004
「狩場を変えるか」
「……賛成です」
と、いうわけで森での狩りを諦め、山の方にやってきていた。
ここら辺はモンスターは出ない。が、その分動物が出るのだ。……オオカミとか、大イノシシとか。
動物は魔法を使ってこない分モンスターより楽だ、などということは一切ないので気を抜けない。むしろオオカミとか連携が怖い。
「というか、オオカミとゴブリンだとオオカミの方が強くないか?」
「それはありそうですね」
荷台に俺達を乗せ、カカシが山道を進む。
これでオオカミの襲撃とかを気にしなくて良いならすごく長閑な光景なのだが……ローラはシュナイダーを膝に載せつつも弓をいつでも使える状態にして、油断なくあたりを警戒している。俺も糸つなげたクッキーズを安全ピンで服に縫い付けて全方位を見回している。死角は……ほぼない。あるとすれば地面の下だろう。モグラみたく地面を潜ってくるやつはこの辺りにはいないから、実質完璧といえよう。
ついでにリュックの中には予備のカカシとシュナイダーが入っている。
「荷運びの依頼も一緒に受けとけばよかったかな」
「それだと日帰りできないんじゃないですかね。野宿の準備が必要かと」
「それもそうか……っと」
そうして俺達は進んだ先にオオカミの小さな群れがいるのを見つけた。
目が合った、かと思ったがそれはクッキーズの一体の視界だった。これならあちらは目が合ったとは思うまい。気付いてないふりをしつつ先制攻撃といくか。
「ローラ、お客さんだ。前方、右の方」
「はい、了解です」
右側、草木の影からこちらを窺っているオオカミ4匹。場合によっては襲ってくるかもしれないし、そうでないかもしれない。襲い掛かってくる基準としてはこちらの人数とか、油断してるかとか。
こちらはカカシが1体と、荷車には俺とローラとシュナイダー。クッキーズはカウントしないとして、オオカミの襲撃を誘うならシュナイダーは1体までといったところか。
シュナイダーは一見弱そうだからリュックから2体目を出しても大丈夫か? 微妙かな。
「ローラ、先制攻撃を頼む。逃げちまうかもしれないが」
「稼ぎ的に考えて逃がしたくはないですが……行きます」
ローラはオオカミに向けて矢を射る。番えてから1秒もかかってない速射だったが、オオカミの「キャウン!」という悲鳴が聞こえた。
ちゃんと狙ってないとはいえ、何気に矢を撃つのが早いな。【裁縫】スキルと関係してんのかな。
「お、当たったみたいです」
「当てる気なかったのか?」
「当たったらいいな程度ですよ。……と、出てきましたよルーカスさん」
「おう。お客さんはお帰りにならないようだ。よしいけっ、シュナイダー!」
俺は、仕返ししてやると言わんばかりに出てきたオオカミに、シュナイダーをけしかけた。
*
戦闘を行った結果、オオカミ4匹は無事討伐――いや、無事とは言い難いか。シュナイダー1体の犠牲の下に討伐が完了した。
「うう、シュナイダー……」
いやその、ごめん。ゴブリンやオークの時の癖でついうっかりシュナイダーを最前列にしちゃったけど、相手がオオカミだと基本的に噛みついてくるからカカシを前に出さなきゃならなかったんだ。
おかげでシュナイダーは右手の剣と左手の爪で2匹を倒しつつも腕をもがれて戦闘不能に。返り血が腕がもがれた断面にびしゃりとかかったところが妙に生々しい。
シュナイダーの頭に噛みついていたやつもカカシが倒したが、牙で穴が開いてしまった。
……最後の1匹はローラが弓矢でトドメを刺したけどな。最初に矢が刺さって弱ってたやつだ。
そんなわけで、今のシュナイダーは、控えめに言って、ボロボロになっていた。
「その、ええっと。ごめん……」
「謝らないでくださいルーカスさん。シュナイダーは立派に戦ったんです……!」
オオカミの唾液や返り血にまみれたシュナイダーを抱きしめ、ローラはさめざめと泣いている。
「……ちゃんと元気になりそうか?」
「とりあえず、血の付いた綿を交換して……頭の布も交換しないと、ここだとさすがにツギハギは不格好になっちゃいますし……腕の方はまぁなんとかなりますけど……」
「治るんだな、よかった」
尚、修理できそうか? とかは言ってはいけない。
「はい、それはもちろん一晩もあれば。ただ……オオカミ4匹分の報酬、半分は飛びますね」
「半分はデカいな……」
俺とローラで分割した後に差っ引いたらスッカラカンになってしまう。まぁ、実際はシュナイダーの修理費は経費で折半なので1匹分ずつとなるけど。
ちなみにこれがカカシだと頭以外は折れた棒とかをちょいちょい交換するだけなので圧倒的に安上がりなのだ。そこらへんで拾った枝と交換でも十分だったりする。
「次からはカカシで行くか」
「そうですね……シュナイダーの活躍が見られないのは残念ですが、動物相手ならそっちの方がいいです。あと軽く水洗いしたいので近くの川に行きましょう……っと、またお客さんが来たみたいですよ」
連戦か。俺は荷台に置いていた荷物からカカシを取り出す。代わりにシュナイダーを荷台に寝かせて、っと。
「さぁかかってこ――ってちょっとまてぇ!?」
「しゅ、シュナイダーーーー!?」
新たに襲撃してきたオオカミは、俺とカカシとローラをすり抜けて、荷台に横たわっていたシュナイダーを咥えて持っていこうとしやがった。
危うく持ち去られるところだったが、とっさにローラが弓矢で攻撃。シュナイダーを救うべく射られた矢は見事オオカミの頭に刺さり、救出に成功した。
が、貫通した矢がシュナイダーにも刺さってたり血や唾液がしっかり染み込んだりと、後々の手入れを考えると最悪な状態になってしまったので、無事救出、とは言い難い状態になってしまった。
「な、なんでシュナイダーを狙ったんでしょうか?」
ボロボロ具合がさらに悪化したシュナイダーを抱えて半泣きのローラ。いたたまれない気持ちになりつつ、俺も原因を考える。
「……血の臭いがシュナイダーからしたからとか?」
「……お肉扱いですか。なるほど」
傷口(もがれた所)から血(返り血)のニオイをぷんぷんさせてピクリとも動かないシュナイダーは、オオカミにとって美味しそうなお肉に見えたんだろうか。
「その血、オオカミの血なんですけど。共食いになるんじゃ?」
「まぁ推測だから……実際どうなのかは知らんし」
結局、この日はギリギリプラス収支にはなったものの、動物相手に戦うノウハウが無くシュナイダーがボロボロになってしまった。
カカシの修理は簡単に済ませたからいいとして、これでは家を建てるどころではない。
ましてやシュナイダーがボロボロになるとローラが泣く。これはよくない。俺の精神衛生的にもよろしくない。
どうにかして安定して稼げないもんか。俺は治療(修繕)が終わって帰ってきたシュナイダーをローラから受け取りつつ、いい手がないか考えていた。




