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009


「英雄、ルーカス様に依頼を出したいのだけど……ってちょっと聞いてるのかしら?」

「あ、はい。聞いてますよお嬢様?」


 おいおいミゲル。こっちをちらちら見るんじゃない、お嬢様(おきゃくさま)に失礼だろうが。

 俺はさりげなく近くのテーブルに座って聞き耳を立てる。


「それで彼はまだこの町に居るのかしら? それとももうどこかへ?」

「ええ、まだこの町にいますとも」

「そう! それでは彼に指名依頼を出せる?」

「ええ、ええ。可能です。まぁ、ルーカスさんが引き受けるかどうかは別ですけど」

「それは仕方ないわ。かの英雄ともなればそれはそれは忙しいのでしょうし」


 『英雄ルーカス様』に依頼ができると聞いて弾んだ声のお嬢様。

 ニヤニヤとこちらを見てくるミゲル。だからちゃんと受け付けしろよ。


「いやぁそんなこともないですよ」

「そうなのかしら? 特殊なヒュドラを倒した報奨金で悠々自適な生活を送っている、ということかしら」

「……当たらずとも遠からず、みたいな? 感じ? かもしれませんね? まぁ、個人情報なのでそこらへんは伏せておきますけど」

「まぁ! ということはやはりそうなのね? ルーカス様ともなれば当然ですか」


 ぼかして誤魔化したミゲルの発言をどう都合よく受け取ったのか、お嬢様は感心して「ほぅ」とうっとりしたため息をつく。報奨金をつぎ込んで買った土地で野宿してるあたり、言い方を変えればお嬢様の言うとおりといえなくもない。


「きっとそこの冴えない男とはちがって、一流の宿で一流の食事をとってるに違いないわ。そんな方に指名依頼を受けていただけるかしら……」


 どうもお嬢様は相当立派な英雄を想像しているようだ……なんつーか、その、冴えないオッサンでごめんね? と言いたい。

 おーいミゲル、適当に期待下げといて、と目配せをする。あまり期待が高すぎても困る。俺はそんなすごい人間じゃないんだ。無茶ぶりされたら困る。


「……いやー、案外適当な空き地で野宿して、安売りしてた保存食齧ってるかもしれませんよ?」

「そんなわけないでしょう、何言ってるのかしら」

「むしろ意外とこの町の名前も知らなかったおバカさんかもしれません」

「この町の英雄がこの町の名前を知らないはずがないでしょう? あり得ませんわ」


 うーむ、英雄の評判が固い。ミゲルの言う事実も通用していないな……だがここで本当の事をミゲルが言っておいてくれることで実物の俺へのワンクッションになるはず。はずだ、たぶん。


「まぁとにかく、依頼は護衛依頼よ」

「はぁ、護衛依頼ですか」

「ええ。スタンピードで大活躍し、1人で10人分の働きをしてモンスターたちを薙ぎ払ったという英雄ルーカスなら容易い事でしょう? 『単独軍隊(ワンマンアーミー)』という二つ名があるとか」


 10人分……そんな話になってたのか。えーっと、まぁ両手両足ともに全部カカシを操るなら丁度10体分だな。

 それと初耳だけど『単独軍隊(ワンマンアーミー)』とかカッコいいな。一人で兵士一部隊に相当すると。

 まぁ、その兵士たちはぬいぐるみ(シュナイダー)やカカシなんだけど。


「行き先はシーフォール。依頼料は……指名分も含めて、5人分出すわ」

「ほほう、そりゃいいですね。それならルーカスさんも受けてくれるかなぁ」

「本当は10人分出したいのだけれど、セバスが許してくれなくて」


 肩をすくめるお嬢様に、当然でございますと言わんばかりに頷く執事。セバスって名前の執事とかすごいはまり役だな……いや、執事のことをセバスって言うのか? 貴族関係は分からんがあり得る。


「ちなみにルーカスさんにはもう1人パーティーメンバーが居まして」

「あら、それならもう5人分出しても――」

「――1人分追加して、6人分まででしょう」

「仕方ないわね。では、セバスの言うとおり、それでお願いできるかしら?」

「はい、では詳しい依頼内容を詰めますか」

「……ふふふ。あの英雄にもうすぐ会えるのね! 楽しみだわ!」


 はしゃぐお嬢様。苦笑いのミゲル。知らん顔の俺。

 一応、ミゲルはこの場で正体をばらしたりはしないらしい。ある程度は英雄らしく体裁を取り繕って稼いでくれ、ということか。……ま、ローラと相談しないと受けるも受けないも答えられないのもあるからな。

 別に日帰りじゃない依頼だって初めてじゃないし、たぶんOKだとは思うけど……



  *


 その後、早速ローラがギルドに顔を出してきたので、相談することにした。

 かくかくしかじか。


「というわけで、数日がかりの護衛を指名依頼されそうなんだが、どうだローラ?」

「……お賃金はどれくらいもらえるんですか?」

「指名料込で、2人で6人分とか言ってたな」

「6人分……! いいじゃないですか、受けましょう」


 ローラも乗り気なので、あっさりと依頼を受けることが決まった。

 久々に稼ぎの目途が立ったので、ちょっと一杯飲んでもいいかな? なんて思ったり。

 ……少しくらい良いよね?


「ちなみに私もルーカスさんの二つ名について面白いの聞きましたよ」

「ん? たとえば?」

「『孤高のサーカス』とか『劇団ひとりぼっち』とか」


 なるほど、人形劇で稼いだあたりの二つ名が関係してそうだな。

 ……でも『劇団ひとりぼっち』はちょっと悪意を感じねぇか? 特に『ぼっち』の部分が。ぼっちじゃねぇし! パーティーメンバーいるし!


「あ、私を含めての二つ名もありましたよ、『(おさな)妻ハンター』とか」


 ブフゥッ! と思わず吹き出す。

 幼妻、って。それローラか……? ローラならまぁ確かに幼妻って感じだけど……

 いやいや、親子ほど年が離れてるだろ実際。


「……まぁもしかしたらミルスさんかもしれませんね、『ロリコン』とかもありましたし。さすがに私はロリとは言い難いですからね」

「そうかい。まぁ、次聞いたら文句だけつけといてくれ、言わせとくといつの間にか定着しちまうからな。……ったく、俺はロリコンじゃねぇっての。あとミルスもちゃんと大人だろ」

「へー、ルーカスさんはロリコンじゃないんですか?」

「俺はちゃんと大人な女が好きなまっとうな男だから!」


 おっぱいとかお尻とか好きだから!


「それにしても……ルーカスさん一人で決めないでちゃんと私に相談してくれて、嬉しいです」

「そりゃ相談するだろ、パーティーメンバーなんだし。相棒だし」

「そうですよね! 相棒ですもんね! 相方ですもんね!」

「お、おう? おう」


 なぜか嬉しそうなローラ。……この間、先にミルスを頼ったことまだ怒ってたのかな?


「これからもちゃんと! 私に! 相談! するんですよ? 一番に。いいですね?」

「あ、ああ? そうだな、パーティーの大事なことはちゃんと相談しないとな」

「はい、2人の大事な話なんですから、ちゃんと相談してくださいね」


 ローラって良い奥さんになりそうだけど絶対旦那を尻に敷くタイプだと思った。

 ……まぁローラ相手なら、敷かれても旦那はよろこびそうかな?



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