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016

 そんなこんな色々あったが、俺達は無事シーフォールから帰還。ドラヴールに戻ってきていた。


「とても素晴らしい護衛だったわ! またね、ローラ、シュナイダー、ルーカス様!」


 護衛対象のケイトお嬢様は満面の笑みで、今度は俺のこともしっかりと忘れずに挙げてくれた。……順番が最後なのはあれだ、一番名残惜しいからだ。きっとそうなんだ。


 え? 帰りの護衛の内容はどうだったんだって?

 何もなかったよ。そうそう何か事件があってたまるもんか、ゴブリンすら出なかったわ。いたって平和すぎて本当にやる事なかったわ。


 え? シーフォールで会ったナンパ野郎が突っかかってきたりしなかったのかって?

 そんな根性あるなら他に女探すだろうよ。ナンパ野郎なんだし……ああいうチャラ男は一人に固執するより数撃って彼女作るんだぞ、別に殴り合いをしたわけでもなし、恨みを買う要素がなかった。


 もしこれが物語なら窮地に陥ってカッコよく切り抜けるところだが、どっこいこれは現実! これが現実! まぁちょっとチンピラとか怖いししばらくシーフォールには行かないけどな! ほとぼりが冷めるまで!



 そんなわけで何事もなく無事に出稼ぎは終了。依頼料と合わせてかなり懐が暖かくなった俺は、一度家に帰るローラと別れて、早速大工に家の見積もりを頼もうかと思っていたのだが――


「おいルーカス。帰ってきたんだな、ちょっといいか」

「ん? ああ、ギルド長じゃないか。俺はこれからちょっくら用事があるんだが」

「時間は取らせねぇよ。お前にプレゼントをやろうと思ってな。ちょっと待ってろ、倉庫から持ってくる」

「プレゼント? なんだ、俺のファンからか?」

「まぁそんな感じだ」


 そう言うと、ギルド長はギルドの倉庫から縦長のデカい箱を持ってきた。


「こいつだ、受け取ってくれ」

「お、おう。なんかデカいな……おう、結構重いなコレ。中身はなんなんだ?」


 俺がその箱を受け取ると、ギルド長はニヤリと笑った。


「受け取ったな?」

「え?」

「これはもうお前のモンだ、そうだな?」

「お、おう? そうだな。まぁくれるって言うんだし」


 ヤケに念を押してくるな。と思いつつも頷くと、ギルド長は満面の笑みを浮かべた。


「いやぁさすがルーカスだ。それでこそこの町の英雄だ」

「な、なんだよ一体。……てか、コレ中身なんだ? 人ひとりくらい入りそうだな」

「ああ、開けて見ろ」


 箱にはよく見れば留め金がついており、片側がトランクのように蓋になっている。これをパッチンと開けるとそこには――


 ――無表情で目を開けたままピクリとも動かない、女の死体が横たわっていた。


「ひっ!?」


 俺は思わず蓋を閉めた。


「お、おい!? なんだこれ!」

「ああ? なんだ、妙な感じでもしたのか?」


 平然としているギルド長に、俺は自分の見間違いを疑った。

 ……もう一度開けて見る。


 が、そこにはやはり女の死体が入っている。呼吸もしておらず、ピクリともしない。


「おいおいおい、ヤバいだろこれどう見たってよ……」

「よく見ろ、ホレ、関節が分かりやすい」

「……ん?」


 ギルド長が肌が露出している手首を指差す。それは、どう見ても人の関節ではなく――いわゆる球体関節だった。あれ、ということはコレ、人形? 等身大の?


「ギルドが預かってるのに死体なんて渡すわけがないだろう? 作りモンだよこれは」

「お、おう。なんだビックリしたぜ」


 よくよく見れば、顔も作り物めいている。目とかもガラス玉か? せっかくならもっとにこやかに微笑んでる表情にしてくれればよかったのに。


「ちょっと動かしてみろよ」

「え? あ、ああ。そうだな」


 ギルド長に促され、俺は人形の手首に糸を巻き【人形使い】を発動させた。

 ……ん? あ、動く動く。しかも完成度が高いうえに関節もちゃんと作ってるからか指1本、いや、2本かな? とにかく人間サイズなのに動かしやすい。シュナイダー並みだ。


「ほー、こいつは凄いな」

「気に入ってもらえたようでなによりだよルーカス」

「でも、こんな高そうなモン貰っちまってよかったのかな?」

「ああ、そこは気にしなくて良いぞ。それ、依頼人が処分に困ってたモンだからな」


 ん?


