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011



 俺とローラが少し早目に待っていると、時間ピッタリに執事さんとメイドさん、お嬢様の3名が馬車に乗ってやってきた。執事さんが御者をしている……御者もできるとは、さすが執事だ。デキる男って感じがする。あるいは、この人こそ俺の目指すべきところなのかもしれない。


「お待たせしましたか」

「いえ、こちらが早めにきただけなので。依頼人を待たせるわけにはいきませんし」

「それは良いお心がけで」


 下手な冒険者は予定の時間に遅れてきたりもするらしい。

 だが良い大人で英雄の俺は時間をちゃんと守るのだ。……しかしメイドさんとか初めてみた。しかもメイドカフェのなんちゃってメイドじゃない、本物のメイドさんだ。

 本当にメイド服を着てるんだな……いやもしやこれも転生者が広めた……?


「……何か?」

「ああいや、すみませんなんでもないです。メイド服って初めて見たのでつい」

「そうでしたか。……あまりじろじろ見られると恥ずかしいので、控えめにしていただけると助かります」


 控えめなら見てもいいんですか、とか思ってたらローラにひじ打ちされた。


「ねぇリザ、英雄様はやはり大人の女性が好きなのかしら?」

「男性は大抵そうですよお嬢様。お嬢様も大人になれば分かります」


 だ、だんじておっぱいとか見てたわけじゃないぞ。


  *


 早速門番に挨拶して出発する。

 で、俺達だが、なんとお嬢様と同じ馬車に乗って移動することになった。

 一応俺達の足としてカカシと荷車も用意しておいたのだが、まぁ、こっちには荷物だけ載せておこう。カカシは馬車の中から動かせば良い。

 見張りについても馬車の外につけたクッキーズと視界共有でばっちりだ。

 こうして俺は、馬車の中に居ながら荷車をひいて、見張りもこなしていた。


「あれが【人形使い】ってスキル? 変な顔のカカシが歩いて荷車をひいてるわ!」

「お嬢様、指差すのははしたないです」


 キラキラした瞳で窓の外、馬車に並走して歩くカカシを見るお嬢様。

 ……そのカカシ、石膏像みたいなリアル顔でドロシーの自信作のひとつです。


「人間に近いほど効率よく動かせるんですよ」

「へぇ、そういうスキルなのね……んんっ、そういうスキルなのですね」


 思わず崩れてしまった言葉を、メイドにつつかれて直すお嬢様。


「あっ、ということは……もしかして、シュナイダーも動くのですか?」

「はい! 動きますよケイトお嬢様!」


 むふん、と力を込めて答えるローラ。その手には通常シュナイダー。既に糸は俺と繋いである。

 俺は、期待に応えてシュナイダーをぴょこんと立たせ、ローラの膝の上でぺこりとお辞儀させた。


「……! ……!!」


 声にならない歓声を上げるお嬢様。ぴょこぴょこと体が嬉しさを抑えきれずに揺れている。子供のお守りなら任せろー!


  *


 道中は丁度1日分の距離に宿場町があり、こりゃ馬車で移動する分にはテントや野宿はいらないわ、と感心した。実際テントまで持ってきてるのは俺だけで、お嬢様もローラもそこは身軽だった。……先に教えてくれよローラ。


 昼の食事は途中で馬車を止め、長閑(のどか)にバーベキューと洒落込んだりもして。一応護衛依頼中で酒が飲めないのだけがつらかった。まぁ、そもそも酒は持ってきてない。

 執事さんも御者をするから飲まないし。メイドさんもお嬢様の側付きだから飲まないし。お嬢様もお子様だから飲まないし。果実水は御馳走になったけど。


 ちなみに食事休憩中には人形劇をお披露目したりもした。

 広場でやるのとは違って手加減する必要もない。「ケイトお嬢様だけに見せる、特別公演だ」と言って見せてやれば、ぱぁっと顔を輝かせて拍手してくれた。

 執事さんとメイドさんもばっちり見入っていたあたり、さすが俺、さすがシュナイダーと言えよう。

 そしておひねり分だけ報酬が上乗せされるそうだ。俺としては既に報酬に含まれてると思っていたようなものだったので、予想外の嬉しいボーナスだ。ありがたく受け取っておこう。


 さて、そして肝心の護衛依頼といえば、これぞ本当になんの危なげもなく。

 町から離れた2日目で久々のゴブリンを見つけたものの、これをシュナイダーがあっさり退治。お嬢様にはちょいと血なまぐさいかとも思ったのだが、興奮気味に「さすがシュナ……ルーカス様!」と戦闘の素晴らしさを語ってくれた。


 ……うん、こんなオッサンよりシュナイダーの方が好きだよね、そうだよね。

 お嬢様の退屈しのぎこと、お話業務についてはローラに殆ど任せているのだが……着実にローラに洗脳されてる気もしなくもない。


 いいんだ、俺はシュナイダーの後ろに立ってる人で。



 そんな風に少しいじけることもあったが、特に何事もなく隣町へ到着した。

 

 ……いや、ホントに何もないんかい!

 ま、まぁゴブリンの襲撃はあったけど、それだけか! それだけしかないのか!


 こういうのはもっとこう、お嬢様の誘拐を企てる悪モノが出たりして俺の力の見せどころってやつじゃないのか?

 楽でいいけど、もっとこう、英雄っぽく活躍とかさぁ。貴族のお嬢様の護衛なんだぜ? カッコいいオジサマ的に考えて、何かイベントがあってしかるべきだっただろうに。

 ……くっ、これが現実ということか。


「おや? ルーカス様、残念そうですな?」

「ああいや、その。ちょっと気合いが空回りしただけですよ。何事もないのであればそれに越したことはありませんて。……ま、兵士や護衛は働かないで済むのが一番ですが」

「ははは、そうですな」

「……ご期待に添えましたかね?」

「今回、お嬢様の目的は噂の英雄、ルーカス様にお会いすることでしたから依頼を受けていただいた時点で十分期待に応えていただいてますよ」

「さいですか」


 ゴブリンよりも馬車に揺られての眠気が一番の敵だった。

 ローラ曰く、普通の馬車はもっと揺れるから寝てるどころか舌をかまないよう気を付けるべきという話だったが、さすがは貴族様仕様の馬車である。もはや馬車様である。


 初めての護衛依頼だっただけに拍子抜けしたのは否めない。が、依頼人がこれでいいって言ってるんだし、良かったって事にしよう。


 ……帰りに期待だな! いやいやほんと、何もない方が良いんだけど。


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