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001

 俺は冒険者ルーカス(40歳)。オッサンだけど異世界転生をした元日本人だ。

 先日のスタンピードでヒュドラ・バジリスクなる怪物を討伐し一躍英雄となった男でもある。褒め称えてくれてもいいんだぜ?


「ちょっとルーカスさん、今いいかい?」

「な、なんでしょうか大家さん」


 そんな俺だが、今日はアパートの自室玄関において、大家さんを出迎えていた。


「すごーく心苦しい事聞くんだけど、ルーカスさん、ここ出ていく予定じゃなかったかい? 家を買ったとか言ってたじゃないか」

「……ええまぁ。ちょっと奮発して」

「それで先週中には出てくって話だっただろ? いやまぁ、今月分は家賃貰ってるから居てもらってもいいんだけどさ」


 そう。家を買った。大家さんにも自慢してた。それで出ていくって話もしたんだった。


「それが、その、買った家が……倒壊しまして」

「倒壊!? いったい何があったんだねそりゃ」

「いやぁ……ちょっと手前のポカでやらかして、うっかりでつい……」

「あー。まぁ、ルーカスさんがやらかしちまったと。さては酔っぱらって家とモンスターを見間違えて退治でもしちまったんだ?」

「……まぁ、そんなところで」


 実際はマイホーム・ハイになっていた俺が【人形使い】スキルで家を動かそうとしてそのまま崩れ落ちてしまったっていうわけだが、そこまで言う必要はないだろう。


「そんなわけで、もう少し居させてもらえないかなと……」


 俺がそう言うと、大家さんは顔をしかめた。


「……それがねぇ、ごめんよルーカスさん。ルーカスさんが出てくって話だったから来月からの入居者募集してたんだよ」

「ええと、それはつまり」

「で、英雄の入居してた部屋だってんで、募集と同時に決まってね?」


 なんてこった! 英雄としての名声がこんなところで俺に牙をむくとは!


「そこをなんとか!」

「せめて空いてる部屋があればよかったんだけど、英雄のアパートってことで空き部屋も埋まっちゃっててね。おかげさまで」


 ちくしょう英雄としての名声め!! もっと俺のことを考えろ!


「しかも家賃、今の2倍払ってくれるんだって。乗るしかないじゃない? この勢いに」

「ぐぬぬっ!」

「英雄のアパートって価値がある今のうちにね、こう。分かるだろ?」


 確かに、大家さんも無理やり追い出そうっていう話じゃなく、俺が出てくって言ったから次の予定を入れただけなんだ。つまり悪いのは俺。調子に乗ってマイホームを倒壊させた俺が何よりも悪い。せめて倒壊させたその日のうちに一言言っておくべきだった。


「というわけで、すまないけど今月中にはどうにかしてくれないかな。金はまだあるんだろ?」

「……わ、わかりました。適当に宿をとるとします」


 実はすっからかんというのは……言えないなこの空気。だって英雄だもの。英雄が金欠とか洒落にならんでしょ。あんだけ大金もらっておいてもうスッカラカンとかさぁ。

 あーもうバカバカ! 見栄を張っちゃう俺のバカ!

 どうしてここで土下座して頼めないんだ俺は! このええかっこしいめ! ……しいってなんだろ。(現実逃避)


 そんなわけでアパートを出ることになった俺。

 今月いっぱいはアパートが使えるが、今月中に何とかしなければならない。

 俺はふらりふらりと俺の土地まで歩いてやってきた。


 ……家が無いわけではない。いや、家はないけど土地がある。だから野営用のテントを張ればそこが家になると言って過言ではない。よって家はあるのだ。


 そんなわけで試しに元ルーカス邸のガレキを端に寄せ、中央にテントを張ってみた。

 イッツマイハウス。風通しのいいイカした我が家だ。防犯もなにもあったもんじゃない。


「はぁぁ……」


 ……ため息しか出ない。俺は洗濯も終えて帰ってきたシュナイダーを枕にしつつテントの中で横になる。シュナイダーからはローラと同じニオイがふわりと鼻先をくすぐった。……そうだな、洗剤とか同じだもんな。


 とりあえず金が足りない。どっかで金を借りるしかないだろうか。

 ……事情を知っていて頼りになりそうな存在といえば。うん、ミルスだな。

 なにせミルスは一人前の鍛冶師で、自宅兼店を持っていて、しかもドロシーという居候をすでに抱えている実績がある。


 冒険者のパートナー的にはローラに助けてもらうのも考えられなくもないわけじゃないが、ミルスが圧倒的に頼りになりすぎるんだよなぁコレ。

 やっぱり持ち家があるってのはデカい。あとローラに金を借りるのはなんか嫌だ。男として。


「よし、行くか。……ミルスん()に!」


 俺は枕にしていたシュナイダーを抱え、ミルスに相談に乗ってもらうことにした。

 助けてくれるって言ってたしね!



