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013

 水着着用、水陸両用ルーカス参上。


 といっても普段の服の下に水着を着てるくらいで見た目は変わらない。

 ローラもいざというときのために服の下に水着を着ているくらいで、水に潜った時に溺れないよう脱ぎやすい服を着ている。


 み、水着姿を期待していたりなんてしてないぞ?


「というわけでクラーケン退治なわけだが」

「はい、クラーケン退治ですね」


 俺達は岩場に来ていた。

 岩場は荷車をひくにはかなり悪条件であるのだが、カカシが背負子(しょいこ)を使うことで倒したクラーケンも運べる見込みだ。


 ……うん、これ普通にオークにも応用できるよな。カカシ2体くらいで協力しつつパワーを十分注げば森の奥からでも倒したオークをお持ち帰りできそうだ。重い物を森から運び出すのには、単に人手カカシがあれば良いのだから。もうちょいがんばって町まで運べばいいだけだった。

 なんで思いつかなかったのか。重い荷物を運ぶには荷車、と頭が固くなっていたのだろう。やだね、歳って。


「背負子があれば帰ったら森のかなり奥までオーク探しに行けるな」

「ですね」


 ローラも微妙な顔をしていたあたり、背負子の有用性に気付いたのだろう。こっちは歳とか知らんぞ、若者なんだから。


「そういやローラはクラーケン倒したことあるのか?」

「ええと、陸に上がったのを遠くから弓矢で、なら」


 観光シーズンには『クラーケンが砂浜に入ってこないように見張る』とかいう依頼があり、その時に近接戦闘担当に守られつつ射った矢が運よくイイとこに刺さって倒せたんだとか。

 クラーケン、防御力は大したことが無いらしい。というか、陸に上がった時点でさほど脅威ではなくなるそうだ。なにせイカは水中の生物、陸上で生存できるだけで凄いと褒めてやるべきだろう。近づくと触手に絡め取られて大変だが、槍とかでも比較的安全に倒せるらしい。

 ただ問題は水際だ。クラーケンの水中での性能はヤバい。海の中に引きずり込まれると、今度はあちらのホームグラウンド。【水中呼吸】とかのスキルでもない限り窒息必至。

 クラーケンを陸上に釣り上げるか、クラーケンに釣られて海の藻屑となるか。そんな攻防というわけだ。


 地元で慣れてる冒険者はクラーケン狩りでロープ付きの(モリ)を使ったりもするんだとか。投げて刺して、複数人で引っ張りあげて。なんかこう、普通に漁っぽい。


「俺達も銛を使うのか?」

「いえ、そこはシュナイダー達で良いじゃないですか? 糸が繋がってますし」

「シュナイダーを囮にしていいのか? クラーケンでべちょべちょになったりするんじゃないか?」

「海があるのですぐ洗い落とせるのが良いですよね」


 布とか傷まないか……まぁ、その時はローラが直すだけか。


「ついでにイワノリの採取も受けてます。これ、水際の岩場に生えてる海藻なのでクラーケンの危険と隣り合わせなんですが、私達ならシュナイダー達で安全に採れます。そして、仮にシュナイダー達がクラーケンに襲われたらむしろそれをルーカスさんが引っ張りかえして釣り上げれば」

「なるほど、クラーケンを狩れて一石二鳥だな!」


 ちょっと筋肉痛は怖いが、ヒュドラをぶん回せる俺の力と合わせれば楽勝だろう。

 しかもローラ、こんなこともあろうかと潮干狩りに使う熊手みたいなヤツをシュナイダー用に用意していやがった。さすが抜かりない。


 ……クラーケン引っ張り上げるときに糸が切れないか少し不安だが。糸の強度はスキルで見た目以上に上がるんだけど、元が元だからなぁ。



「しかし、クラーケン。イカかぁ。あー、釣れたら味見してもいいよな?」

「いいですよ。でもそうなると火を()こせるようにしておかないとですね」

「生で行けるだろ、新鮮なイカなら」

「……ルーカスさんは、新鮮なオークを生で食べたりしますか?」


 言われてみれば確かに食べないけど。


「いやでも、お刺身とかあるだろ? 海魚なら特に」

「お刺身ですか……私は食べたことないですね、お刺身」

「おいおい。お刺身とか最高に美味い――美味そうな食い方じゃないか。ほら、醤油とかもあるんだろ? なら醤油チョイチョイつけてぷりっぷりの切り身をパクーって」

「そうですね。確かにありますけど、高いんですよ」


 高い? 魚は普通に獲れるのに?


