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008

 大道芸人広場での荒稼ぎは出来なさそうなので、やっぱりここは基本に立ち返って冒険者として頑張ろうと思う。

 なんだかんだ言ってもやっぱり俺ってば根っからの冒険者だからな。……でも丁度いい仕事がない。


「ルーカスさん、お酒飲んで売り上げに貢献するって気はないんですか?」

「無い!」


 というわけで、俺は今日もギルドで水を飲んでいた。


「つーか、酒場の酒ってやっぱりボッタクってないか? 酒屋で買って帰って飲んだ方が安上がりだろ」

「そりゃ酒場だって酒屋でお酒を買ってるんですから多少上乗せしなきゃ儲け出ませんって。当然じゃないですか。あと場所代と雰囲気代ですよ」

「なるほど。あとツマミの料理もあるもんな」


 まぁなんにせよ節約せねば、というわけでここのところ禁酒状態である。風呂だって毎回ミルスんとこ借りるわけにもいかないしな。


 というかミルスのところに風呂がついてるのは特別なのだ。

 ミルスの家に行ったとき普通に風呂がついてたから借りたけど、普通の一般人は風呂については個人風呂など使わず、数日に一度公衆浴場へ行く程度。日頃はせいぜい濡れタオルで体をごっしごっし拭くくらいで済ます。


 が! 今の俺は日本人の記憶がある。だから風呂には入りたい!

 お風呂大好き日本人の魂が囁くのだ、『ルーカスよ、毎日風呂に入るのじゃ』と。まー、前世の記憶を漁ると? 数日間風呂にも入らず仕事してたことも多々あったりするけど、それはそれ。


 ミルスは『かまどの廃熱を利用した個人風呂』という、お風呂大好き日本人垂涎の設備を自宅に備え付けていた。もうね、毎日風呂入り放題とか最高だよね。なんだろう、やっぱりミルスって頼りになる。家と風呂目当てに結婚したくなってしまう……いや、しないけどね?


「とにかく今は先が見えないからな、金を節約せにゃならん」

「はぁ、人間としては良いですが冒険者なんですからもっと日々の生活も冒険しましょうよ、宵越しの金はもたないとか言って全財産飲み明かすとか」

「ミゲルは俺に破滅してほしいのか? というかいい具合の討伐依頼とかないのかよ」


 水も飲み終わったし、適当に仕事を探す作業に戻ろうと思う。

 俺は依頼等の受付カウンターに移動して、改めてミゲルに依頼が無いか尋ねた。

 ……飯の方のカウンターでも話聞いてくれりゃいいのに、まぁ、依頼票とかこっちのカウンターじゃないと無いんだろうけど。


「えーっと、山のオオカミならありますけども」

「モンスターは?」

「常設依頼だけですねぇ」


 常設依頼、つまり狩ってきたら報酬あげるよってやつだ。つまり今はどこにも問題を起こすようなモンスターが出てこないということ。少なくとも、この町の周辺では。


「商売あがったりだなぁ」

「スタンピードであれだけいたはずのモンスター、どこに消えたんでしょうね?」

「知るかよ、そういうのは学者が考えて調べる事だろ」

「ま、そうですね。冒険者には現実問題としてモンスターが居なくなってるってのだけが重要ですか。平和って素晴らしいですね?」


 だが平和だと俺が狩れるゴブリンやオークが出てこない。平和が憎い……


「というか、そういえば最近他の連中あまり見ないんだけど……」

「そりゃそうですよ、仕事ないんですから」

「……仕事が無くてもここの酒場でクダ巻いてたイメージしかないんだが」

「それでもモンスター相手にするような人たちはみんな他の町や開拓村に稼ぎに行ってますし」

「ふぅん……」


 どうやら俺がイノシシを狩ったときに居た4人組や、スタンピードの時に居た【飛行】持ちとかは、この平和を見越してさっさと他の町に行ってしまったようだ。

 モンスターが少ないこの時期を逃がさんとばかりに、開拓村も活発に森を切り開いているのでそっちに出稼ぎや永久就職(村に家を貰う的意味で)したりもしていると。


 うーん、俺もドロシーの村に家立ててもらった方が良かったかもしれない……いや、今更そんなこと言えないよなぁ。はぁ。

 ……って、あれ? ドロシーはなんで自分の村の開拓ほっぽり出してミルスん家に居候してんだろ。あいつ村長の娘だろ? ホント意味わかんない。



 と、ふとひとつ思った。


「……そういえば俺、他の町とか行ったことないな」

「あれ、ルーカスさんも行くんですか? 道中の食事に保存食はいかがです?」

「まだ余ってんのか。というか、他の町とか名前も知らないんだが俺」

「え? ……いやいやいや」

「むしろこの町って何て名前だっけ?」

「いやいやいやいやいや」


 ちなみにこの町はドラヴールという名前らしい。ほのかに猫型ロボットっぽい雰囲気……いや気のせいか。


「なんで自分の住んでる町の名前知らないんですか……」

「町から全然出ないし……使ったことないんだよ、町の名前」


 前世でだって、日頃の会話で地球とか言わなくてもなんとでもなる、そんな感じ。もっと言えば前世も世界の名前までは知らなかった。『日本』は国の名前、『地球』とかは星の名前として知ってるけど、世界(・・)の名前って知らないだろ普通に。

 で、情報速度の遅かった戦国時代とかは『地球』って名前を知らない人も多々いたような感じで、今世の俺は町の名前を知らなかった。ただそれだけの話だ。


 ……異世界って概念があるんだし、どっかに前世の世界を指す単語とかあったんかなぁ。


「そこの冴えない男。邪魔よ、退いてくださる?」

「あん?」


 そんなことを考えていたら後ろから冷えた水のような声を掛けられた。

 振り向いて見れば、そこには身綺麗な格好の綺麗なお嬢さん。ついでに後ろには執事が付いている。これは貴族っぽい。いかにもな貴族令嬢。……ちんまいお子様だけど。


「聞こえなかったのかしら。そこの冴えない男。邪魔なの、用が済んだのならさっさと退いてくださる?」

「……まぁ退くけど」


 子供に二度も冴えないと言われてしまった。自分の冴えなさ加減は自覚してるから大人しく譲ってやろう。明らかに冒険者じゃなさそうだし、十中八九依頼人だ。依頼人に噛みついてもなんも良いことはない。

 なにせ冒険者にとって依頼人は、金をくれるお客様とかスポンサーとかだからな、よほどでなければ尻尾振ってた方が得ってなもんだ、わんわん。……シュナイダー的にはにゃーんかな?


「ふん、冴えないと言われて言い返しもしないだなんて。それでも男なのかしら」


 女の子に優しく場所を譲っただけで何という言い草か。

 さすがに何か言い返そうかなぁと思ったが、お嬢様はすでにカウンターに向かって依頼の発注書を取り出していたので諦めた。


「英雄、ルーカス様に指名依頼をしたいんだけど。彼はまだこの町にいるかしら?」


 ……ん? お嬢さん、それ冴えない男だけど大丈夫?


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