  *


「というわけで助けてくださいミルス様」

「しょーがないなぁルーカスさんは」


 ミルスの鍛冶屋に着くや否や早速頭を下げたところ、ミルスは快く援助を約束してくれた。さすがミルスだ頼りになるぜ。

 ドワーフだから見た目こそ幼女だけどその頼りになりっぷりは歳相応――すみませんなんでもないです。女性に歳の話とかするわけないよね。


「それに、アタシにも原因が無いわけじゃないしね……とりあえず近所の大工さんに頼んで荷物のおける物置小屋くらいは建ててもらおうか? 鍵は私が作ったげる。あ、代金はツケておくけどいいよね」

「おお、あ、ありがとうミルス……!」

「あとは、うちのお手伝いとかしてもらえると助かるんだけどー?」

「よし! 任せとけ、力仕事とか手伝えることはあるはずだ!」

「うんうん、期待してるよルーカスさん」


 交渉成立。俺とミルスはぐっと握手を交わした。

 と、そこにこの家の居候、ドロシーがやってきた。


「何、ルーカスさんもウチに住むの?」

「ようドロシー。っていうかドロシーの家じゃないだろ」

「アタシは別に構わないけどー?」

「……さすがに女2人しかいない家に転がり込むとか、外聞が悪いだろ」

「そっか。じゃあ結婚しとく?」

「しねぇよ!?」


 ミルスの冗談に思わずツッコミを入れる。


「まー2、3日くらいなら大丈夫だよ。装備の調整を泊まりがけでやることとかもあるし」

「そうなのか?」

「鍛冶屋だからね。普通は女性冒険者御用達なんだけど、ローラとの縁ってことで」

「……やっぱり駄目じゃない?」

「大丈夫だよ、アタシは男に対応できないヘボじゃないってことくらいみんな知ってるから。鍛冶の腕は伊達じゃないよ? 半端な男が手を出してきてもハンマーでガツンだよ。あ、ルーカスさんなら責任とってくれるんだったらいいけど?」

「お、おう、安心しろ俺は手を出さないから」

「ちぇー残念」


 ひらひらと手を振って笑うミルス。


「ま、シュナイダー関連のギミックとか作ったのアタシだし。いわばルーカスさんの御用達鍛冶師なんだから問題ないない。普通にお仕事の話ってなるよねコレ」


 まぁ実際ミルスは腕のいい鍛冶師だし、そこらへんの信用もご近所さん含めあるのだろう。……あと、『英雄』である俺もそう変なことはしないっていう信用にはなるとのこと。


 そんなわけで、俺は俺の土地に物置小屋ができるまで、3日ほどミルスの鍛冶屋でバイトをすることになった。

 さすがに泊まりじゃなくてアパートからの通いだったんだが……


「……うぐぉおおおお……」

「ドロシー、湿布貼ってあげてー」

「はいはーい。ほら、背中出して」

「や、優しく頼む……おうっふ!?」


 3日目、俺、筋肉痛によりダウン。張り切って自分に【人形使い】スキル使って重い物運びまくったのはよかったが、体が耐え切れなかったようだ。

 指1本分のパワーだと通常と変わらないから指2本分使ったんだけど、ダメだったよ……全身筋肉痛だよ。しかも一日遅れだよ、歳のせいだね……

 でもぎっくり腰じゃないだけまだマシだといえよう。2日目までは動けたのでバイトとしては及第点だったとしてくれたミルスの優しさにも感謝。

 ただし「筋肉痛な上でさらに過剰に使ったらどうなるのかな? ね、ね、バイト代弾むからさぁ」とかいう悪魔の声は聞こえなかったものとする。



 まぁ、こうして一応、荷物を置ける物置小屋を建てることができた。

 あとは家本体だな……!


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