「えっと、釣った魚をその場でさばいて食べたりとかはしないのか?」

「まず魚にも毒があったりしますよね。これは別に【毒探知】スキルとかが無くても種類である程度は回避できるので、まぁいいです」

「うん」

「ですが、寄生虫というものがありまして」

「あー……寄生虫」


 前世でもアニサキスだかアニキサスだか言うのあったもんなぁ。サスオニ……これはちがうか。あれ、でも寄生虫は川魚とかが問題なんじゃなかったっけ?


「お刺身、漁師さんなんかは度胸試しでその場で食べたりすることもあります。大抵3日は寝込むそうですが」

「……なるほどな」


 前世でも海魚の寄生虫はいたけど、あれはそんなに問題がないからだったか。そうだ、たしか海魚の身体と人間の身体が大違いで、大体寄生できずに胃袋の中で死ぬんだっけ。

 でも異世界、特に陸でも活動できるクラーケンみたいなのがいるこの世界だと、寄生虫ももっと強力になっちゃってるんだろう。そうなると、やっぱり生食は問題があるってことになる。


「本来はお刺身にしてから【生命探知】系のスキルを使ってようやく安全が確保できるって代物ですからね」


 お刺身にする前は【生命探知】は魚自身に反応するんだろうな。つまり、新鮮に食べられるうちにスキル持ちを連れてきてスキルを使ってもらう必要がある。なるほど、そりゃ人件費が高い。


「しかも刺身で食べられる魚はごく少数なんです。大体寄生虫いますから」


 外れも多く、刺身としてちゃんと食べられる魚はレアなようだ。ますます価格が上がる。


「まぁ、さすがに火を通せば大丈夫です」

「そうなのか……」


 あれ? でも前世でも川魚の鮭を普通に刺身で食ってたよな? 寿司でもサーモンとかあったし。あとカルパッチョとかも生魚だったはず。これはどうしてたんだっけか……

 あ、そうだ思い出した!


「冷凍したり、お酢に漬けたりすることで魚の中の寄生虫は死ぬんじゃないか?」

「えっ、ルーカスさんどこでそれを聞いたんですか?」

「ん? いやぁどこだったか忘れたけど……何、秘伝だったりした? いやぁ偶然――」

「それ試して死んだ人もいるので絶対やっちゃダメですよ? まったく、よくあるデマなんですよね、迷惑極まりない」

「Oh……」


 おうふ。この世界の寄生虫は冷凍や酸にも強かった! たくまし過ぎる!

 でもタンパク質なのでさすがに火を通せば大丈夫……ということか。そうか、素人は大人しく焼けと。もしくは煮ろと。


「それなら大人しく焼き魚とか貝の壺焼きとかで満足するしかないかぁ」

「あ、でも中には火を通してもダメな魚もいますから、知らない魚は食べちゃダメですよ? 食べる前に私が見ますからね」

「お、おう。……じゃあそんときゃ頼んますぜ、ローラ先生」

「はい、任せてください」


 ぐふぅ。まぁローラがいて食べられる魚とかが分かるだけマシか。


「……あ、そういえばルーカスさん。【人形使い】で水中を見れたりってするんですか?」

「ん? ……見れるんじゃないか? 普通に、人形ごしに視界があるんだし」


 感覚のフィードバックとかも無いから、見てて目が染みるなんてことも無いはずだ。


「ちょっと思いついたことがあるので、試してもらってもいいですか?」


 ちょっとミルスを髣髴(ほうふつ)とさせるローラに、俺はとりあえず頷いた。



 そしてクッキーズ・ルアーバージョンが誕生した。


 よく考えたらクッキーズは元々体内に針を仕込んでオークに食わせるとかいう手段をとっていたのだ。それが釣り針になって魚相手になるだけ。

 あとはまぁ、中に(おもり)仕込んで適度に沈むよう調整し、形も魚が食べやすいように更に小さくとかとか。そんなかんじで完成した。


「水中で魚がどこにいるかとか、魚がちゃんとエサに食らいついたかとかが分かるじゃないですか。これは強いですよ!」

「釣り大会とかあったら相当なもんだろうなこれ」


 せっかくなので、俺達は釣りも楽しむことに。


 その日は結局クラーケンとは会わなかったが、イワノリと釣った魚で十分に稼ぎになった。特に魚。

 俺、釣りの才能あるかもしれん。いやまぁ遠隔操作も可能なカメラ付きルアーの力なんだけどね。


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