「依頼人? 処分?」

「おっと」


 自らの口をふさぐギルド長。だが遅い。


「ちょっと詳しく話してくれないか?」

「あー、その、なんだ。大した話じゃないんだ。実はこれ、ルーカスへのプレゼントだって持ち込まれたモンなんだ、それは間違いじゃない」

「じゃあなんで依頼人とか処分とか出て来るんだよ」

「それを今から説明する。まぁ聞け」



 ギルド長の話はこうだ。

 この人形は、一人の男――Aさんとしよう。彼が、【人形使い】の英雄である俺へのプレゼントという名目でギルドへ持ってきたものだった。


「だが変なモンを渡すわけにもいかんから中身を確認しなきゃならねぇ。そん時にヤツが言ったのさ『開けてもいいけど、一度引き取ってからにしてくれ。渡すのがダメならそっちで処分してもいいから』ってな」


 そんならってことで引き取った。で、中身は本物の死体と見まごうばかりの人形だった。ちなみにギルド長も最初は死体と間違えたらしい。

 これは正しく俺へのプレゼントに違いないってことで受け取ったギルド長。


「でも、その日、俺が家に帰って寝て――朝起きたら部屋にその人形が居てよぉ。いやぁびっくりしたね! カミさんに『アタシじゃ不満だって言うのかい!』って怒鳴られちまったぜ。ガハハハ!」

「って思いっきり呪いの人形じゃねぇか!!」

「おう。そうだな」


 この世界、魔法もあるんだし呪いだってあっておかしくないよな。うん。


 当然Aさんに改めて話を聞こうとしたところ、町から出ようとする寸前だったらしい。そこをとっ捕まえて話を聞くと、間違いなく呪いの人形だったそうな。

 なんでも、娘を亡くした人形師がその娘を(しの)んで作ったらしいのだが……どうやっても処分できない。

 バラしてもだめ。壊しても直る、ついでに髪も伸びたりする。唯一呪いから逃げる方法は人に譲渡するのみ。そうして長年人々の間を転々としてきた呪いの人形だった。(Aさんはギルド長に無事譲渡できたことを確認して、町から逃げるつもりだったらしい)


「だがそこまで話を聞いてピーンと来たのよ。こいつはルーカス、お前にはピッタリだってな!」


 そう。人形師がその命を()して作り上げた人と見まごうばかりの人形。これはまさしく俺の【人形使い】にとって最高の相性の人形だ。

 しかも呪いにより持ち運ばなくても朝には手元にやってくるし、壊れても勝手に直る。

 これはもはや『最強の人形』と言っても過言ではない。


「つまりこいつは正真正銘お前へのプレゼントってわけだ。どうだ、気に入ったか?」

「……まて、まだ『依頼人』の部分が残ってるぞ」

「ちっ、気付いたか。ま、ほれ、その箱の隅っこに金が入ってるだろう?」

「ん?」


 見ると、人形の入っていた箱の隅に袋があり、金が入っていた。

 一応手紙も入っている。内容は「呪いの人形処分依頼の報酬だ」……と。


「ギルドを謀って呪いの物品を押し付けようとしたんだ、本来は厳罰なんだが――呪いの人形の処分をギルドに依頼した、って事後処理して見逃してやる事にしたんだ。実際、そいつを罰しても誰も得しないからな」

「いいのかよそれ」

「ギルド長の俺がいいって言ってるんだ、何の問題もねぇ」


 職権乱用じゃねぇか。


「俺が引き取らないって言ったらどうするつもりだよ」

「そんときゃ仕方ねぇからウチで引き取るつもりだ。カミさんを説得してな」

「本当かよ……これ、寿命が吸われたりとかはしないよな?」

「そこは大丈夫だそうだ。ただ捨てても帰ってくるのが不気味なだけなんだと」


 まぁ、呪いの人形とかちょっと怖いけど、実際話を聞く分には便利そうだし、【人形使い】で動かせるし、金までくれるってんだ。貰っておいてやろう。


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