじゃない?」

「俺じゃないぞ」

「わ、私でもないです……」


 俺達の視線が、呪いの人形に集中した。


「……私、です。切り刻まないで、ください……」


 再び聞こえたその声は、確かに呪いの人形の方から聞こえた。


「……ひ、ぎゃぁああああシャベッターーーー!?」

「に、人形が喋りましたぁああああーーーーー!?」

「あー、インテリジェンス系?」

「そうみたい。あ、喋るカカシってどうかしら!」


 そしてミルスとドロシーは何事もなかったかのように平然と話を続けていた。


「あ、あの!? ミルスさんもドロシーもなんでそんな落ち着いてるんですか!?」

「だって喋る魔剣とかあるでしょ?」

「呪いも魔法なんだから喋るくらいあってもおかしくないわよね?」


 えぇぇ……鍛冶屋とエルフのメンタル強すぎない?

 だが落ち着いている二人を見て、俺も落ち着いてきた。


「あー、その、しゃ、喋る人形なのか?」

「……はい。私、メリー、って言います……」


 そうか、メリーさんって言うのか。

 ……呪いの人形のメリーさんね。なんか電話かけてきそうだな。


「ちょっと自己紹介で自分の名前に『さん』ってつけてみて」

「? 私、メリーさんって言います……」

「名前までで」

「私、メリーさん……」

「最後に居場所を追加してもう一度。今どこどこにいるの、って」

「私、メリーさん……今、鍛冶屋にいるの……」


 よし、完璧だ。だからなんだって話なんだけどね!

 ちなみにメリーさんは喋る時に口が動かない。どこかにスピーカーがあるのかもしれん。


「ルーカスさん、何がしたいの?」

「いやなんでもない。あー、その、メリーさんは呪いの人形なんだよな?」

「えと……あ、あの、すいません……力を注いで……くだ……」


 ……不自然にメリーさんが黙った。


「あれ? どうしたのメリーさん?」

「力を注いで、っていってたけど、もしかしてルーカスさんの【人形使い】のことじゃない?」


 はい、と手早くメリーさんの手首に糸を巻き付け俺に渡すミルス。

 まぁたぶんそれだよね。えいえい。


「……ふぁ、ありがとうございます……」

「お、やった正解! へー、ルーカスさんの【人形使い】で動かすとメリーちゃんが喋れるようになるんだ。へぇー!」

「ルーカスさんのスキルの力が影響してる……スキル前提の呪い?」


 ミルスの目がキラキラと輝いておる。これはまた検証させられるパターンか。


「あ、あの……良くわからないんですが……わ、私の事……怖くないんですか?」

「え? 怖がらないとダメなの?」

「動く人形は見慣れてるし、まぁ喋るだけだし別に?」

「わ、私は少し怖いですけどっ!?」

「……ローラ、少し落ち着いて考えて。この子を調べたらシュナイダーが喋る可能性がある」

「あ、怖くなくなりました! よろしくお願いしますメリーさん」


 シュナイダーのためならあっさり恐怖を乗り越えるローラってやっぱすごい。


「……あーその、ちなみにあれだ。メリーさんは記憶とかがあるのか?」

「はい、ありますよ。……ルーカスさんが私の胸を触って鼻の下伸ばしていたのもしっかり覚えてます……」

「おい、記憶を(ねつ)造するな」

「いえいえ……私の持ち主になった方はまず間違いなく一度は触りますから……まぁ、下着の中まで見なかったのは紳士的でした、ね……?」


 そういやさっきドロシーは下着の中も見ようとしてたもんな。


「してないからな。鼻の下伸ばしたりとか」


 なんとなく俺は、もう一度、言い訳じみたことを言っておいた。


「触りはしたと。まーしかたないよねー」

「ルーカスさんも男の人ですからね」

「気になるもんね、分かる分かる」


 理解のある女性陣だなぁチクショウ!


「……とりあえず、力を注いでいただければ、お話できます……ね?」

「ああ。で、えっと。メリーさんは何がしたいんだ?」

「え? ……その、私は別に特にしたい事とかはありませんが……」

「……え? 怨念とかで動いてたりするんじゃないの?」

「それはもう達成したので……?」


 あ、怨念とかは達成してたんだ。じゃあ成仏しろって話なんだが?

 そんなことを考えていたら、メリーさんが身の上話を始めた。


「……元々私は、数百年前にとある有名な人形師によって個人的な復讐のために作られました……」

「個人的な復讐?」

「はい。……その、人形師は女性だったんですが……恋人が実は妻子持ちで。復讐のために自分そっくりの人形を付きまとわせてやる、と……」


 それで持ち主に認定した人物のすぐそばに付きまとう機能が付けられたらしい。ついでに壊されても直るように自動修復機能も。そして、脅し文句を言うために喋れるようにもなってるし、ある程度自分で判断して割り込むために意識も植え付けられたそうな。


 うん、呪いってそういう機能だったんだね。

 ギルドで聞いた『娘を亡くした人形師がその娘を(しの)んで作った』とかいうエピソードは完全にデタラメだそうな。


「……私の働きにより、見事その夫婦は破局。その後も男に恋人ができないよう、生涯つきまといました……」


 なんという嫌がらせか。そこまでするとか人形師は相当男を恨んでたんだな。

 で、仕事は達成したのだが、その頃にはもう人形師も寿命で亡くなっていたそうな。


 恨みのエネルギーってすごい、素直にそう思った。


「そういうわけなので……今の私は持ち主に付きまとうだけのただの無害な人形なのです。……いわばジョークグッズですね? あ、おっぱい触りますか……?」


 どことなく哀愁漂うその言い方に、付きまとうのが結構害があるんじゃと思いつつも俺は頷くしかなかった。あいや、おっぱいの方じゃなくてな。

 案外、メリーさんって名前からしてコイツを作ったのは転生者かも知れないな。

 ま、数百年前に死んでるらしいけど。


「動力源は? ねぇ動力はなに?」

「人の恐怖などの強い感情や、空気中にあるマナ、だそうです……だから普段は時間経過で回復します……ただ、今は昔よりマナが薄いので、限定条件の転移くらいしかしてませんでした……ルーカスさんの力があると別みたい、ですけど……」

「空間転移とか高度すぎるんだけど。うわぁ凄い気になる。その、バラして調べてもいい? どういう術式なんだろ。属性は?」

「どこまで刻んでも大丈夫かの実験もしたいなー。痛覚はあるの?」

「シュナイダーが喋るようになるために協力してくださいメリーさん!」

「こ、壊されるのは、怖いので……嫌です……」


 ……と、メリーさんが三人に囲まれた中からぱしゅんっと俺の後ろへ瞬間移動してきた。

 俺を盾のようにして隠れるメリーさん。ちなみに手首の糸は解けて床に落ちている。


「あのっ……こ、今後はルーカスさんに付いて行くので……!」

「えええ……」

「捨てないでください、この人たち怖いですぅう……!」


 呪いの人形に恐怖させるとか、どういうことなの。

 無表情のまま怯えるメリーさんを優しく宥め、俺はそう思った。



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